真砂徳子の起ーパーソン

第33回

小林酒造株式会社専務取締役 小林精志さん

小林酒造株式会社
facebookアカウント 小林 精志

 小林酒造(栗山町)は、糖類等の添加物をいっさい含まない日本酒を製造する酒造メーカーです。原料は主に、地元栗山町産を中心とした道産米で、特定名称酒(本醸造以上の高級酒)のみを製造。地域に根ざしたこだわりの酒づくりで注目されています。旧産炭地に囲まれ、かつては、炭坑員が愛好する造り酒屋として知られていた同社。近年は、個性際立つ味わいが評判となり、札幌・ススキノをはじめ、各地の飲食店や有名ホテルから引き合いも多いという事です。「型破り」とまで言われる革新的取り組みで、地酒づくりに懸ける小林さんにお話を伺いました。

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明治11年創業の看板を背負いながらも、型破りな発想で挑む小林さんの酒づくりからは、相当な覚悟と気概が伝わってきます。

小林 僕が家業の経営に参画したのは15年前から。炭坑の時代はとっくに終わっているのに活路を見出せず、出荷量が目に見えて減っていった頃でした。当時の製造量の8割は、〝炭坑価格〟の安価な酒。しかも僕の仕事は一日中、砂糖や水飴、調味料や酸味料といった、本来日本酒に入らないようなものを酒に加えることで、それ以前は醸造研究所で麹の研究に携わっていましたから、地元に戻るまで夢にも思わなかった酒づくりの現実でした。

小林精志さん  こんな事を続けていたら、人生間違いなく暗くなる。やるなら自分が納得のいく酒をつくりたいと強く思い、先代に、酒づくりを改めようと提案。それからは、一升1000円そこそこの三増酒の製造量を毎年10%ずつ減らし、ようやく2年前に、全ての商品で、添加物を使用しない酒づくりが叶えられたんです。

 この試みのために、製造量も3800石から1200石に、意図的に減らしています。新入社員の採用もしばらく諦め、従業員20人程度の会社を維持しました。目標は、リーズナブルな酒を量産し売り上げを伸ばすことではなく、熱狂的ファンに支持される小林酒造ならではの酒をつくること。経営規模を縮小したおかげで、道外米を使用した日本酒が圧倒的に好まれる風潮の中でも、僕が理想とする、道産米に特化した酒づくりにも積極的に臨めました。

北海道の米のおいしさが認知されていない当時から、道産米酒づくりに固執していたのはなぜですか。

小林  実はここ十数年で、道外の140の蔵元を訪ねています。他酒と比較すれば消費量が圧倒的に少ない日本酒。さらに、北海道で消費される日本酒のうち、道産日本酒が飲まれる率は2割程度。日本酒を取り巻く状況が厳しい中、長年炭坑に依存していた収入がゼロになった現状を覆し前進するためには、自分がこれは、と思う酒をつくっている蔵元から酒づくりの技術やポリシーを学ばせていただき、これまでの観念を壊す必要があると思い立っての事でした。

 お会いした蔵元は口々に「北海道の地酒ならば、当然北海道の米でつくるべき」だと。その言葉に、米どころ・空知で生かされている造り酒屋の使命を感じました。前杜氏に「内地米に負けない道産米酒を」と薫陶を受けてきた現杜氏とも考えが一致し、現在は、18の農家に契約栽培をお願いしています。

 近場の農家の仕事ぶりは目が届くだけに安心。収穫したてのお米を前に、おいしい酒をつくるという共通の目標で、彼らと議論も重ね、物足りない出来の年でも、改善点を練り、切磋琢磨して「米づくり」「酒づくり」が共にレベルアップできるよう努めてきました。

 それに伝統的に蔵人のほとんどが農家のせがれで、農閑期になると手を貸してくれるんです。米を扱うプロの目で適切に作業してくれますので、本当に助かるんですよ。小林酒造の酒は、いわば地の利の結集。今や道産米を使用した限定純米酒は完売必至の人気で、たくさんの方にお褒めいただけるようになり、地酒冥利に尽きると思っています。

小林さんが目指している日本酒とは。

小林  口にするだけで元気になる、自然と高揚するような華のある酒ですね。特に今年は、最初に絞った時に「まぐれ」かと思うくらい上出来で。半信半疑で2本目、3本目と何本絞ってみてもおいしかった。方々に教えを請い、自問自答もし、杜氏と共に試行錯誤した十数年の積み重ねの証だと、感無量でした。

 以前は、全国の銘酒がそろうイベントに出店できても、他の盛況をはた目に、自信の無い酒を申し訳なく思いながら、お客さんに勧めるしかなかった。その屈辱や絶望感がバネになったと、やっと今振り返れます。もちろんまだ反省点はありますが、理想の酒に近づける努力は、今後も惜しみません。

 昔の日本人は、川のせせらぎや虫の声をさかなに酒を楽しむ風流な感性があったと聞きます。江戸の庶民には日本酒がささやかなご褒美だったそうです。孤独感にさいなまれがちな現代には、心にやんわりと寄り添うような酒の存在が求められている気もします。

 そんな有り様(ありよう)が、僕の考える日本酒の文化力。小林酒造が、栗山という平和な里山から、日本酒を通し、日本人が忘れかけ、失いかけているものを掘り起こして、日本酒の文化力を発信できる会社になれれば。ここで暮らし、酒をつくり生きている限り、そのために費やす時間は、一分一秒無駄にしたくないんですよ。

取材を終えて

地道な老舗の商い実感
 小林酒造の熱烈なファンを毎日1人ずつ増やせば、10年で3650人。これくらいが最も確かな営業なんです、という小林さん。目先の売り上げを意識したPRにとどまらず自ら酒の魅力や蔵人の思いを伝え切ることで、飲み友だちになるほど親しくなるお客さんも少なくないそうです。簡単・便利がもてはやされる風潮にとらわれない、小林さんのものづくりと経営姿勢に、老舗の商いを実感するインタビューでした。

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