コラム「透視図」

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人生の質

2017年8月10日

 米国の小説家アーネスト・ヘミングウェイに短編「挫けぬ男」があるのをご存じだろうか。かつて闘牛士として一時代を築いたマヌエルが返り咲きを夢見、興行師の戸を叩く話である。ただ、既に老い、けがで片足を失っていた。しかも病院から出てきたばかりという
 ▼復帰は無理と見た興行師が「どうしてまともな仕事を見つけて働きに出ないんだ」と尋ねると、マヌエルはこう答える。「あっしは闘牛士なんだ」。やりがいもなく命をつないでいるだけなら、本当に生きているとはいえないとの意志表明だろう。仕事でも趣味でも、自分のしたいことができてこその幸福。「クオリティー・オブ・ライフ(人生の質)」が近年重視されるゆえんである
 ▼病状が進んだ高齢のがん患者に積極的な治療をしない病院の割合が高まっているそうだ。国立がん研究センターがきのう発表したデータで分かったことである。手術や薬の副作用で苦しませるより、人生の質を高めるよう治療のあり方が見直されているらしい。ホスピス医小野寺時夫氏は著書「人は死ぬとき何を後悔するのか」(宝島社新書)で嘆いていた。余命少ない貴重な時期を効果のない治療に費やし、ずたずたになってからホスピスに来てすぐ亡くなってしまう患者が多いのだとか
 ▼先の小説でマヌエルは勝負の機会を与えられ、闘牛場で果敢に戦った。あえなく牛に瀕死(ひんし)の重傷を負わされたものの、絶え絶えの息の中、誇らしげに言うのである。「すばらしい成功をおさめるところだった」。最後までかく自分らしくありたいものだ。

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暑い日が続く

2017年8月9日

 先の日曜日のこと、札幌の新川通でジョギングをしていたのだが、前田森林公園を走っている辺りで暑さに耐えられなくなった。午後1時すぎころである。後で調べると気温は30度近くに達していた。日差しが強く照り返しもあるから体感としてはもっと高い
 ▼ほうほうの体で道沿いのスーパーに逃げ込み、アイスを食べて体を冷やし事なきを得た次第。店はそんなランナーたちでちょっとしたにぎわいを見せていた。「炎天のここが中心かと思う」山中麦邨。真夏の日盛り、自分が太陽に一番あぶられているような気になるから不思議である。もっとも感じ方は人それぞれ。暑さに強いと過信して熱中症になる人もいると聞く。注意を呼び掛ける人が身近にいるに越したことはない
 ▼同じ日曜日、北海学園大アメリカンフットボール部の男子部員が部活中に熱中症で亡くなったそうだ。午後2時すぎのことだったという。注意を呼び掛けてはいたのだろうが、事故が起きたのであれば何かが間違っていたのだろう。「炎天下道路工事に脱帽す」松尾美代子。道路工事に限らず、屋外の現場で作業する方々には本当に頭が下がる。本道も平年以上の高い気温で推移しているが、西日本などでは35度を超える猛暑が続く。汗で身も細る毎日なのに違いない
 ▼水分と塩分の補給は適切か、休憩はとれているか、つらいけど急いでいるからと無理はしていないか。個人に全てを任せるのでなく、管理監督者が目配りし、早め早めに手を打つのが肝要である。熱中症による死亡の悲劇を防ぐのに、予防に優る近道はない。

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ASEAN50周年

2017年8月8日

 民俗学者梅棹忠夫に「東南アジアの旅から」(『文明の生態史観』中公文庫)の論考がある。世界史の中にこの地域を位置付ける試みなのだが、書き出しが印象深い
 ▼「われわれは、東南アジアをどうみるか」と自ら問い掛けた上で、こう答えているのである。「どうみるもなにもあったものではない。わたしたちは、東南アジアについていったいなにをしっているというのだ。ほとんどなにもしらないではないか」。実はこの論考、梅棹氏が1957年から58年にかけて東南アジア諸国を学術調査で巡った後、発表されたもの。随分と昔の話だが、ビジネスや観光で格段に関係が深まっているとはいえ、今も一般の日本人にとって事情はさほど変わっていないかもしれない
 ▼東南アジア諸国連合(ASEAN)がきょう、設立50周年を迎える。これを知っている人もそう多くないだろう。加盟10カ国のほとんどが植民地で、経済と文化の復興に乗り出したのは戦後独立してからのこと。ASEANはその礎だった。ところで近年、中国がASEANの海ともいえる南シナ海で不法開発を進め、地域の経済や平和を脅かしている。航路を利用する日本にとっても人ごとでない
 ▼ASEANと中国は6日、外相会議を開き、紛争防止に向けた行動規範の枠組みを了承した。だが、実効性には疑問符が付くようだ。中国の意向に逆らえない国も多い。梅棹氏は論考でこんな指摘もしていた。「異質なものが、どういうようにうまく結合されるかをかんがえねば」。その通りだろう。ただ、答えは容易に見えてこない。

