真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第36回 日本コンシェルジュ協会 会長、札幌グランドホテル チーフコンシェルジュ 岡西 昭子さん

2011年06月24日 10時58分

 ホテル宿泊客の総合的な案内役を担うコンシェルジュ。業務は、観光・交通案内、レストランの紹介や予約、各種チケットの手配等多岐にわたり、発祥の地・フランスでは、顧客のあらゆる要望に「決してNOは言わない」と言われるほど、豊富な知識と機転のきいた接客スキルが求められる職業です。日本コンシェルジュ協会は、国内ではまだ馴染みの薄いその役割の認知と、日本のコンシェルジュサービスの向上を目指し設立されました。岡西さんは、「私たちは、旅の案内人。観光産業促進の一助にもなれれば」と、コンシェルジュの可能性に思いを馳せます。

コンシェルジュは、旅のコーディネーターのような役割から、見知らぬ土地で不慣れな観光客の相談役等まで務めます。接客業の中でも、高度な対応力を要するお仕事なんですね。

岡西 昭子さん

岡西 私たちの仕事はホテル内にとどまりません。また、お客さまの嗜好や目的に応じ、ご提供するサービスもさまざま。たとえリクエストに応えられない状況でも、ご期待に添う別のご提案でお客さまにご満足いただくことが、コンシェルジュの務めだと考えています。

 そのためには、業務に関わる〝引き出し〟を増やす努力も怠りませんが、それも一人では限界があるんです。お客さまの喜びを第一に、「分からないことは分かる人の知恵を借り、できないことはできる人の力を借りる」という当協会の助け合いは、観光大国・フランスを拠点とする国際的コンシェルジュネットワーク組織の精神に倣うもの。

 会は、私たちの学びと情報共有の場。経験値も、勤務するホテルの環境も規模も違うコンシェルジュたちが定期的に集い、日頃の腐心を報告し合ったり、マニュアル通りとはいかない業務の悩みを打ち明け合うことが、個々の仕事に反映されることは多いんですよ。

 私も、ITに詳しい会員に事前にレクチャーを受け、インターネット普及間もなくでも、メール送受信のご希望に適切な対処ができたり、海外のお客さまが頻繁に滞在される東京のホテルのメンバーの情報をもとに、札幌市内で上質な葉巻を扱っているお店や吸える場所を調べておいたおかげで、突然、葉巻のリクエストを承っても慌てず応えられました。いずれも、会で情報収集できていなければ、ハードルの高かったご要望。仲間に助けられました。

 前身の「レ・クレドールジャパン」発足より今に至り14年。日本コンシェルジュ協会の活動は、諸外国に比べ日は浅いのですが、会員の皆さんの熱心さと意識の高さからは、ヨーロッパ同様「決してNOは言わない」コンシェルジュの職業的誇りも伝わり、刺激を受けています。日本でも、コンシェルジュ同士切磋琢磨する風土が着実に育まれているのではないかと思います。

岡西さんが、コンシェルジュとして心がけていらっしゃることは。

岡西 お客さまの本意をくめるよう努めていることでしょうか。ある時は「店頭でアイヌの人が木彫りの熊を彫っている民芸品店に行きたい」とリクエストくださったお客さまがいらっしゃって。よくよく伺えば、その方は、居住地と人間の体質の関わりをお調べになっていたお医者さま。ご要望の目的は、木彫りの見学や購入ではなく、アイヌの人に研究の協力をお願いする事だったとわかったり。

 とあるインドのお客さまは、赤ちゃんの離乳食用のおかゆを、ホテルの厨房でお作りになりたいと執拗におっしゃって。代わりに調理人がご所望のレシピ通りにおかゆをお作りしたのですが、その出来上がりは、みるからにカレー。なるほど、母親が異国で初めて目にする食べ物を、赤ちゃんの口に入れる抵抗感は否めない。ようやくお客さまの心情を理解し、自分の想像力の欠如を省みたり。

 大切なのは、お客様のお気持ちにどれだけ寄り添えるか。お客さまとの触れ合いからも実感したコンシェルジュサービスの教訓でした。

コンシェルジュは、観光客にとって頼りになる存在。観光産業への貢献も期待されているのではないかと想像します。

岡西 私たちは、いわば、観光地の口コミ係です。協会員それぞれが所有する口コミの観光情報を広く活用いただけるよう、何度かネット上のデータベース化も検討しましたが、コンシェルジュの仕事は、お客さまと顔を見合わせたコミュニケーションの中で生きるもの。観光協会をはじめとする関係団体との連携強化も視野に入れながら、既存の口コミサイトとは一線を画す、私たちならではの情報発信も模索したいところです。

 札幌のホテルの一コンシェルジュとしては、北海道の魅力の多様さを、観光客の皆さんにいかにプレゼンテーションできるかが課題。その試みの一つとして、当社では、体験型観光をコーディネートする企業と協力し、札幌という都心に居ながらできるアウトドアアクティビティのご紹介を始めました。近郊農家さんとのコラボレーションも思案中で、お客さまに「意外だけど面白い」と思っていただけるプランニングにもどんどん取り組んでいく予定です。

 コンシェルジュの使命は、お客さま一人一人と丁寧に向き合い、満足を追求し続けること。際限なく広がりのある仕事に喜びを感じています。

取材を終えて

おもてなしの最前線

 言葉も意思も通じない外国で、心底困り果てた時旅行者の、どうしようもない「不安」や「心細さ」を自ら実感し、勉強になったと話す岡西さん。後輩にも、見知らぬ地を旅したらいいよ、とよくアドバイスするそうです。おもてなしの最前線で、観光客に「安心」を提供するコンシェルジュ。その活躍と意義を知るインタビューでした。


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