真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第32回 株式会社マツオ 取締役副社長 松尾 吉洋さん

2011年04月22日 11時47分

 松尾ジンギスカンで知られるマツオ(滝川市)が手掛けるレストラン「まつじん」が人気です。新千歳空港店と、札幌市内に2店舗を構え、昨秋には、東京・銀座店もオープンしました。これまでは、家族や団体客をターゲットに展開していた同社飲食部門。外食産業が多様化する中、まつじんでは、女性や個人客に添う趣向で新規顧客の開拓を進め、経営の強化を図っています。新展開に奮闘する松尾さんにお話を伺いました。

松尾ジンギスカンといえば、にぎやかな宴席でおなじみですが、まつじんでは、プライベートな空間を意識した客席や、お客さま専用のクローゼット、無煙ロースター等のしつらえもあり、落ち着いた雰囲気です。印象の違いに驚きました。

松尾 吉洋さん

松尾 まつじんの1号店は、新千歳空港店。6年前、北海道の空の玄関口に看板を掲げることに意義を感じ出店を決めました。とはいえ、お客さまは、搭乗前の観光客やビジネスマン、キャビンアテンダントはじめ空港で働く人たちですから、宴会仕様では、足を運んでいただきにくいだろうと。煙やにおいは気にならないか、慌ただしい待ち時間の軽食として捉えていただくにはどうしたらよいか、試行錯誤した結果、これまでのイメージを脱した「まつじん」がスタートしたんです。

 店名は響きも軽快。気軽に短時間で味わえるジンギスカンの店を表現できたと思います。一人用の鍋を活用したり、凸型鍋の「山で焼き溝で煮る」松尾独自のおいしさはそのままに、生卵にからめてすき焼き風、薬味を添えてひと味違うお召し上がり方等もご提案し、好評です。

 今年で創業55年。ごひいきのお客さまも高齢化し、松尾の味を若い世代に伝える手立てを検討する最中、まつじんはファンの裾野を広げる場でもあります。ジンギスカンは、いわば、北海道のソウルフード。その味の伝承も私たちの課題です。

銀座店も開店当初から盛況だと伺っています。数年前のジンギスカンブームが去ってからの出店に、「意外」の声もあったのではないでしょうか。

松尾 確かに、絶頂期には、東京に200店舗くらいのジンギスカン店がありました。昨日まで居酒屋だった店までが始めたり。そんな流行が下火になることは明らか。あえて急がず、出店の時期をうかがっていました。満を持しての銀座店。費用対効果の点では、必ずしも最適な立地というわけではありませんが、ジンギスカンのイメージとはほど遠い「銀座」とのミスマッチで、道外初出店を際立たせるインパクトを狙いました。

 嬉しいことに、この出店を東京に住む道産子のお客さまたちがことのほか歓迎してくれて。「子どもの頃から慣れ親しんできた味。応援したい」と、ジンギスカンが初めてのご友人や同僚を連れては、頻繁に来店してくださいます。

 開店当日には、わざわざ茨城県から来てくださった道産子もいらっしゃったんですよ。お客さまは、松尾ジンギスカンを囲んだ幼少時の思い出話をよくされますね。中には「松尾で育った」とありがたいことをおっしゃってくださる方もいます。おかげさまで銀座店は、夜には常に満席になるほど順調。これも、北海道の皆さまが松尾ジンギスカンを地元の名物として育ててきてくださったからこそ。大事なのは、道民に支持され続けることなのだと、自分たちの「軸」を再認識する契機になりました。

私にも、家族や大切な人たちとの外食が、特別に楽しかった記憶があります。デフレーションのあおりで疲弊する外食産業も多いという現状をさみしく感じるのは、お金には代え難いあの豊かなひとときを思い出すからかもしれないと思いました。

松尾 松尾ジンギスカンはあくまでも「庶民の味」ですが、お客さまに長年信頼いただいている「ブランド」として、相当する対価は重要。低価格競争には加わらず、量販店に卸す商品も定価を維持しています。

 実は今、オーストラリアやニュージーランドの養羊場が減少している上に、マグロや小麦同様、中国や中東の買い占め等で需給のバランスが崩れ、羊肉価格が急騰しているんですよ。原料高の動向によっては、多少の値上げも覚悟せねばならず、それでも「選ばれる松尾ジンギスカン」であるために、企業努力は惜しみません。

 外食産業の草創期には、道内に300店以上の支店を出していましたが、当時は、松尾ジンギスカンを食べていただく機会を増やそうと、ロイヤリティーは無く肉の売り上げだけをいただく増店でしたので、店構えもさまざま。各店のクオリティーにばらつきがありました。時を経て淘汰され、今は数十店舗に。さらにまつじんも加わり、創業以来変わらぬおいしさを、より多くのニーズに応え得る環境で、自信をもってご提供できる体制が整ったと思います。

 そもそも松尾ジンギスカンは、羊肉、りんご、玉ねぎ等、地場の産物を工夫して、地元の人にうまいものを味わってもらいたいという思いから生まれました。海外も含め道外展開の拡大は視野に入れつつも、今後も、北海道の皆さまに食べてもらえないような松尾ジンギスカンにだけはなりたくない。何よりも、身近で、おいしくて、思い出がつまった、道産子に満足いただけるソウルフードであり続けることが、私たちが生き残っていく道だと思っています。

取材を終えて

変わる勇気と変わらぬ自信が

 松尾ジンギスカンの決め手でもある独自のもみだれは、改良を試みても、なかなかそれ以上がかなわない絶妙の味わいなのだそうです。「ジンギスカンが苦手だったという方にも、おいしいと評判の味。55年の積み重ねのたまものです」と話す松尾さん。新展開を支える、変わる勇気と変わらぬ自信を知るインタビューでした。


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