コラム「透視図」

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未来投資戦略

2017年6月13日

 自信を持って始めた事なのに周囲からは理解も協力も得られず、にっちもさっちもいかなくなる。そんな経験の一度や二度、誰にでもあるのでないか
 ▼当方はそんなとき、二宮尊徳のこんな言葉を思い出す。「尊い大道も、文字にして書物にしただけでは、世の中を潤すことなく、役立つことはない」(『二宮翁夜話』PHP研究所)。書物は氷のようなもの。そのままで水のように役立つわけがないとの教えである。書物も事業計画も同じだろう。翁は続けてこう説く。凍った書物は「胸中の温気によって、その内容をよく溶かして」元の水に戻して使いなさい。つまり、ありがたい言葉の羅列で満足するのでなく、日々実践するための具体策を考えることが大事というのである
 ▼さてその点、こちらは翁のお眼鏡にかなうものになっているかどうか。政府が先週、新たな成長戦略「未来投資戦略2017」を閣議決定した。タイトルは「Society5.0の実現に向けた改革」。最初から手ごわい氷である。この「5.0」、あらゆる産業や社会生活にIoTやAI、ロボットといった革新技術を取り入れ、さまざまな課題を解決するらしい。実にありがたい話ではある
 ▼ただ、政府や官僚は氷を作るのは得意だが、溶かして使いやすい水にすることは苦手である。それも踏まえてか、新戦略には失敗を恐れず挑戦できる仕組みもあるそうだ。アベノミクス第3の矢となる新戦略である。未来の日本の隅々にまで行き渡る豊かな水になるのか、凍った書物のまま終わるのか、政府の胸中の温気やいかに。

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前川文書再調査

2017年6月10日

 トランプ米大統領はその名前に反し、カードゲームはあまりお得意でないのかもしれない。大事な場面で深慮なく手の内を見せてしまう傾向があるようだ
 ▼就任後、コミー前FBI長官を手なずけようとしたときもそうだったらしい。コミー氏を夕食に招き繰り返し自分への「忠誠」を求めたという。別の日にはロシア米大統領選干渉疑惑の渦中にあったフリン前大統領補佐官の捜査中止を迫ったこともあったそうだ。「ババ抜き」ゲームの最中に、ジョーカーを見せながら相手にそれを引けと言っているようなもの。分かりやすい圧力である。コミー氏がおととい、米上院情報特別委員会の公聴会でトランプ氏とのやりとりを証言した。コミー氏はその内容を詳細に記録していたらしい。いわゆる「コミー・メモ」である
 ▼どうやら昨今は洋の東西を問わず、秘密のメモがはやっているようだ。日本でも加計学園問題で官邸サイドの不当関与を告発した前川喜平前文科事務次官の「前川文書」が大層な話題である。前川氏は「文書」を証拠に、獣医学部新設が国家戦略特区の枠組みを無視し「総理のご意向」で進められたと批判。前川氏のスキャンダル情報とも相まって、開催中の「YOSAKOI」さながらマスコミや国会はお祭り騒ぎである
 ▼松野文科相はきのう、「文書」の再調査をすると発表した。徹底して調べるといい。コミー氏との違いは前川氏が「文書」作成の当事者でないこと。その人物が判明すれば、本当は誰が誰にジョーカーを引かせたかったのか、はっきり見えてくるのではないか。

