真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第43回 北大遺伝子病制御研究所免疫制御分野 教授、NPO法人イムノサポートセンター 理事長 西村 孝司さん

2011年10月14日 15時54分

 西村さんは免疫学の権威です。昨年は、がん細胞を排除する「キラーT細胞」と、その指令を司る「ヘルパーT細胞」を同時に活性させる新たな抗がんワクチンの開発に成功。臨床試験では末期がん患者のがんが完全に消失するケースも確認され、医療の新境地をひらく成果で注目されました。また、免疫力向上を促す道産食材の成分に着目した加工食品の商品化や、花粉症をはじめ現代病の症状緩和を目的とする観光ツアーの企画等、心身を癒し健康を増進する北海道の「ヘルスツーリズム」推進にも尽力。医科学的見地から「食・健康・環境・医療」と「観光」が結びついた〝イムノリゾート(免疫保養地を意味する造語)構想〟を提唱し、〝新北海道開拓〟と銘打つ、各地町おこしにも意欲的です。

研究に加えNPOの設立にも参画し地域振興に挑む西村さんの原動力は。

西村 孝司さん

西村 僕はがんで母親を亡くしています。それだけに、抗がんワクチンの開発には人生を賭け挑んできました。と同時に、免疫学者として元気や健康を促す体内環境改善の啓蒙にも腐心しています。

 抗菌グッズがないとつり革にもつかまれない人もいるほどのクリーンライフで、ばい菌も含む自然環境との共生関係はすっかり崩れてしまった現代。お袋の味はコンビニ等の「袋」の味へ、しつけには「お」がついて「おしつけ」になり、食生活の乱れやストレス過多で子どもたちも虚弱化し、ツベルクリン反応で陽転する小学生は50%ほどと、免疫力の低下は顕著です。

 地域活性は人が元気であってこそ。北大に赴任して以来抱いてきた、故郷・北海道に貢献したいという強い思いと、免疫学が憂慮すべき社会問題を解決する一助になるのではないかという使命感が、僕を地域振興に駆り立てたのだと思います。

 医科学的にみても、北海道には人体に好影響な素材が溢れているんですよ。例えば、黒千石大豆。甘み・風味良く料理のプロから高評価を受けている黒大豆です。成分を調べると、他の黒豆にはない免疫バランスを調整する物質が含まれ、大変ポテンシャルの高い食材だと確認できました。

 黒千石は、栽培に手間がかかり70年代以降生産が途絶えていましたが、その食味と品質の良さにほれ込み、「ただ売れればよい」という風潮を払拭しようと立ち上がった農家有志の努力で復興したもの。

 その心意気にも胸を打たれ、黒千石事業協同組合とともに、販路と生産の拡大を試行錯誤。医科学的見地から、栄養価を損なわない「どん菓子」の製法を生かした加工を提案し、地元製菓会社の協力も得て、今年5月に商品化が実現しました。

 道産食材に、美味しく身体によいという医科学的根拠に基づいた付加価値をつけることで、たらこが道外で明太子になり高価で販売されてきたような、いわゆる、北前船の時代から続く産業構造にピリオドを打つ。これも私が考える〝新北海道開拓〟のひとつの鍵です。

〝イムノリゾート構想〟も、ヘルスツーリズムの付加価値に着眼したものなんですね。

西村 構想スタートは6年前、スギ花粉のない上士幌町で、スギ花粉症で苦しむ道外の人たちを募り取り組んだ「スギ花粉疎開ツアー」からでした。世は健康ブーム。それまでも各地で、森林浴を観光プログラムに盛り込む等のヘルスツーリズムは行われていましたが、医の倫理を順守したものは多くなかった。

 僕たちは倫理委員会をつくり、効果を裏付ける採血や調査データの公表等を、参加者の了解を得て行いました。僕たちにとって「インフォームドコンセント」は当たり前のことですが、このツアーは医科学的見解で参加者の不安解消や安心感を重視した意義深い観光だと、国の観光振興施策を考える上でも大いに注目され、反響をいただきました。

〝新北海道開拓〟を図る西村さんが思い描く未来図とは。

西村 今は本当の健康が忘れられている時代。人間のエゴが引き起こした環境破壊もその引き金になっているのではないかと思います。人間は自然と共生する中でおこぼれをもらって生かされている。僕たちがこうした健全な姿勢を思い出すには、昔ながらの食生活や自然の豊かさを見つめ直すことではないでしょうか。これがイムノリゾート構想の広義な視点です。

 スギ花粉疎開ツアーでは、道産食材を使い免疫バランスを考慮した料理を提供。森の中を駆け回る等、参加者には童心に返って思い切り大自然と戯れていただきます。

 4泊5日の自然回帰で、重いアレルギー症状で悩んでいたはずの人たちが次々とマスクを外し、皆口々に「前向きに生きることを思い出した」と。人間は自然の一部であると気づいた時、内なる力が沸いてくるんですね。それを引き出す北海道の自然の力の素晴らしさも思い知りました。

 上士幌町を皮切りに、メタボ対策ツアーを実施した夕張市等、構想賛同地域は徐々に増え、北海道の未来を思う多種多分野にわたる多くの同志とも出会い喜びを感じています。僕たち一人一人の力はささやかかもしれませんが、構想を旗印に、地域再生を賭けアクションを起こす人たちの輪が、新しい北海道を創造する。それが、イムノリゾート構想を通し掲げる〝新北海道開拓〟に込めた僕の信念です。

取材を終えて

0から1を生む視点

 あきらめない研究者は必ず成果を出すと話す西村さん。偶然の発見も必然。たゆまぬ努力と自信が研究の道を支えてくれるのだそうです。0から1を生む研究者の視点に、北海道発・地域振興の未来を重ねるインタビューでした。


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