進む外断熱のマンション改修

連載・特集~紙面から~

進む外断熱のマンション改修

 「うまい話には裏がある。しかし、この話には裏付けがある。新築マンションでも、すぐに外断熱改修したほうがいい」―。長年外断熱工法の普及に取り組んできた、道立北方建築総合研究所の福島明企画調整部長はその効果を強調する。躯体に服を着せるように、すっぽりと断熱材で覆う外断熱工法。これまで民間マンションなどでの広がりは鈍かったが、2010年に札幌市内で2棟、11年に3棟と、外断熱でマンションを改修する動きがでてきている。札幌市内にある改修期を迎えるマンションは約2500棟。1000億円以上ともいわれる市場が動き始めたのだろうか。


ひび割れ、結露に悩む

 1月25日、札幌市内で開かれたシンポジウムで、ある数字が報告された。東区のある分譲マンションの住人が室温を計ったところ、就寝前に23度だった居間の温度が、暖房を切って8時間後の朝に18度だったというのだ。北海道建築技術協会が主催したこのシンポジウムは、マンションの外断熱改修がテーマ。報告は、改修効果を示すものだった。
ファミール北8条
2010年に外断熱改修したファミール北8条
 取り上げられたのは、東区の分譲マンション、ファミール北8条。SRC造、地下1地上14階、延べ6189m²、61戸の住戸があり、1階は駐車場だ。
 建設から15年が経過し、躯体やバルコニー床面にはひび割れが目立つようになっていた。雪と寒さに対する配慮は随所で欠けていたのだという。
 北側や東側の部屋は眠れないほど冷え、居室として使えないため物置にする住人もいるほどだった。結露も激しく、壁紙の剥がれやカビが発生。サッシの下部は水浸しになり、レールから床にあふれた。
 同マンション管理組合は、これらの問題解決に向けて2010年に外断熱改修に踏み切った。断熱材は50㍉のEPSボードを使用し、外装にはガルバリウム鋼板、バルコニー面は塗材仕上げとした。窓は既存の2重窓に加えて外側からアルミサッシをもう1枚付加し、3重化。この改修は、国土交通省の長期優良住宅先導事業に認定されている。

劇的な効果

 設計はNPO法人外断熱推進会議北海道支部事務局長を務める大橋周二建築士。施工は勝井建設工業(本社・岩見沢)が担当した。7月から10月末までの工事が終わり、冬が到来して住民はその効果に驚いた。
 当時の管理組合理事長、浦崎隆男氏は「冬でも日差しがあれば暖房は不要になった。北側・東側の部屋も、布団に入れば寒さを感じることはない」と話す。「結露は全くなくなり、外の騒音は気にならないほど小さくなった」と変化の大きさに驚きを隠せない。入居者アンケートでも、92%の住民が「かなり暖かくなった」「少し暖かくなった」と回答。
 室温の上昇に伴い、暖房・給湯用のガス使用量も激減。改修前(09年11月―10年3月)には5164m³だった合計使用量が、改修後(10年11月―11年3月)には3708m³と、34%も減っていた。

湿式と乾式

 外断熱は、大きく湿式工法と乾式工法に分かれる。湿式工法は主にコンクリート躯体に透湿性のある断熱材を直接接着するもので、複雑な形状の壁面に向いている。
 乾式工法は躯体に断熱材を張り、その外側に通気層を設けた上で支持金具により外装材を固定。湿気は通気層から排出される。平面部で使用する場合には低コストとなる。
 ただし各施工業者や素材メーカーにより、湿式でも通気層を設けるもの、乾式でも密着させるものなどもあり、断熱材・外装材は多様化している。

