真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第24回 札幌市長 上田 文雄さん

2010年12月10日 10時53分

 「市民が主役」を提唱する上田市長は、就任以来、市民との対話を重視した「ふらっとホーム」の定期開催をはじめ、「自治基本条例」「まちづくり活動推進条例」「子どもの最善の利益を実現するための権利条例」の施行等、市民一人一人の声が生きる地域づくりを推し進めてきました。昨年7月からの「新ごみルール」では、市民の実行力を背景に、ごみの減量やリサイクルを促し、開始後1年で家庭廃棄ごみの大幅減量(前年度比41%減)を実現しています。市民の力を引き出す上田市政。その取り組みは、弁護士時代からの一貫した信念によるものでした。

市長は、その言動から「市民派」市長とも呼ばれています。また、医療過誤訴訟や労働関係訴訟で原告側の弁護を担う「人権派」弁護士としても知られていました。活動の軸は。

上田 文雄さん

上田 私の大学時代は安保闘争の真っ直中。そこで下層労働者の問題を目の当たりにしました。当時は、突然首を切られる非組織労働者が大勢いて、彼らが不当な状況を相談しても、労働基準監督署に「解雇の自由」を主張され、それでおしまいだったんです。この時芽生えた憤りと正義感が、弱者を救済する弁護士を志す原動力になりました。

 弁護士には「プロボノ」(ラテン語で「公共善のために」の意)が根付いています。これは、自分がしなくてはならないことに関しては、たとえ無報酬でもプロフェッショナルな能力を尽くすという社会貢献の概念です。

 私は、人間が人間らしく暮らせる社会、安心して生活できる社会を侵害するものがあれば、法律の知識を武器に断固として戦ってきました。「プロボノ」は生き甲斐です。

とはいえ、裁判は必ず勝訴できるとは限らず、市民の声のすべてを市政に反映させることも困難だと想像します。市長がおっしゃる「弱者救済」や「市民が主役」の本意を知りたいと思いました。

上田 私は、25年間医療過誤訴訟の弁護に携わりました。診療行為は密室。特に被害者が亡くなっている場合は情報も不十分で、カルテを読み込み、看護師の記録と検査記録を並べ、矛盾は無いかと血眼で調べても、当初裁判にはほとんど勝てず、まるで患者側の思い違いかのように処理されていたのが常でした。

 それでもあきらめず、同志と連携し地道な弁護活動を積み重ね、10年ほど経過したころでしょうか、ようやく、徐々に医者の過失も認められるようになりました。強者や大勢に傾きがちだった社会の変化を感じる成果でした。

 「新ごみルール」では、市民の皆さんに分別の手間とごみ処理のための有料負担をお願いしています。ごみの減量は順調に進み、ごみ処理工場の建て替え費用(370億円)や維持費(13億円)も節約できました。ルール改正には反対意見もありましたが、今や市民の80%の人が納得し率先して協力してくれています。これは、札幌市民の自治能力の高さの証だと思います。

上田市長の弁護活動と政策は、いずれも社会と市民の力の醸成を目指したものなのですね。

上田 弁護では「辛い思いをしながらも訴訟する意義は何なのか」を依頼者に問うてきました。

 なぜなら、問題意識を共有した彼らが、一時の勝訴だけにこだわるのではなく、法的なものの考え方を通し社会に対する見方を培い、裁判を機に、自身の力で人生を生き抜いていける術を獲得してほしいと願っていたからです。

 「自助」は民主主義の核です。そして自分のことはできるだけ自分で行う市民同士が、どうしてもできなければ協力し合う「共助」があり、それでも無理なら行政が後押しをする「公助」となる。つまり「民主主義」のあるべき姿をけん引していくのは、行政ではなく、問題意識と解決能力を備えた市民なんです。

 私は、さしずめ地域づくりの事務局長。依頼者と思いをひとつにして法廷を乗り越えたときと同様に、よりよい札幌市を目指して、市民と共に、同じ平面というか、地べたに足をくっつけて話し合いたい。

 そして市民から寄せられる「本当はね、本当はこう思うんだけどね」という本音をエネルギーにして市政を進めていきたい。こうした姿勢は、弁護士時代から全く変わっていません。

取材を終えて

未来図共有へ喜び

 学生時代、司法試験合格を目指していた親友たちと、世の中について議論した時間が糧、と話す上田さん。市長となってからも年に一度は集まり、当時と変わらぬ志を確かめながら語り合っているそうです。市長が腐心する「情報共有」は、市民と地域の未来図を共有する喜びや価値を伝えているのではないかと思いました。


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