コラム「透視図」

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ハンソル氏の動画

2017年3月10日

 時代小説作家柴田錬三郎に、短編「殺生関白」がある。石田三成が政敵を陥れて切腹させた上、その一族郎党を全て根絶やしにしてしまう話である
 ▼三成は「夫人のお末の方と三人の子供を、三十余人の寵妾もろとも」首をはねてしまう。将来に禍根を残さぬよう血縁を中心とする者たちを殺し尽くすこの手法は、封建時代の中国で行われていた「族滅」が伝わったものらしい。日本に根付かなかったのは幸いだった。物語にはまだ先がある。縁者は残らず殺されたはずだったのだが、とっさに機転を利かせた家来の一人が世継ぎの君に死んだふりをさせ、助け出していたのだ。命さえあればお家の復興は無理でも血筋が絶えることはない
 ▼まあ、絵空事。現実にはそんなにうまくいくわけがない、と言いたいところだが事実は小説より奇なり。北朝鮮の金正男氏が暗殺された事件で、安否が気遣われていた正男氏の息子ハンソル氏が素顔のまま画面に登場する動画が、脱北者支援団体のHPに掲載されたのである。ハンソル氏はパスポートを示しながら素性を明かし、殺されたのは父であると断言した。動画はすぐ全世界に拡散されたようだ。権力基盤を固めるため兄を殺害したと疑われている金正恩朝鮮労働党委員長にとってはかなりの痛手でないか。殺されたのは正男氏との証言で北朝鮮の面目は丸つぶれになった
 ▼「殺生関白」は、成長した世継ぎの君が三成を見事討ち取って終わる。三成はこうつぶやいていた。「わしは、怖かったのだ」。金委員長もそうだろう。包囲網は着々と狭まっている。

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クロネコブーム

2017年3月9日

 ここ数年、空前のネコブームが続いている。関連商品やサービスも出せば売れる状況といい、「ネコノミクス」なる言葉まで生まれているそうだ
 ▼その流行に乗ったつもりもないのだが、当家でも最近、黒ネコを飼い始めた。エサだおもちゃだ砂だと、確かに出費はかなり増えた。しかし、かわいい。皆川おさむさんの往年のヒット曲『黒ネコのタンゴ』の一節、「ぼくの恋人は黒いネコ」を実感している毎日である。こちらもある種のネコブームと言えるかもしれない。「クロネコヤマトの宅急便」の宅配便最大手ヤマト運輸の「宅急便」取扱実績が、2017年度2月末で約17億1000万個に上り、3月期末では過去最多を記録する見込みなんだとか
 ▼恋人ではないにせよ、今や日常生活や仕事には欠かせない相棒のようなものだろう。そのヤマト運輸が、27年ぶりに基本運賃の値上げを検討しているそうだ。インターネット通販の急増に配送体制が追い付かず、サービス維持が困難になっているためという。アマゾンなどをよく使う当方にとっても人ごとでない。ただ常々、なぜ安い商品まで送料無料にできるのか疑問に思ってはいた。要は配送業者にしわ寄せが行っていたわけだ。大口取引なら割引も当然だが、度を越せば通販業者自身の首を絞めることになろう
 ▼強い立場にあぐらをかいていたメーカーと、顧客と地道に信頼関係を築き上げた流通側とで力が逆転した家電業界がいい例だ。このクロネコもいい顔ばかりはしていない。宅配業の改革のためには敢然とかみつくことで知られている。

