真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第7回 ホイスコーレ札幌 代表 生越 玲子さん

2010年01月29日 12時00分

 ホイスコーレ札幌は、デンマーク各地に根付く社会人学校「フォルケホイスコーレ」を模範とした生涯学習の場です。授業は、大学教授や専門家が講師を務め、教育、環境、医療、海洋、工学、歴史など内容も充実しています。一昨年の開設から、週1回計12回を一区切りに3期までの開講で、延べ130人以上が修了。子育てが一段落した主婦や定年退職後の男性をはじめ、「第二の人生」を謳歌(おうか)する中高年を中心に人気を集めています。

 創設者で運営に携わる生越さんも、北欧に学ぼうと、7年前に58歳で大学の門をたたいて以来、飽くなき知的好奇心に駆られているお一人。創設はそんな生越さんに芽生えた、ある問題意識が発端だったそうです。

企業や大学の公開講座などが盛んな中、ホイスコーレ札幌のように個人が立ち上げた社会人向けの学校は少ないそうですね。開設には相当なパワーが必要だったと思いますが、何が生越さんを駆り立てたのでしょうか。

生越 玲子さん

生越 在学中ある講義で、日本は高齢者の自殺者が非常に多い国であることを知りました。その割合は世界でも10本の指に入るほどで、大学に入学して学ぶことが楽しくてたまらない私と、そうした高齢者の現状との差異にがくぜんとしました。

 北欧は福祉が発達した地域。あちらの高齢者はどんな暮らしをしているのかしらと思いました。デンマークには、試験もなく、18歳以上であれば誰でも安価で通える学校(フォルケホイスコーレ)があると聞き、頭の中が、まるで火がついたように熱くなってしまって。そこに、私の疑問と日本が抱える問題を解決できる糸口があるのではないかと感じました。

 その後、生涯教育が高齢者に果たす役割や可能性についてさらに研究してみたいと思い、修士論文のリサーチなどを目的に、デンマークのヘルネス市にある中高年のためのホイスコーレへ4カ月間留学しました。この留学は、日本にもデンマークさながらの生涯教育の場をつくらねば、という思いをより強くする貴重な経験になりました。

特に、どのような点をお手本にしたいと思われましたか。

取材風景

生越 一番は、学びの楽しみを共有できる場であることでした。デンマークのホイスコーレは全寮制で、受講生は寝食を共にします。授業では、教師と受講生の談話が重要視されています。私が留学したヘルネスのホイスコーレには、離婚後の心の整理やアルコールへの依存を断つために入学する人もいます。さまざまな価値観や背景を持つ大人たちが交友を深め、哲学や文学を学び、芸術に興じ、自然散策を楽しむうちに、みるみる元気になっていく様子を目の当たりにし、一人でコツコツと知識を積み上げていくだけの「学び」では限界がある気がしました。

 「学び」の感動を他者と分かつことは、知識欲を満たすだけではなく、精神的な豊かさも見いだしているように感じたんです。デンマークのホイスコーレは、「学び」を通し、ストレスに苦しむ人たちが癒され、自分自身を見つめ直す契機となる、今の社会に求められる一つのあるべき姿を提示していると思いました。

大人を対象にした教育は、世の中を元気にする鍵になりそうですね。

生越 ホイスコーレ札幌には、一期から定員以上の受講申し込みがあり、学びたい大人が多いことを肌で感じました。60歳も過ぎて病院に行けば、あれしちゃいけない、これ食べちゃだめ、運動しなさい、と制限されることも多くなりますが、それだけに、自由意思で学ぶ時間に価値を感じてくださるんでしょう。皆さんの目は、80歳の方でもそう見えないくらい生き生きとしていますよ。「学び」は、未来の選択肢を広げてくれます。それは生きるモチベーションにつながります。

生越さんのモチベーションの源は。

生越 玲子さん

生越 受講された方々から寄せられる声が何よりも励みです。定年後意気消沈していた方に「生きがいを見つけた」と言っていただけたり、脳梗塞(こうそく)で苦しんでいた方が「講義を理解できうれしい」とおっしゃったり。中には「これまでの人生でこの上ない機会をいただいた」とお話しくださる人もいるんです。

 国費補助のもと寄宿舎などが整ったデンマーク同様の運営ができず残念ですが、ホイスコーレ札幌の開講を待っている方がいる限り、何とか継続して楽しんでいただける授業をご提供したいと、力がわいてきます。受講生の皆さんは、人生経験に裏付けられた豊かな個性と能力をお持ちの方ばかり。一人一人が違って、皆すてきなんだということを、授業を通し、毎回私も学んでいるんです。

取材を終えて

「生涯現役」が未来の活力に

 陶芸家でもある生越さん。創作活動と並行して、社会人学校を運営するのは決して楽なものではないはずです。それでも「ホイスコーレ札幌が、まずは10年経っても続いているか見てほしい」と常に力強くアグレッシブ。年齢にこだわらず意欲にあふれている生越さんのように「生涯現役」の大人が増えていけば、高齢化社会の懸念も未来の活力ととらえることができるのではないかと思いました。


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