メリット

 外断熱改修のメリットは、第1に、室内の温熱環境が大きく改善することだ。鉄筋コンクリートの躯体には蓄熱性がある。外側の環境との接触を断つことで、躯体は室内側の温度に同調。これによって冬の寒さ、夏の暑さによる影響が減少する。
外断熱工法の模式図  第2に、内断熱と違い、床や間仕切り壁と外壁との取り合いなどの熱橋(断熱の切れ目)がなく、外の温度が内部に伝わらないため、温度差による結露が発生しにくくなる。同時に窓を改修することで、さらに効果は高まる。
 第3に、躯体のコンクリートが雨や日射などの劣化要因にさらされないため、ひび割れや鉄筋のさびが抑制でき、耐久性が向上する。これにより、住環境の改善と相まって資産価値は大きく増す。施工上では、建物内部を通常通り使用しながら改修できることも利点だ。

普及を阻むもの

 では外断熱改修は、なぜこれまで普及してこなかったのか。まず挙げられるのは、費用の問題がある。ファミール北8条の改修費は約8000万円。15年目の通常改修では4000万円程度が一般的だから、倍に相当する。
 国土交通省が2011年4月に発表した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」によれば、15階未満、延べ床5000m²以上1万m²以下のマンションの修繕積立金の目安は、毎月1m²当たり140―265円、平均値は202円とある。
 しかしファミール北8条の月々の積立金は、1m²当たり50円程度。管理組合が確保していた修繕費では、全く足りなかった。
 実際、このようなケースは少なくない。「新築時、デベロッパーはできるだけ分譲しやすくするため、積立金を低く抑える傾向にある。それがそのまま長期間維持されれば、当然修繕費は不足する」と指摘するのは、NPO法人北海道マンション管理問題支援ネットの今原秋三理事長だ。
 今原氏は「管理契約を詳細に見ていくと、清掃や警備、エレベーターの保守、消防設備点検などの個別業務が割高に設定されていることがしばしばある。月々の管理費が高いため、積立金を増額できないままのマンションが多い」として、管理業務を一括して専門業者に委託し完全に任せてしまうケースが多い現状も問題視している。


資金問題は解決可能

 「大規模改修で障害になりがちな資金問題は、外断熱改修でこそ解決できる」―。
 北海道建築技術協会の長谷川寿夫副会長は、初回改修費用に限れば負担は大きく見えるが、トータルコストを考慮すれば外断熱が有利だとし、「改修のためだけに月々の支払いを増やす必要はない」と断言する。
 実際、2011年12月に外断熱改修を終えたばかりの白石区の分譲マンション、ヴェルビュ白石の管理組合では、修繕費不足で多額の借り入れをしたものの、個々の住人が支払う毎月の積立金は増額しなかった。
修繕費と暖房費の支出累計の推移  「確かに初回改修時に2倍程度の費用が必要。しかし、外断熱改修によって躯体が保護されれば、次の大規模改修は30年以上先に延びる。さらに暖房費が大きく低減するので、累計の支出は十数年で逆転する」と長谷川氏は主張している=別表。
 北方建築総合研究所の福島明企画調整部長は「デベロッパーにとって重要なのは、建設してすぐに売れること。となると初期コストの掛かる外断熱を新築で採用するのは非常に難しい。しかし、改修なら長期的な視点に立てる。世界最高の住環境を手にできるのは、既存マンションの住人だけだ」と指摘する。

住民合意の難しさ

 外断熱改修を阻んできた要因はまだある。それは住民間での合意形成の難しさだ。エレベーターで顔を合わす程度しか知らない住民同士が、突然数千万円の事業を共同で行うには、大きな困難が伴う。
 多額の改修費に尻込みしたり、借り入れにアレルギー反応を示す住民も多い。復元が難しい外装タイルに固執し、合意形成に行き詰まることも多々ある。

