色弱や目の疾患などで、色の見え方が一般と異なる人は、日本に500万人以上、そのうち色弱者は300万人以上いると言われています。世界で色弱者は2億人を超え、その割合は血液型がAB型の男性の比率に匹敵するほどです。カラーユニバーサルデザイン(CUD)は、どのような色覚のユーザーにも「色」の情報が正確に伝わるよう、利用者の視点で色彩設計されたデザインです。「色覚バリアフリー」とも呼ばれ、世界的な潮流であるバリアフリー社会実現のための重要な概念としても注目されています。CUDの普及に力を注ぐ谷越さんにお話を伺いました。
私が普段目にするカラフルな印刷物は、美観、見やすさ、わかりやすさに配慮した創意工夫によるものだとばかり思っていましたが、中には、色弱の方が困惑する色づかいもあるのでしょうか。
谷越 例えばトイレ表記で、男性は水色、女性はピンクに色分けされていても、色弱の人には、この2色が区別できないという話を聞きます。ほかにも、とりわけ派手な配色であることが多い危険個所や緊急時の避難場所の表示が認識しづらかったり、電子機器の充電完了を示す点灯色の変化を判別できず困っている人もいるようです。とはいえ、色弱は、病気でも障害でもなく、遺伝による特性のひとつ。「色弱者」は、血液型同様に人間の色覚を大別したとき、最も多い「一般色覚者」以外の総称なんです。
私たちは、これまで特に注視されていなかった色弱の利用者にも考慮し、配色や色の濃淡の調整をはじめ、形の違いや線の種類にも工夫を凝らした、誰の目にも優しく、美しく映る普遍的(ユニバーサル)なデザインを推進する団体です。私たちの活動に共感してくださる官公庁や企業も多く、CUD化を検討する既存の案内表示や製品の検証、さまざまなコンサルティングにも携わらせていただいています。
CUD達成度を計る認証マークの発行機関としても注目いただき、その認証件数も増えてきています。さらに、市民が聴講できる講演会やフォーラムなどには積極的に出向き、色弱の正しい知識とCUDの必要性を、ひたすら伝え続けています。こうした啓発活動は、人間の「見え方」が多様であると広くご理解いただける、広義の「カラーユニバーサルデザイン」だと私たちは考えています。
谷越さんが、色弱の方の思いをくむ活動に、ここまで熱心に取り組まれるのは、なぜですか。
谷越 以前、私の会社(有限会社谷越印刷)の採用試験で、色弱の志願者を面接しました。大変好感のもてる人物でしたが、業務を苦慮したのか、結局彼の辞退により採用がかなわなかったんです。色を扱う仕事を生業とする私が、色弱についていかに無知であったかを痛感する経験でした。
社会の無配慮による色弱者の不利は見過ごしたくないけれど、当事者ではない私に、彼らの何がわかるのだろうか。偽善ではないのか。本当に私利私欲はないのか。面接の一件以来、こうした自問を繰り返しながら、色弱についての情報収集に奔走していました。
そんな中、色弱ではない女性でも、色弱の因子を持つ保因者は10人に1人、その女性が産む男子は、50%の確率で色弱であることを知りました。もしも私の息子が、保因者の女性と結婚すれば、色弱の孫が産まれるかもしれない。色弱への認識不足は、一般色覚者である自分にも、自分の家族や親族にも、長いスパンで考えれば人類の営みにもかかわる、私たちに極めて密接な問題提起なのだと、ようやくふに落ちたんです。この決意が、その後の活動の原動力になりました。
CUDに寄せる期待と谷越さんが思い描く未来図をお聞かせください。
谷越 色覚は、それぞれが生まれながらに持っている「心の色の世界」。優劣はなく、違って当然の個性なんです。NPO設立から5年。教育現場では、色弱の生徒にも見やすいチョークを使う学校が増え、世界中のデザインの現場で活用されているコンピューターソフトにも、色覚シミュレーション機能が搭載されるようになりました。
こうした波及は、CUDが公利に不可欠である証だと思います。私がCUDに期待することは、誰もが互いの相違を認め尊重し合える社会の足がかりになること。カラーユニバーサルデザインが常識になる日が一日でも早く訪れるよう、これからもCUDの普及に努めて行きたいと思います。
取材を終えて
他者の「心の色」に思い
旭山動物園で現在使用されている案内看板は、赤をやわらかい朱赤に替えるなど、谷越さんたちの助言による改善で、CUDの認証を受けているそうです。皆にやさしい色づかいを、と話す谷越さん。CUDに、どこかあたたかな印象を受けるのは、色の見え方だけではなく、他者の「心の色」を思いやる、創り手の〝やさしい心づかい〟が伝わってくるからではないかと思いました。