らむれすが運営する三角山放送局(札幌市西区)は、今年で開局14年目を迎えるコミュニティーFM局です。パーソナリティーの多くがプロの話し手ではない市民有志。話術だけに依らないパーソナリティーの思いを伝える番組づくりで、人気と信頼を集めています。開局時より番組のインターネット配信も開始。地域の話題を世界中にリアルタイムで届ける先駆としても注目されてきました。「コミュニティー放送局の長所は、地域の〝小さな声〟も伝えられること」という木原さんにお話を伺いました。
以前、木原さんは民放に勤務されていました。多くのラジオ番組を手掛け、民間放送連盟賞や文化庁芸術作品賞等、数々の受賞歴もお持ちです。退職後、どのような情報発信を目指して、三角山放送局を立ち上げられたのでしょうか。
木原 三角山放送局開局の前は、廃校を活用したコンサートのプロデュースもしていました。会場は体育館。真ん中にピアノを置き、まわりに座席用の座布団を敷き、当然、お天気によっては風雨の音も気になる環境で、お客さんの中には、寝ている人も、赤ちゃんにおっぱいをあげている人もいる。さらに子ども達は元気に走り回るような、我ながら前代未聞の演奏会を全道各地で開催していたんです。
その時、演目は毎回同じでも、会場によって雰囲気が全く違うことに魅力を感じて。民放在籍中の番組制作は、もっぱら防音設備が整ったスタジオ内でしたから、それとは別の、聴取者と隔てのない空間でつくり上げる、地域色豊かで親しみやすいラジオ放送を、次第に構想するようになりました。
コミュニティー放送局では「話す人」も「聴く人」も同じ地域の一員。そこに垣根はありません。大規模な放送局では取り上げづらい地域密着の情報にニーズがあり、少数派の意見も地域を知る大切な情報のひとつ。
多数派や、地位や権力のある人の発言力が〝大きな声〟だとするならば、少数派は〝小さな声〟かもしれませんが、三角山放送局は、例えば、外国人でも障害のお持ちの方でも、声の大小に関わらず、伝えたいことがある人なら誰でも情報発信できる場でありたい。ステーションコンセプト「いっしょに、ね。」には、そのような思いが込もっています。
実際、入口までわずか数段の階段に入店をあきらめざるを得なかった車いすのパーソナリティーのとまどいにはっとしたり、大病を患った方の切実な経験談に地域医療のあり方を考えたり。番組からは、地域をみつめるパーソナリティーそれぞれの視点が伝わってきて、地域づくりは必ずしも多数決では測れない、一人一人の声を大事にしなくちゃいけないと感じることが多いんですよ。
三角山放送局が全国に先駆け始めた番組のインターネット配信は、その後「サイマルラジオ」と呼ばれる全国規模のプロジェクトにまで発展していますよね。
木原 そもそもは、営業活動を考え、弊社の放送範囲を拡大することが目的でした。新しいシステムを他のどこよりもはやく導入したいという気概もあって。当時はまだ回線使用料も高く機材も高価な頃。
聴く方も通常の放送に比べれば相当なお金がかかったはずですが、放送を聴いてくれた東京の女性がわざわざ激励しに訪ねてくださったり、サンフランシスコ在住のリスナーがメールで感想を寄せてくださったり。当初から、今のサイマルラジオの動きにつながる手応えを感じる反響はありました。
そのうち、湘南ビーチFM(神奈川県逗子市・葉山町)とフラワーラジオ(埼玉県鴻巣市)と3社共同で「サイマルラジオ」の実験を始め、楽曲配信の著作権等、試行錯誤しながら運用に関わる未整備の問題をクリアにし、ようやく3年前から「サイマルラジオ」の正式運用がスタート。今では60局が参入しています。
東日本大震災後は、被災地や被災者が避難している各地のコミュニティー放送局に、サイマルラジオのシステムを提供しています。これにより、全国各地に避難をされている皆さんが、故郷の「今」を聴き心配や寂しさを少しでも和らげてくだされば。私自身、コミュニティー放送局の役割を再認識する機会にもなりました。
私たちは、情報に救われたり励まされたりすることがありますよね。
木原 情報の情は、心を表すりっしんべん。口下手でも、話す人の「心」を通した情報には、伝わる力があると思います。知的障害者の方が担当する番組では、話し方も遅く、時折長い間があいたりするけれど、リスナーは、聴きづらければ聞き耳立てて、膝を乗り出して聴いてくれます。
思えば、日常よどみなく会話が続くことは珍しく、誰だって、何かの拍子に、しばらく言葉が出ない時はある。三角山放送局の番組には、そのような普段のコミュニケーションの息づかいを感じています。今後も、嘘をつかず、格好はつけず、小規模だからこそできる放送で、誰もが思ったことをのびのびと表現できるコミュニティー放送局として、地域と共にあり続けたいなと思いますね。
取材を終えて
情報のバリアフリー
三角山放送局は、入り口から放送ブースまで一切段差がありません。手が不自由だったり、視覚障害のある人でも操作できる放送機材も開発。障害を持つパーソナリティーからは「自分で何でもできることが嬉しい」と好評なんだそうです。情報のバリアフリーに腐心する木原さん。「小さな声の大きな力」を伝えるコミュニティ放送局の価値を実感するインタビューでした。