自治回復のチャンス

 しかし改修に成功したマンションの管理組合は、こうした問題を一つ一つ突破してきた。ヴェルビュ白石の神取智前理事長は「大規模修繕専門委員会を立ち上げ、議論を逐一広報紙にして配ったり、臨時総会を何回も開いて住民全員と一緒に検討していく姿勢に徹した。おかげで、話したこともなかった住民とも和気あいあいと相談できる雰囲気ができた」と明かす。
 ファミール北8条の浦崎隆男元理事長も「対立を避けるために理事会と専門委員会が必ず合同で会合を開き、議題ごとに全会一致を目指した」と当時を振り返り、「お金の問題もみんなで勉強した。管理会社の更新に競争入札を導入したほか、排水管清掃や警備、エレベーター保守点検などの請負契約、灯油の共同購入契約なども徹底的に見直し、年間200万円近くの無駄をカットできた」とその成果を指摘している。
 大橋周二建築士は、外断熱改修への住民の取り組みが「図らずも、失われた〝共同体の自治〟を取り戻す営みになっている」と実感。「外装タイルは常に剥落の危険性があり、10年ごとの調査・改修も必要でコスト高。外観が好きだという住民がいても、共同して住み続けることの意味をじっくりと話し合うことで、譲歩は可能なはず」と、合意形成を支援していく構えだ。


ドイツ・トルコの旅

 2011年10月、NPO法人外断熱推進会議北海道支部の大橋周二建築士は、同会議本部の堀内正純事務局長、田中辰明お茶の水女子大名誉教授らとともに、ドイツからトルコに向かう列車の中にいた。外断熱工法の先進地、ドイツの最新事情を視察するとともに、外断熱改修が劇的に増加しているトルコの現状をその目で確かめるためだ。
 EU全体の09年の外断熱施工面積は、湿式だけで1億6230万m²、そのうちドイツは4200万m²を占める。これは新築と改修を合わせたドイツの外壁工事面積の90%。すなわち、歴史的建造物を除くほぼ全ての建物に相当する。
 そして、ドイツより温暖なトルコでも、外断熱改修は急激に拡大している。09年に960万m²だった施工面積が、11年は3500万m²に上ったという。
トルコの外断熱改修現場
イスタンブール郊外でも外断熱改修の現場が多く見られた
 イスタンブール郊外にある、RC造、4階、16戸の共同住宅が30棟ほど立ち並ぶ一帯。ここでも改修が盛んに進められていた。視察した一行は、築年数が10年と浅い段階での工事にもかかわらず、入居者からの反対がほとんどないと聞かされ、驚いた。
 理由を聞くと「冷暖房費が半減するし、5年で負担分を回収できるから」だという。EU加盟を目指すトルコ政府が、「建物の省エネ性能に関するEU指令」に準じるべく、外断熱改修を強力に支援しているのだ。

さらに先へ進む欧州

 一行が帰国した直後、東京では、欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構・建築物理研究所のゲルト・ハウザー所長による講演が開かれた。テーマはエネルギー高効率建築技術。
 「ドイツでは今や断熱材の厚さは200㍉程度が一般的。300㍉に達するケースも多い」と述べたハウザー所長は、「EU全域で、2020年以降に建設する全ての建物をゼロエネルギーとする指令が既に布告されている」と説明。「これからは『プラスエネルギー住宅』の時代となる」と予言した。

われわれの課題

 大橋氏は「日本では外断熱対応の窓は非常に高価。しかし、ドイツでは一般のガラスの方が高い。コーティングガラス(Low―Eガラス)の使用が法律で義務付けられ、メーカーがそれに合わせて開発・生産した結果、価格が大きく下がったため」と述べ、国の誘導政策の重要性を指摘する。
 堀内氏も「視察先では、『日本は断熱性能を向上させず、太陽光発電や高効率家電製品にばかり力を入れているのはなぜだ』とよく不思議がられた」と振り返る。
 大企業に利益の集中する機器や自動車の省エネ化に比べ、外断熱改修は小規模な建設業者でも受注でき、特に左官や塗装など地元に多くの雇用を生み出す。地域経済の活性化の面からも、その効果は大きい。
 日本では、長期優良住宅先導事業が11年度で終了し、これに続く支援制度は白紙のまま。しかし、待ちの姿勢では変化は訪れない。
 施策の前提となる現状調査、技術者の育成など、国や自治体の役割は大きいが、これまで外断熱改修に二の足を踏んできた業界自らが意識を変えていく姿勢も一層求められるのではないだろうか。

(2012年2月22日付から25日付にわたって掲載したものをまとめました。)

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