真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第34回 場づくり師 日置 真世さん

2011年05月27日 11時21分

 釧路市のNPO法人地域生活支援ネットワークサロンは、従業員数150名以上、予算規模にしておよそ5億円の事業を展開し、ソーシャルビジネスの成功事例としても知られています。前身は、日置さんら、障害を持つ子どもの母親たちが参加する子育てサークル。NPO設立は、既存の社会の枠組みの中で、生きにくさを感じている人たちの声を集約する場づくりが目的でした。日置さんは主に事務局を統括する役割を担い、寄せられる悩みや地域の課題に応える生活支援サービスを、仲間と共に次々に企画・実践。母子家庭における母親の就業を手助けする保育サービスや、子育ての孤立を回避するためのコミュニティカフェ運営等の自主事業の他、存続困難に陥った岩盤浴店の引き継ぎ経営、市の要請による生活保護受給者を対象とした自立支援プログラムへの参画等、多岐に渡る事業を手掛けてきました。

日置さんは今春までの3年間、北大大学院の助手として、地域の子ども支援に焦点を当てた研究職にも従事されていました。講演や著書では、地域支援事業の機能を「たまり場」と表現し、「新しい公共」とも言われるネットワークサロンの取り組みの具体的なノウハウを発信していらっしゃいますね。

日置 真世さん

日置 私たちの活動では、ただ誰かの困りごとを何とかしようと皆で知恵を出し合い汗をかいてきただけで、事業の拡大は全く意図していませんでした。一貫していたのが、地域のニーズがたまる仕掛けとして「たまり場」をつくってきたこと。

 たまり場では、市民の思いやひらめき、知恵や夢が語り合われ、地域の課題を解決するヒントも溢れています。事業化は、誰かが具体的な困りごとを吐露したときが契機。そこで初めてたまり場に集まっていた数々の情報が、解決プランとして編成されます。そして、時を待たず解決に向けた前向きな策を提示し、この困りごとが単なる私事として胸の内に納められることのないよう努めます。

 経験的に一人のニーズは多数のニーズに通じ、ビッグプロジェクトにつながることも少なくないんですよ。大学院勤務は、これまでの活動をまとめ、わかりやすく伝える手立てを模索する有意義な時間だったと思います。

4年前に始動したコミュニティハウス「冬月荘」は、ネットワークサロンの発案を機に、道が政府に申し出た道州制特区のモデル事業なのだそうですね。行政をも動かす取り組みには、私がこれまで想像していたNPOや市民活動の域を超える力強さを感じました。

日置 冬月荘は、知事が議長を務めた道州制推進道民会議で、賛同を得たことで本格化しました。一道民の視点で、地域の中で埋もれている“こうだったらいいのにね”を皆で見付けていく「道州制の芽発見事業」を立ち上げてみては、と提案してみたんです。

 実は、地域や個人の事情に即したサービスの提供やマネージメントを実践できるコミュニティハウスプロジェクトは、以前より地域で発想していた企画。地域のニーズは必ずしも国の画一的な福祉制度に当てはまるものばかりではないという、現場の実感から生まれたアイデアでした。

 福祉のユニバーサル化に着目した冬月荘の運営は、閉鎖した北海道電力の社員寮を再利用し地域資源の有効活用も試みた新事業。「道州制の芽」モデルの第一号として始まって以来、厨房を活用した飲食店事業による雇用創出や、生活保護家庭や母子家庭等で育つ中学生の受験学習支援、自活環境が得づらい市民の下宿施設を備える等、地域生活を総合的に捉えた柔軟なサービスが好評です。

 学習支援を受けている子どもがイベントの仕切り役として、ごく自然に「支援する側」として活躍する姿も目の当たりにし、循環型福祉拠点とも言える「たまり場」が、市民のエンパワーメントを喚起し、地域を育て、地域を元気にしていくのではないかという確信も芽生えています。

ご自身を「場づくり師」と呼ぶ、その本意は。

日置 今の社会が病み、薬等の外的処方に頼っていると例えるならば、社会を構成する私たち市民が本来持っている力を発揮することで、社会の自己治癒力は高まります。それは誰もが自分が心から望む人生を送れる力。私がつくりたいのは、市民一人一人が自身のリアルな声や姿を確認し合い、社会に発信できるたまり場のような機会です。

 かつては、家庭もそれを叶える場であったかもしれませんが、生活が厳しく家庭自体が孤立している時代に、そこに居場所を見出せずにいる人は少なくない。だからといって、親が悪い、社会が悪いと批判や批評を繰り返すのは、不毛な議論。場が無いのであればつくればいい、それが私の発想です。

取材を終えて

分け隔てない社会模索

 講演や執筆では、ご自身の経験やネットワークサロンの活動が、いかに「当事者意識」で捉えてもらえるかに腐心されるという日置さん。聴講者からの「頑張ってください」という声に、「当事者意識」を持ってもらえなかったのかも、と戸惑うこともあるそうです。日置さんは「いろいろな人がいて、それぞれが力を発揮できる社会」を模索する分け隔てのない人でした。


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