真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第16回 札幌彫刻美術館友の会 会長 橋本 信夫さん

2010年07月14日 15時07分

 札幌の「街なかの美を守ろう」運動は、「札幌彫刻美術館友の会」の呼びかけで始まった市民ボランティアによる野外彫刻の保全・維持活動です。発起より5年、運動の輪は徐々に広がり、市民がスポンジやブラシを手に彫刻を洗う様子は、今や初夏恒例の光景となりました。友の会によれば、現在、道内に設置されている野外彫刻は2300点あまり、そのうち札幌に点在する作品は500点近くにのぼります。北海道ゆかりの作家による意欲作がそろっているものの、風雨にさらされ補修ままならず、芸術作品としての精彩を欠いてしまっているものもあるそうです。橋本さんは、街なかの美を守る活動を市民運動として定着させたい、と目を輝かせます。

野外彫刻の保全や維持を行政に任せきりにするのではなく、市民運動の一環として展開されるのはなぜでしょうか。

橋本 信夫さん

橋本 調べてみると、北海道の野外彫刻には西洋の技法に倣うブロンズ像がずば抜けて多く、そこには北海道開拓の足跡と芸術家の進取の気概がみてとれます。さらにそれが戦前の作品であれば、戦時中の金属類回収令を免れた歴史的資産です。つまり日常当たり前のように目にする野外彫刻は、札幌市という屋根のない美術館のコレクションともいうべき一流の芸術作品。それらをきれいに保ち後世に遺すことは、私たち市民の責任だと思っています。

 彫刻の価値を損なわないよう清掃には細心の注意を払います。作品に適した手入れについて建築家や工学の専門家に助言を求めることもしばしば。彫刻にじかに触れる活動は、まちの美観を保つと同時に、市民が、彫刻の作者や材質、設置年や設置理由、制作工程など、作品の背景に理解を深める機会となり、市民それぞれの鑑賞眼が養われることにつながるのではないかと思います。

橋本さんがお感じになる芸術鑑賞の喜びとは。

橋本 信夫さん

橋本 その真価を知れば知るほど「得」した心持ちになることです。例えば、喫茶店でコーヒーの味そのものは値段相応であっても、器のセンスや店の雰囲気が良ければ、私たちは払う金額以上の価値を感じるはず。芸術鑑賞の「得」も同様で、作品に付随するさまざまな情報に鑑賞者が目を向けられるか否かによるのではないでしょうか。

 私たちは、その情報の価値に着眼し、20年以上前から北海道全域の野外彫刻を調査してきました。既に全体の98%ほどの詳細を集積しています。昨年からは、札幌の調査データをデジタル化し、ITのエキスパートと話し合いながら、将来的にはパソコン上にバーチャルな美術館を開設することを視野に、本格的な準備も始めています。これは単なる作品のガイドにとどまらず、閲覧者が芸術の粋を知る情報の宝庫となる予定です。

野外彫刻の風情は、自然環境の中にあってこそという人もいると思います。Web上にパブリックアートの美術館を開設する意図は。

橋本 ヨーロッパでは、ギリシャ時代から広場や神殿など、市民の憩いの場を彫刻で装飾していました。そのような土壌が育まれていない日本では、野外彫刻にさえ、敷居の高さを感じる人は少なくありません。Web上の美術館は、広く市民がパブリックアートに親しみを持つための手段。これにより関心が高まれば、野外彫刻の保全・維持活動も盛んになるでしょう。

 また彫刻にまつわる情報は誰でも収集でき、今後は、パブリックアートの指南を学芸員さながらに務める市民が増えて行くことも期待しています。外国語に翻訳すれば、遠く離れた世界中の人たちにも、わがまちの芸術文化を披露できる。観光資源として、文化発信の拠点として、バーチャルな美術館の効果は、計り知れません。

 芸術は、芸術家が常識の枠を打ち破り生み出すもの。そこには、今に安住しない人間本来の生き様や熱意が凝縮されていると思います。彫刻は耐久文化財。老舗の美術館にあるブロンズ像をひも解けば、3000年くらいは優にさかのぼります。それだけ永きに渡り、先人の生きる力を伝え続けるであろう作品を、私たちの代でだめにするわけにはいかないですよ。「街なかの美」を守る手間ひまは、大きな時間軸の中でみればささやかですが、草の根的な活動でも、あきらめず続けることが大切だと思っています。

取材を終えて

瑞々しい感性で次世代の媒体に

 橋本さんは北海道大学の名誉教授で、人獣共通の伝染病研究では世界的な権威。ザンビアの獣医の大学設立にも尽力し、次の大統領は我が大学の卒業生じゃないかと言われている、と目を細めていました。ご自身を次世代への媒体だという橋本さんの「知」の伝承が花開く未来と、瑞々しい感性に胸躍るインタビューでした。


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