スポーツを楽しんでひと汗かくと、爽快な気分になります。この爽快感が、スポーツを愛好する大きな理由ともいえます。では、なぜ汗をかくと爽快な気分になるのでしょうか。
よく、汗をかくと、汗と共に体内の老廃物が排出されるので体調がよくなる、ということが言われますが、これは、ほとんど科学的根拠がありません。老廃物は通常、血液中に存在しますが、血液の成分が直接汗になるのではありません。
汗を作る汗腺の細胞では、血液中の水分や塩分を細胞内に取り込んで、汗を作っています。老廃物は細胞にとっては有毒なわけですから、老廃物を細胞に直接取り入れるしくみはないのです。実際、汗の成分を測定しても、老廃物といえるような物質はほとんど検出されません。
身近な動物で、人の様に全身に汗をかく動物はほとんどいません。イヌやネコは足の裏にわずかに汗をかくだけです。もし、汗が老廃物を出す重要な手段だったら、イヌやネコは老廃物が溜まって、すぐに死んでしまうことになります。もちろんそうではありません。
よく、デトックスという言葉が使われています。体内に生じた有毒な物質や老廃物を体外に排出することを指す言葉ですが、これまで述べたように、「発汗でデトックス」というのは根拠がないのです。おそらく、発汗による爽快感から生まれた誤解だと推測されます。
汗はもっぱら体温調節のために行われます。スポーツで体を動かすと、体に熱が生じます。熱により体温が上昇するのを防ぐため、汗をかいて、それを皮膚の上で蒸発させます。蒸発するとき皮膚の熱は水蒸気に移るので、皮膚の温度が下がり、体温が下がっていくのですが。
皮膚は温度を感知する組織でもあるので、皮膚温が下がったことを感じ取るので、これが爽快感につながると考えられます。これに、スポーツをやったことの満足感、達成感が重なって、爽快感が強まります。お風呂やサウナの後の爽快感も、同様のしくみで生じるのでしょう。ですから、爽快感自体は、決して悪いことではないのです。
ただ、体を動かすことなく、サウナに長時間入って、ひたすら汗をかくのは、体に対するメリットが一つもありません。脱水を起こし、熱中症となって、爽快感を感じることもなく倒れてしまいます。「汗をかけばいい」というのは完全な誤りです。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)