北海道宝島旅行社が運営する「北海道体験.com」は、北海道内の体験型観光プログラムの検索・予約サイトです。ニセコでのラフティングや釧路川のカヌーをはじめとする人気のアウトドアの他、乗馬、陶芸教室やバターづくり、農業や漁業の体験等、地元の人たちと触れ合い、北海道ならではの自然や文化を五感で楽しめる1000以上のプログラムが掲載されています。団体旅行が減少し、個人や小人数グループの旅行者の多様なニーズへの対応が求められる観光業界。鈴木さんは、今こそ、体験型観光の振興で北海道観光の〝おもてなし〟の真価を伝えられる機会だと話します。
これまで、北海道観光の魅力は豊かな自然景観や食をテーマに語られることが一般的だったと思います。「北海道体験.com」では、案内役の視点や指南により体験プログラムもが多彩で、北海道の「人」の魅力を垣間みることができる新しい切り口の観光ガイドでもあると感じました。
鈴木 僕は九州生まれで関西育ち。北海道での起業は、学生時代のバイク旅行と9年間のリクルート北海道支社勤務時に、道民のおもてなし意識の高さや豊かな人間性に触れ、北海道に惚れ込んだからでした。
バイクで四国以外の日本全国を旅した時には、とりわけ北海道の人たちに親切にしてもらいました。公園でテントを張っている見ず知らずの僕のために、わざわざ自宅からおかずを持って来てくれたお母さんがいたり、旅人宿で小豆畑の落ち穂拾いのバイトを紹介してもらって農家さんと一緒にお茶を飲んだり。これほど温かい交流は、北海道でしか体験できなかったんですよ。
リクルート北海道支社勤務も、北海道好きが高じて本社に転勤を懇願してのこと。この時に、移住施策や観光振興等のお手伝いをする「地域活性事業」を立ち上げ、全道各地の地域づくりに尽力する人たちと出会いました。
行政、民間、体験型観光事業者、一次産業に携わる方々。僕が出会った方々は、とにかく縁を大切にするし、ビジネスや物づくりに失敗を顧みずチャレンジする人が多かった。その姿に、僕も北海道に根付いて頑張りたい、「あなたのおかげだ。ありがとう」と言われるような、北海道の地域づくりの一員になりたいと考えるようになったんです。
起業は、僕同様に北海道に魅了された千葉県出身の同僚と二人でスタート。資金も人手も比較的かからず、小さく始められるWEBビジネスが最適でした。また団体旅行が下火になっていく中で、「北海道体験.com」の開設は、北海道観光の未来に、北海道民のホスピタリティの高さを生かす糸口になるのではないかと思いました。
北海道観光のホスピタリティの充実を課題に挙げる議論もいまだ少なくありません。そのような現状に腐心されていることは。
鈴木
これまでの北海道観光はバス移動等の「団体客」をターゲットに〝マス〟の満足度を考慮したビジネスモデルでした。しかし、例えばカヌーの定員は2人ですし、いっぺんに数十人が馬に乗れる乗馬クラブはありません。北海道の素晴らしさを観光客に説明して地域にお金を還元したいと奮闘するガイドや地元の人はいても、数十人の客を一度に受け入れるニーズには応えられず、彼らが〝おもてなし〟に長けた北海道観光の優秀なプレイヤーだと認知される機会を逸していました。
彼らは、世の中の観光スタイルが「個人客」へシフトする以前から、観光客一人一人が北海道を濃く深く楽しみ、心から好きになってくれることを願っていました。その願いこそ僕らと同じ。サイト立ち上げから4年。道内をくまなくまわり、各地で体験型観光業に携わる皆さんと実際お会いし思いを共有した上で情報掲載にまい進しています。
おかげさまで、今夏のピーク時には、一週間に約600組2000人が、弊社サイトでご紹介するプログラムを体験するほどに。また、体験・交流をキーワードとする観光振興についてのご相談を、さまざまな地域から頂けるようにもなってきました。
「北海道体験.com」が、観光客にも地域にも信頼されるメディアとして成長している証ですね。
鈴木 つい先日、サイトの利用者の方が弊社に直接お出でになりました。東京から甥っ子さんと一緒に道東を旅行された女性で、弊社にてご要望をお聞きして、釧路湿原を臨む眺望とカヌー体験両方が楽しめる宿をご案内したお客さまです。ゲームばかりしていた甥っ子さんが、目をキラキラさせてカヌー体験を楽しみ、もう一度一緒に北海道に来たいと言ってくれたと涙を流して感謝して下さいました。お客さまをリピーターにする北海道の体験型観光の魅力、パワーを確信できたうれしい出来事でした。
地域の過疎化は進んでいます。こうした中、地方経済の疲弊を食い止めるために外貨を稼ぐには、地元のものに付加価値をつけて域外に売るか、域外の人に来訪してもらってお金を落としてもらうかです。「北海道体験.com」のゴールは、地域主導のきめ細やかな旅案内を提供する「着地型観光」を振興し、地域づくりに貢献すること。
アジアの至宝とまで呼ばれる北海道。北海道観光に期待を寄せる市場は海外に及び、やりがいがあります。当面のミッションは、地元の皆さんの〝おもてなし〟を核に、北海道民の人情をどれだけ旅の演出に反映できるか。スタッフ一同力を合わせて、誠心誠意取り組んでいきたいと思います。
取材を終えて
ありがとうのスパイラル
自社HP以外に、行政の観光サイトの運営も受託する等、地域づくりを見据えた取り組みに共感するさまざまな企業や団体とネットワークが広がり始めていると話す鈴木さん。同志と感謝し合えたとき、起業のおもしろみを実感するそうです。これからも、信念と行動で〝ありがとうのスパイラル〟を続けていきたいという鈴木さんの言葉から、起業家の喜びが伝わってきました。