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ハインリッヒの法則

2017年6月9日

 本紙の読者なら、ハインリッヒの法則はよくご存じのことと思う。1件の重大な労働災害・事故の裏には29件の軽微な災害・事故があり、さらにその背後に300件のヒヤリハット経験が隠れているという法則である
 ▼重大事故はたいてい、突然発生するように見えるが実はそうではない。ヒヤリハットを無視した上、軽微な事故を何の対策も取らず放置するか隠蔽(いんぺい)した結果、呼び込んでしまうのである。茨城県にある日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターで6日起きた放射性物質汚染事故も、そんな安全軽視体質の表れではないか。事故隠しや虚偽報告、そんな暗い過去を持つ組織である
 ▼事故は作業員5人が燃料研究棟で容器の点検をしていた時に発生した。ふたを開けたところ中の袋が破裂し放射性物質が飛び散ったという。全員が被ばくし、うち1人の肺からは2万2000ベクレルものプルトニウム239が計測されたそうだ。直ちに健康被害はないらしいが、本当にそう願いたい。東電福島原発事故調の元委員長畑村洋太郎氏が、『決定版 失敗学の法則』(文春文庫)で機構の前身である動力炉・核燃料開発事業団について考察していた
 ▼氏は1995年の「もんじゅ」ナトリウム漏れ事故を例に挙げ、組織に問題を隠す体質があると指摘。原子力に悪い印象を持たれたら終わりとの強迫観念がそれをつくったと分析している。あれから20年以上たち組織の形も変わったが、肝心の体質は…。隠された29や300がまだあるとすれば、不幸は今回の事故だけでは済まない。

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父親にしたい?

2017年6月8日

 英文学者で作家の吉田健一氏はある時から、父のことが「もう一人の自分だといふ気がしてならない」と思うようになったそうだ。随筆「父のこと」で述懐していた
 ▼父とは戦後占領期に日本のかじ取りをした吉田茂首相。その晩年のころの話らしい。「父と自分の区別が付け難くなつて、旅行などしてゐると大磯のもう一人の自分はどうしてゐるだらうと考へたり」したそうだ。よほど生々しい感覚だったのだろう。日本生命保険がおととい、「父親にしたい有名人」のアンケート結果を発表した。18日の「父の日」にちなんで実施したものである。眺めながら考えたのだが、こちらの回答者も実は父親を拡大鏡にして、理想の自分という「もう一人の自分」を見ているのではないか
 ▼1位は親しみやすく多彩な才能を持つタレント所ジョージさん、2位が孤高の天才メジャーリーガーイチロー選手、3位が「永遠の若大将」俳優加山雄三さんだったそう。いずれも印象としては父親というより憧れの存在だろう。アンケートは40、50歳代を中心に全世代の男女約7600人を対象にしたものだという。発表は10位までだがタレントと野球選手、俳優で全ての席を占めている
 ▼設問が「父親にしたい著名人は誰ですか?」なのだから、このところテレビで見ない日はない政治家の面々の名が出てきてもよさそうなものだが、お声掛かりはないようだ。たぶん「もう一人の自分」たる理想の自分とは重なり合う部分がないのだろう。まあ、与野党が連日低レベルの争いを繰り広げる今の国会では無理もないか。

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いじめの有無で右往左往

2017年6月7日

 戦前の詩壇で活躍した余市出身の詩人に左川ちかがいる。病気のため24歳の若さで世を去ったとき、萩原朔太郎が「女流詩人の一人者で、明星的地位にあった人であった」と早すぎる死を悼んだという
 ▼代表作の「緑」は20歳のころに書かれた詩だが、中にこんな一節があった。「視力のなかの街は夢がまはるやうに開いたり閉じたりする/それらをめぐつて彼らはおそろしい勢で崩れかかる/私は人に捨てられた」。言葉通りの解釈なら崩れかかる「彼ら」とは山の「緑」なのだが、当然そればかりではないはずだ。若い心は鋭敏である。自分を取り巻く人々や社会といったさまざまなものがその時、詩人の心象風景には去来していたに違いない。何せ最後に「私は人に捨てられた」との重い一言が続くのである
 ▼2015年にいじめが原因で自殺した茨城県取手市の中学3年生中島菜保子さんも命を絶つ直前、やはりそんな絶望感に陥っていたのだろう。学校という閉じた世界の中で、どれだけ苦しんだことか。問題は不幸がこれで終わらなかったことである。本人の日記や同級生の証言があったにもかかわらず、市の教育委員会は翌16年、いじめに該当せずと決定を下したのだ。ご両親にしてみれば、娘が二重に「人に捨てられた」ようなもの
 ▼遺族の訴えもあり、市教委は最近になってようやく昨年の決定を撤回し、いじめの疑いを認めたという。ところが「いじめに該当せず」の決定に至る経緯をつまびらかにするつもりは全くないらしい。どうやら教育委員会自体も崩れかかっているようである。

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