真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第22回 ㈱植松電機 専務取締役・㈱カムイスペースワークス 代表取締役 植松 努さん

2010年11月11日 14時45分

 赤平市のカムイスペースワークスは、ロケットエンジンや小型人工衛星など、宇宙開発事業を手掛ける企業です。2006年に、植松さんと永田晴紀北大大学院教授(航空宇宙工学専攻)により設立され、植松電機は、同教授が発明したハイブリッドロケット「CAMUIロケット」の研究開発を、技術面でサポートしています。ポリエチレンを燃料とするCAMUIロケットは、小さく安価でエンジンが爆発しない安全なロケットとして注目され、早くも07年には、全長5mの機体打ち上げに成功。植松電機の敷地内には、自社以外の研究者も活用できる研究棟や世界でも稀な無重力実験施設が備えられ、その技術力や設備の充実に信頼を寄せるアメリカの企業の要請で、次世代スペースシャトルの共同研究も行われているほどです。

海外からも一目置かれる宇宙開発が、国家事業ではなく、北海道の一民間企業によるものだということに、本当に驚いています。

植松 努さん

植松 幼い時から飛行機やロケットが大好きで、勉強そっちのけで飛行機のペーパークラフトに興じ、関連書籍を読みあさっていました。そんな私が半ば強引に始めた宇宙開発です。当初、ロケット製作の経験などない社員たちは作業を静観しているだけでしたが、ロケットエンジンのごう音と美しい炎を目の当たりにし目の色が変わりました。「自分たちにもできるかもしれない」という思いが、駆り立てたのだと思います。

 今では社員20人全員が本業(電磁石製造業)の傍らロケットエンジンの開発に携わり、中には難解な専門書を付せんだらけにして勉強している者もいます。ラーメン店から当社に転職してきた彼は、今や国内外の研究者と宇宙開発について対等に議論する技術者です。

 宇宙開発は、より高く、より速く、より遠く、と常に「モア」を目指す世界。前例がないからこそ価値があり「できない」と思ったらできません。どんな開発者も最初はひとりぼっち。あのライト兄弟だって「機械が飛ぶなんて不可能」だと誰にも相手にされず、独力でエンジンを開発し世界初の飛行機を発明したんですよ。

 宇宙開発という「夢」に関わることで、私たちは自分を信じるようになり、自ら調べ、工夫し、あきらめなくなりました。互いの働きを尊重し、力を合わせるようになりました。設備投資や試験費用もすべて自腹。もうかる事業ではありませんが、お金には換えられない掛け替えのない力を得ています。

赤平には最先端の宇宙開発を一目見ようと、全国から多くの子供たちが訪れるそうですね。植松さんは、国が推進する教育プロジェクトの特別講師として各地に赴きロケット教室を開催されたり、講演活動にも熱心です。その原動力は。

植松 家業を継ぐため名古屋の会社を退職し経営に悪戦苦闘していたころ、ボランティアで出向いた施設で、親から虐待を受けていた男の子が、両親に会いたい、と言うんです。殺されるような目にあっていても子供は親を愛していると思うと、悔しくて悲しくて。とはいえ、会社の業績向上に注力していた当時の自分には、ここにいる子供一人助けることができない。無力さを感じ、子どもの可能性を奪う大人や社会をどうすれば変えられるだろう、と悩みました。

 その時、大人たちに「どうせ無理」と言われ続けていた子供時代を思い出したんです。航空宇宙業界に就職したいという私の夢を、「東大進学の学力が無いから」と頭ごなしに否定したあの進路指導も子供の将来を奪っていたことに変わりないと思いました。私は、北見工大で流体力学を学んだ後、航空機設計の仕事に就きました。

 「どうせ無理」に負けなかったのは、飛行機やロケット開発の伝記に、夢を「あきらめない」ことを教えてもらっていたから。夢が再燃し、宇宙開発やロケット教室に取り組んでいるのも、この社会にまん延する「どうせ無理」を一掃したいからです。

今の植松さんの夢は、ご自身のものだけではないのですね。

植松 努さん

植松 思えば、前職は自分の満足のためでした。今挑んでいる宇宙開発は、社会のためにしなければならない、使命感のようなものでしょうか。打ち上げ実験の失敗をマスコミにたたかれた時には、子供たちの励ましの手紙に、開発を「あきらめない」力をもらいました。

 人は足りないから助け合うべきで、だからこそ力を合わすことが必要。そばの誰かが「どうせ無理」に陥っていたら「どうせ無理なんて言ったらだめさ」と声を掛ける。私たちの宇宙開発が、そんな支え合いのきっかけになることを期待して、夢をあきらめず挑戦し続けていきたいと思います。

取材を終えて

創造力発揮できる未来に

 植松さんは、昨年より、誰もがお金や時間に縛られず、創造力を発揮できる未来を目指した「アークプロジェクト」を始動。取材で伺った建物も壁材の間の空気が断熱材代わりのあたたかいつくりで、まずは、生活コストを抑えるさまざまなアイデアを自社敷地内で実践し、経済構造の見直しに取り組んでいくそうです。「北海道は新しいものを生み出す地域。世界初は世界一なんです」という植松さん。旧産炭地で伺った熱いお話に奮い立つインタビューでした。


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