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未来予想図

2017年8月5日

 ネット上で今週の初め、とある出来事が物議を醸した。テレビ朝日がHPで「ザ・スクープスペシャル」の番組内容を告知した件である。問題はそのタイトル。「ビキニ事件63年目の真実~フクシマの未来予想図~」となっていたのである
 ▼水爆実験があった米マーシャル諸島の現在を取材したものだが、福島をわざわざ片仮名で表記し、水爆実験と結び付けて将来不安をかき立てる宣伝文句に大きな批判が起こった。ただでさえ放射能に関する誤解と偏見に悩まされている福島である。いまだ風評被害やいじめに苦しむ人も少なくないと聞く。そんな中でのこの無神経なタイトル付け。良識を疑われても仕方ない。テレビ朝日は騒ぎになったその日のうちに文言を削除したそうだ
 ▼福島県は震災後、県民の思いを伝えるアニメ「みらいへの手紙」を制作し続けている。11通目となる今回の「手紙」では、谷村新司氏が県内外から寄せられた「ふくしまへの想い」825通を基に作った歌「雲のかなた」が使われた。現実と向き合いながら、これからも愛する福島を大切にしていきたいとの内容だが、歌詞の中にこんな一節があった。「10 years after 未来図は この手の中にある」
 ▼テレビ朝日の番組は、広島原爆記念日のあす放送予定だった。水爆実験と原発事故、原爆をつなげることで恐怖心をあおり、視聴率を上げようとしたのだろう。しかも未来まで予想してやろうと。何もテレビ朝日に「未来予想図」を示してもらうまでもない。福島の未来は、もう「この手の中にある」そうだ。

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安倍内閣改造

2017年8月4日

 甲斐から信濃へと領国拡大に成功した戦国武将武田信玄の戦における基本理念は「不敗主義」にあったらしい。歴史作家の百瀬明治氏がエッセイ「名勝負・決戦川中島」に書いている
 ▼「不敗主義」は中国の兵書『孫子』にある教えで、「必勝の条件はなかなかつくり出せないが、不敗の態勢をかためることは可能」との実際的考えに基づいた戦法だという。信玄は川中島の戦いでも徹底して主力決戦を避けたそうだ。上杉謙信の支配地に入り込み、その陣をたたいては引き、たたいては引きを繰り返した。決して無理押しはせず、大きな戦いもしないが確実に相手の勢力を削っていく。この戦法には謙信もほとほと手を焼いたのだとか
 ▼安倍首相がきのう、懸案だった内閣改造を済ませた。信玄に倣ったわけでもあるまいが、閣僚の顔ぶれを見ると今次内閣はどうやら「不敗主義」で行くようである。勝つためでなく、負けないための布陣。好戦的態度は封印し、堅実に支持率を上げていこうとの作戦ではないか。麻生副総理や菅官房長官、石井国交相ら基軸の大臣は変えず、今後矢面に立たされる文科相に林芳正氏、防衛相に小野寺五典氏と経験のある人物を充てた。意外といえば首相と距離のある野田聖子氏を総務相に、辛口の河野太郎氏を外相にしたことくらいか
 ▼首相は信玄のこんな言葉を胸に刻んでおくといい。「下々の批判、能々聞き届け、縦(たとえ)如何様に腹立ち候ふ共堪忍して、隠密を以て工夫すべき」。人の話をよく聴き冷静に対処する。それができる内閣なら支持率も上がってこよう。

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