真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第26回 有限会社インターリンクジャパン 代表取締役 阿部 さおりさん

2011年01月28日 11時39分

 北海道は、醸造用専用品種ぶどう(主にワインの原料)の国内最大産地です。ヨーロッパ系ぶどうの栽培に適した冷涼な気候と土壌は、道外の生産者にも注目され、道産ワイン醸造の草分けである十勝や小樽など大規模なワイナリーの他、近年は「理想のワイン造り」を目指した移住者が経営する小規模なワイナリーも増えています。阿部さんは、イベントの企画・運営事業を柱に、道産ワインのプロモーションに尽力。「これからは消費者拡大が課題。道産ワインの真価をもっと知ってもらいたい」と、力強く話します。

ワインをテーマにしたイベントといえば、愛好家志向の敷居の高いものばかりを想像していましたが、阿部さんが手がける「さっぽろライラックまつりワインガーデン」(札幌市中央区・大通公園)は、非常になじみ深い公共のスペースが活用され、私のようにワイン通ではない人でも、ちゅうちょなく参加できるように思いました。

阿部 さおりさん

阿部 ワインガーデンを企画したのは7年前。前職(FM放送局勤務)を辞めフリーのプランナーとして独立し、北海道の「食」や「観光」に着目した企画を模索していた頃でした。当時道内には10軒ほどのワイナリーがありましたが、道産ワインは大手メーカーの代表銘柄が数種話題になるくらいの認知度。味も輸入ワインに親しんだ人には物足りないと言われていました。

 でも、なかなか日の当たらない道産ワインに、がっかりするというより、惜しい、残念という思いが募って。ワイン王国・フランスが農業大国ならば、北海道だって農業立県。フランス同様に、私たちも地産地消をもっと楽しむべきじゃないか。道民がもっと手軽に道産ワインを味わう仕掛けを探りたくなりました。

 それに、私はワインが大好きで。大通公園でふと大倉山を眺めたとき、これはここにしかない景観、この空間でワインが飲めたらどんなに素敵だろうとワクワクしたんです。

 実は以前、島と民族音楽を紹介するラジオ番組で、ナレーション原稿の作成を担当し、一度も訪れたことのない島内を想像し、島の風土や歴史に馳せ、旅人のごとく物語を綴っていました。あの時、大通公園で思い描いた光景も、私がもしワインガーデンを訪れたら…というストーリーが頭の中を巡っているような感覚だったと思います。

阿部さんを「新感覚のプランナー」と呼ぶ方もいるそうですね。仕掛けや企画を練る上で、心がけていることは。

阿部 「つながり」を意識することです。「インターリンクジャパン」という社名も、人が集い情報交換できる場をつくり、そこから生まれる新たな「つながり」を期待した、「結びつける、つなぎ合わせる」意の英語「Interlink」にちなんで決めました。

 ワインガーデンは、道産ワインを媒介に生産者と消費者がつながる機会。出店・協賛いただいた各ワイナリーの多彩な味を広める場であると同時に、生産者は消費者の感想や嗜好を直に聞くことができ、消費者は、生産者の思いやこだわりから味わいの背景を知ることができる。ライラックの美しさ、北国ならではのランドスケープやジャズの生演奏も、「つながり」を円滑にする魅力的な演出要素になっているのだと思います。

 動員も年々増え(2005年の初開催は2000人)去年は5日間で1万7500人の方々にお越しいただきました。何度も足を運んでくださるお客さまや、道産ワイン談義に興じるお客さまにお会いする度に、売り上げや動員数でははかれない、このイベントの価値を実感します。

一頃のワインブームは落ち着いたと言われています。道産ワインの可能性は。

阿部 北海道の食材に人気が集まる中国では、今まさにワインブーム。上海など沿岸部で道産ワインが好んで飲まれていると聞いています。現在道内ワイナリーは20軒。中でも8軒のワイナリーを擁する空知は、地熱で生じる寒暖差により美味しいぶどうが育つと評判で、この土地に惚れ込んだ外国人の名醸造家がわざわざ転居しワイン造りに励んでいるほど。

 余市や道南地域も海が近い景観のもとワイン造りを手掛けていて、北海道の風土だからこそ誕生する味わいが増えています。道産ワインを取り巻く環境の、この勢いをどう消費者に伝えていくかも知恵の搾りどころです。

 私が企画を通し伝えたいのは、切り口や演出の工夫で日常が豊かになるちょっとした「心の贅沢感」。道産ワインはそのような心持ちを喚起する地域資源なんです。北国の自然と風土だからこそ生まれるワインの味わいには、ここにしかないストーリーがある。その物語を地元食材との食べ合わせや造り手の背景を通して広めて行くことで、北海道らしい、ワインのあるライフスタイルを今後も発信して行きたいと思います。

取材を終えて

足下にある宝物

 勉強も兼ね、年に2、3度はディズニーランドに足を運ぶという阿部さん。老若男女誰もが笑顔で「つながっている」ディズニーの世界は、阿部さんの理想なのだそうです。「日常の中にある非日常」の表現に腐心する阿部さんの視点に、足下にある宝物を探すような高揚をおぼえました。


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