中屋敷左官工業(本社・札幌)が石狩市花川で建設していた人材育成拠点「左官技能研修センター」が8月末に完成した。独自の教育プログラムや研修施設を設けて人づくりに力を入れる同社。環境を整え、さらに高度なトレーニングを展開していく。建設業界の人材不足が深刻化する中で、中屋敷剛社長は「教育することで人が集まり、定着する。そして会社の収益にもつながっていく」とその意義を強調する。
既存研修所の隣に新築した施設はRC造、3階、延べ約300m²の規模で、3月に着工。設計は外注したが、デザインや施工は自社で手掛けた。
1階は新しい素材の研究やサンプルを顧客に見せるラボと倉庫、2、3階にトレーニングスペースを設ける。同時に10人以上が研修できる広さを確保し、同社の育成手法の肝である「モデリング」がより効果的に実践できるよう大型モニターも用意した。内部はコンクリート打ち放しのまま。あえて細部には手を入れず、コンクリートの色合わせをはじめ、社員の研修材料として生かす。
自社の職人の高齢化に危機感を覚え、育成や採用に本腰を入れ始めたのは6年前。この5年間で18人を新規採用(うち離職者は1人)し、今では全従業員に占める20―25歳の割合は3割、平均年齢は9歳若返った。その原動力は育成、採用方法の見直しにある。
育成では、映像に収めた一流職人などの動きをまねることで、こての使い方などを学ぶ「モデリング」を導入。新入社員は1カ月間現場に出さず、セメントの扱い方から床のならし、事故防止策と基礎的な知識、技術を習得させる。プログラムは新入りが現場に出る前に身に付けてほしいことを職長クラスから聞き取ってまとめた。結果、現場でやれることが増え、仕事に面白さを見いだすことで定着に結び付いている。
採用面では、会社案内を作り、全道の工業高に配布。それまでは求人を出しても応募者ゼロだったが、配布初年度から8人の応募があった。案内には教育方針も記し「入社した社員から育成の部分にひかれたと聞いた。今の若い人たちは自分を育ててくれる会社かを重視している」とみる。
業界では日給月給制が大半の中、月給制を取り入れた。月給制は仕事が少ない時期を考えると難しいと思われがちだが、日給の支払いを平準化することで実現できるといい、「日給制では雨で仕事ができないからトレーニングとはならない。月給制と育成システムは関連が深い」と話す。
「なぜ人材育成にそれほどお金をかけるのか」という見方もあるが、「売り上げはもちろん、未来の可能性が広がる。教育がもたらす価値は想像以上」と力説する。
育成プログラムはオープンにしている。自社のために始めたことだが、「今、左官という森が枯れかけている。木は1本だけでは元気に育つことができない。左官業界、さらに建設業界全体が魅力的で誇れる世界になるよう尽くしていく」と協力を惜しまない構えだ。