真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第10回 唄い手 木村 香澄(KAZUMI)さん

2010年03月12日 11時12分

 江戸時代から伝わる哀愁を帯びた旋律と高度な技術を要する独特の節回しから、「民謡の王様」とも呼ばれている江差追分。発祥の地・道南江差町では、47年前より毎年全国大会が開催され、予選を勝ち抜いてきた唄い手たちが、自慢ののどを披露しています。第29回大会(1991年)で、受賞には10年かかるとも言われている優勝の栄冠を、出場2年目、高校2年生にして手にしたKAZUMIさん。迫力と懐の深さを備えた唄は、その後、国際音楽祭のフォークソングソロ部門でも優勝を射止めました。各地のライブ活動や国内アーティストとのコラボレーションのほか、日本の観光招致を目的に世界64カ国で放映されたプロモーション映像のボーカルも担当。昨年は、韓国人歌手と共に日韓交流イベントのイメージソングを歌うなど、国際的な活躍もめざましいKAZUMIさんにお話を伺いました。

江差追分は北海道の伝統芸能だとばかり思っていましたが、日本代表として各国に赴くKAZUMIさんの活躍で、その真価を再認識しました。

木村 香澄(KAZUMI)さん

KAZUMI 江差追分はシルクロードを渡ってきたという説があるんです。日本語が通じない海外の聴衆から「魂のようなものを感じる」「私の国の民謡に似ている」と、親しみを持って受け入れていただくことも多く、いつも感激します。日本の民謡が数多くある中、私が国際的な舞台に立たせていただけるのも、江差追分が偉大だからこそ。

 子供のころは、民謡の中でも難しいと言われる「こぶし」を覚えると、師匠やまわりの大人たちがほめてくれることが嬉しかっただけで、「天才少女」と呼ばれたり「江差追分の伝承者」と念押しされることに、不自由さを感じていましたが、生まれ育った土地に根付く民謡を「日本のこぶし」として世界に披露できるなんて、唄い手の一人として、とても幸せなこと。今は、伝承の重圧よりも、私の進路を開いてくれた江差追分に対する感謝の気持ちが強くなりました。

KAZUMIさんがお考えになる江差追分の魅力とは。

木村 香澄(KAZUMI)さん

KAZUMI 実は、中学入学を前に声質が変わり、思うように唄えなくなって、江差追分をやめようか悩んだ時期がありました。その時、大会の会場で、初めてお客さんの一人として歴代優勝者が唄う江差追分を聴き、涙がぼろぼろと流れてきて。この唄は、つらくてもやめる唄じゃないんだよ、そんな風に聴こえたんですよね。

 実際、江差追分は、江差がニシン漁で栄えた当時に、家督を継げず蝦夷地へ向かった下級武士や農家の次男三男たちの、力強さや切なさ、故郷への思慕を表現した唄。聴いた人に、どんなに辛くても前を向いて頑張って生きて行こう、と思えるような力を与えてくれるんだと思います。

異分野のアーティストと共演されるなど、伝統の「型」にはまらないさまざまなKAZUMIさんのチャレンジにも期待しています。

KAZUMI 江差の人口は1万人くらいですが、江差追分を唄える人は100人いないかもしれません。難しいから簡単には唄えないと敷居を高くしている人も多いんです。全国的にみても、特に若い人にとっては、馴染みの薄い伝統芸能ととらえられているように感じます。

 私は、もっと「身近な江差追分」を目指したい。尺八三味線の正調も大事にしつつ、ギターやピアノでアレンジする新しい感覚も取り入れて。由緒ある歌なのに、と苦言をいただくこともあったけれど、私のライブに来てくださった人たちから「今まで興味がなかった民謡が好きになった」と声をかけていただく度に、私の活動は間違っていないと確信するようになりました。

唄い手として大切にしていることは。

木村 香澄(KAZUMI)さん

KAZUMI 江差追分は「一度聴いて惚れ、二度聴いて酔い、三度聴いて涙する」と言われるほど人の心に響く唄。しかも、唄い手によって、波の音が聴こえてくるようだったり、大地の風景が思い浮かぶようだったり、それぞれの人生観や経験によって味わいも違ってくるんです。何百年という間、唄い手さんたちがそうされてきたように、私も、人間的魅力でさらに江差追分が輝くような生き方をしなくてはと思っています。

 プライベートで心配事がある時には、お客さんの笑顔に励まされながらの舞台もありますが、これからも、私を成長させてくれるお客さんや応援者、江差追分に恩返しをするためにも、声が出る限り唄い続けたい。そして、世界に「江差追分」を響かせたいです。

取材を終えて

人としての成長と唄の進化を

 KAZUMIさんが、江差追分を「日本のこぶし」と意識したのは小学生のころ。世界のこぶしに造詣が深い細野晴臣さんとの出会いがきっかけだったそうです。どんなリハビリもかなわなかったある高齢者の足が、コンサートで彼女の唄を聴いて動くようになり驚いたこともあるのだとか。想像を超える江差追分のスケールと魅力に気づかされる度に、唄に謙虚に取り組むようになったというKAZUMIさん。今後も、人として成長していく彼女の姿と唄の進化に期待したいと思います。


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