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長野防災ヘリ墜落事故

2017年3月8日

 台風、地震、火山噴火。それによって引き起こされる水害、津波、土石流。積雪地域であれば豪雪も心配せねばならぬ。あらためて言うまでもないが、日本は実に自然災害が多い国である
 ▼日本人にとっては当たり前のこと。ただし、他国が同じ状況でないのもご存じの通り。内閣府の防災白書によると、国土面積が世界の0.28%にすぎない日本に、全世界の災害で発生する被害額の17.5%が集中しているそうだ。日本では誰がいつ被災者になってもおかしくない。水害で逃げ場を失った、地震で孤立した集落に取り残された…。そんなとき頼りになるのが自衛隊、警察、消防などが組織する救助隊である
 ▼災害が起きるたびに危険をものともせず、救助に赴く隊員の姿をテレビや新聞で見て心強く思ってきた。それだけに今回の事故は余計痛ましい。長野県の鉢伏山付近で起きた県防災ヘリコプター「アルプス」墜落のことである。6日までに、搭乗していた操縦士と消防隊員ら9人全員の死亡が確認された。事故はつり上げ救助訓練のために高原の臨時ヘリポートに向かっている途中で起きたらしい。訓練に参加していた7人の消防隊員は県内各消防から選ばれた精鋭だったそうだ。操縦士は東日本大震災にも出動した経験のある大ベテラン、整備士も確かな技術と経験を持つ職員だったとのこと
 ▼原因の解明は調査を待つしかないが、こんな悲劇は2度と繰り返してほしくない。多くの人を救いたいとの志を持った隊員たちが思わぬ事故で命を落とす。彼らにとってこれほど無念なこともなかろう。

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啓蟄のころ

2017年3月7日

 まだのんびり寝ていようと思っていた地中の虫たちも、慌てて目を覚まし出立の準備に取り掛かっているかもしれない。例年ならこの啓蟄のころは冬が意地悪く居座っている本道だが、ことしは3月に入ってから穏やかな陽気が続く。雪の山も毎日見るたびに小さくなっているようだ
 ▼札幌管区気象台によると、向こう1カ月は高めの気温で推移し、降雪も少ないとのこと。春の訪れがそれだけ早いということだろう。目を覚まし動きだすのは何も虫たちばかりではない。「啓蟄に自分の居場所さがしてる」須﨑美穂子。実社会の中に新たな自分の居場所を見つける取り組み、就職活動も今月、本格的に始まった。対象は2018年の春に卒業する大学3年生などである。企業も相次いで就職説明会を開催していると聞く
 ▼「啓蟄の吾も五尺の背伸びする」横沢康良。学生としては少しでも自分のやる気や能力を認めてもらおうと、背伸びもしたい気分だろう。昔の自分を懐かしく思い出し、頑張れと言いたくなる。緩やかな景気回復と人手不足から企業の採用意欲は高く、今期も売り手市場が続く見通しという。経済政策が一定の成果を上げているということか。ただ、そのアベノミクスはいまださなぎのままだ
 ▼自民党はおととい、定期党大会で総裁任期を「連続3期9年まで」に延長することを決めたそうだ。権力の固定化には賛否あろうが、一貫した経済政策を継続して実行できる意義は大きい。経済の雪解けが進めば、将来を担う多くの若者たちも凍てついたデフレの土を破り社会に出て行けるはず。

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夕張の再生「リスタート」

2017年3月4日

 ことしのゆうばり国際ファンタスティック映画祭は、例年よりも1週間遅い開催。初日3月2日の夕張は穏やかな天気だった
 ▼1997年から、毎年夕張を訪れ、映画祭に参加してきた。正確には、2007年を除いてだ。この年、夕張市は財政破綻し、映画祭は中止された。しかし、08年市民主体のイベントとして復活し、ことし10回目を迎えた。開会式では、夕張再生のイメージ映像「リスタート」が上映された。夕張市民の熱意が伝わってきた。映画祭は、夕張を応援してきたが、ことしは夕張の再出発を強調する映画祭となった。鈴木直道夕張市長は映画祭の最終日3月6日が、10年前に夕張市が財政再建団体に認定された日であるとあいさつし、10年という節目に夕張の再生「リスタート」を訴えた
 ▼オープニング上映は、神山健治監督・脚本のオリジナル劇場アニメ「ひるね姫~知らないワタシの物語~」。倉敷市で父親と2人で暮らしている女子高生・森川ココネの見る夢が、現実とつながっていく。東京オリンピックを3日後に控えた20年の夏の日、突然父親が逮捕されて、物語は大きく動きだす。テーマは、自動車運転をめぐる価値観の対立。ミステリアスな物語は、圧感の映像美で締めくくられる。最後は小さな町工場の情熱と技術が、日本を代表する自動車会社を救う。ハードよりもソフトが大切になる、これからの時代を象徴する結末だ
 ▼夕張市民の果敢な取り組みが、日本を救うかもしれない。映画を見て、そんなことを考えた。日本こそ「リスタート」が必要なのだから。

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