「OOPARTS(オーパーツ)」は、前衛的な内容でかつて道内演劇界に新風を起こした劇団でした。主宰の鈴井貴之さんは、自ら企画構成を担当し、全国的人気を誇るバラエティー番組「水曜どうでしょう(HTB)」の出演者としておなじみの顔、プロダクション社長、文筆家、また監督4作目となる映画「銀色の雨(原作・浅田次郎)」があす28日から全国公開されるなど、オーパーツ解散後(1998年)も活躍の場を広げてきました。来年スタートの「オーパーツプロジェクト」は「Out Of Place ARTiSt(場違いなアーティスト)」をコンセプトに、演劇にこだわらず「何をやらかすか想像がつかない」パフォーマンスを模索する、表現者・鈴井貴之の新たな試み。「原点回帰」への想いも込めた期待のプロジェクトです。
鈴井さんのおっしゃる原点回帰とは。
鈴井 われわれの拠点は北海道。つまりローカル、「アウトオブプレイス」です。TEAM NACS(森崎博之、安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真による演劇ユニット)をはじめ、オフィス・キューの活動が、全国の皆さんに支持していただいているのも、われわれが主流ではないからだと思います。主流を求めるなら、東京へ行けばいい。
注目してくださっているのは、東京にはない、大阪にもない、新しい文化の薫りを敏感に察知してくださった方々。ですから、成功するか失敗するかよりも、表現するものも含め、自分たちの原点、いつもどこか違うところにいるというポジショニングを意識することが大事なんです。
ガチンコの妙を生かした「水曜どうでしょう」は、さまざまな仕込みと綿密な構成で制作されるそれまでの番組ではあり得ない演出でした。何が起きるかわからないワクワク感を醸すパフォーマンスは、「アウトオブプレイス」を地でいく、われわれだからこその表現。新しいオーパーツでは、さらに「演劇」という枠も取り払い、お客さんも、自分自身もワクワクできる何かを、表現していきたいと思います。
原点を見詰めつつも、新生「オーパーツ」には、以前は表現できなかった鈴井さんの蓄積が反映されると思います。表現者としての鈴井さんの進化にも、私自身ワクワクしています。
鈴井 劇団解散後、新しい分野にトライするたびに気付いたことはたくさんあります。特に、韓国への映画留学(2004~05年の10カ月間)は、自分の「視野の狭さ」を実感する経験でした。
外からの視点が足りなかったと。
鈴井 韓国は、おそらく日本人が想像する以上に「日本」を意識している国です。中でも北海道はアジアの北の外れで、中国や北朝鮮を別と考えると、札幌はアジアの中で唯一雪に覆われる100万人以上の都市なんですよね。北海道にあこがれを抱く彼らの意見に驚く事が多かったです。竹島問題の渦中では、韓国人スタッフに総スカンされ、郷土愛の強さで生じる国際問題を肌で感じました。
僕は北海道が好きだけど、アジア人でもあり世界人でもある。韓国留学では、故郷にしかない魅力を再認識すると同時に、互いの違いを認め合うボーダーレスな考えの必要性も知りました。結果として、自分をはぐくんできたすべてをより広い視野で客観視できた良い機会だったと思います。
そのようなご経験によって表現に対する姿勢は変わりましたか。
鈴井 ものの見方がフルフラットになって、結局は自分も世の中の歯車の一つでしかないことに気付きました。僕がいろいろな企画を携えて皆をけん引してきたように見えるのであれば、それはおごりの現れかもしれません。だって僕一人でつくり上げたものなんて今まで一つもないんですから。
映画だって、エンドロールに出てくる150人くらいのスタッフのうち一人でも欠けたら出来上がらないし、お客さんがいない表現は単なる独りよがりとしか言えません。僕は黒澤明監督にもスピルバーグにもなれない。そんなこと夢見ても仕方ないんです。
僕の表現を山の眺めに例えるなら、頂上までたどり着けず、そこからの景色を見ることができない人に、それなら山全体をぐるりと回って、西からばかりじゃなくて東からも見てみようよ、そうすればいつもとちょっと違う景色になるんじゃない?と伝えること。これからも、僕と同じように山のすそ野にいる多くの人たちと、共にものづくりをしていく視点で、彼らに共感していただける表現を続けたいと思っています。地に足をつけて、でもワクワクしながら。
取材を終えて
楽しみな新生「オーパーツ」
もしも鈴井さんが「歯車」だとしたら、ほかにかみ合われるがままではなく、自らかみ合い、時にはゆっくり、時にはリズミカルに、さまざまな歯車とコラボレーションを楽しみながら回転するのではないかと想像します。これまでの経験により、一層歯の数が増えた鈴井さんに、どんな歯車がかみ合い、どのような回転をみせるのか。新生「オーパーツ」の世界に注目したいと思います。