真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第46回 フードライター 小西 由稀さん

2011年11月25日 11時22分

 取材先は厨房へ、時には畑、漁船の上、牧場にも頻繁に足を運ぶという小西さん。料理や食材の〝おいしさ〟の背景に着目し、北海道の「食」の魅力を伝えるライターとして知られています。多種媒体への連載、寄稿の他、札幌を訪れる出張者の嗜好やTPOに添う提案型の飲食店案内「おいしい札幌出張 45の美味案内」(エイチエス刊)は間もなく三刷目刊行と好評。今夏発刊の「食のつくりびと 北海道でおいしいものをつくる20人の生産者」(エイチエス刊)では、各地生産者の言葉から、たくましく誠実な一次産業の営みにはせ、注目されました。現場主義によるおいしさの探求は、北海道の豊かさを実感する作業だと、小西さんは話します。

これまで一般的なグルメガイドでは知り得なかった情報こそが、小西さんの主題。おいしさをその背景から引き出す作業は手間がかかる事。それだけに小西さんの発信を信頼する読者が多いのだと思います。

小西 由稀さん

小西 私は室蘭の寿司屋の娘。店では、旬や漁場に配慮する仕入れが常でした。調理の舞台裏が身近な環境で育ち、皿の上の料理がなぜおいしいのか、その理由や背景にそもそも興味があったんです。世はグルメブーム。駆け出しの頃から評判の飲食店の取材は多く、料理人の方に料理が出来上がるまでのプロセスを伺え、嬉しくて。

 ライターとしての転機は、農産物の旬を解説する本の取材で、十数品目の野菜の生育過程をじっくり時間をかけ取材させていただけた経験でした。港町生まれで、それまで畑に関する知識が浅く、何を見聞きしても感動しました。

 種まきから話を聞き、育て方の工夫を知り、実際収穫したものを口にした時には、その繊細な味わいにも驚いて。甘さの奥に酸味がある、だから飽きのこない味になる。これを実現するために農家さんは費やしているのかと。伝えるべきはここだと思いました。

 ある農家さんは「自然相手の仕事だから、いちいち心が折れていたらやっていけない」と。収穫間際に台風等に見舞われる事もあり、努力が確実に実るとは限らない農業は、ある意味理不尽な仕事です。でも一喜一憂していたら仕事にならないんですよね。シンプルで実感が伝わる皆さんの言葉は、たくましくて優しくて深くて。

 食品偽装問題やTPP参加是非への関心の高さ等も含め、「食」がフューチャーされている昨今。「食」を伝える自分の役割は、おいしさ以外にもある。生産者さんの姿勢から推し量る事は多いです。

先日は、生産者と料理人と消費者が一堂に会するイベントに、主催側のお一人として関わっていらっしゃいましたね。

小西 懇意のシェフが発案した「食を通して、北海道を元気に楽しく」するイベントでした。お客さまは消費者。食材は地元生産者から。料理は、若手育成の場も兼ね、主に有志飲食店の若手料理人主導で作ってもらいました。生産者さんには料理をサーブする役割もお願いし、マルシェ出店やトークショーの出演で、彼らの声をじかに聞いてもらう趣向も加えて。

 自分が生産したものが、どう調理され、どう食べられているのか、普段見る事のない生産者さん。〝おいしさ〟の理由まではなかなか知る機会のない消費者の皆さん。料理人と生産者と消費者が互いに知り合う場づくりで、作りっぱなし食べっぱなしでは成り立たない〝おいしさ〟の背景に、少しでも関心を寄せるきっかけになればと思いました。

 笑顔あふれる会場で、料理人の皆さんも、こうした交流による料理への好影響に実感を深めたようです。私もこれまで取材を通し受け取ったメッセージは、文章や発言等で、精一杯伝えてきたとは思うんです。でも今回、〝おいしさ〟がもたらす活気を肌で感じて。読者であろう、参加してくださった皆さんも、私の文章だけでは伝えきれなかった事を感じ取ってくれたのではないかと。伝え方の可能性と広がりを感じました。

生産者、料理人、消費者の関わりが織りなす「食」の世界。小西さんのお話を伺い、一皿には、北海道の「人」の力が凝縮されていると感じました。

小西 収穫は年に一度。多くても一生数十回のチャンスに、農家さんは毎回一年生の気持ちでのぞむとおっしゃいます。また、どんなに長けた料理人も、最高の料理は一生作れないと。料理には、生産者の尽力と、それに謙虚に応えようとする料理人の技と配慮が込められている。その背景を知れば知るほど、目の前にある一皿を尊いと感じます。

 農漁村風景は手つかずの自然と相まって、北海道ならではの美しさを醸していますよね。黄金色の田には、稲穂につく一粒一粒のお米を思い出し一層いとおしくなったり、浜に干されたスルメイカには、松前漬けになるのかしらと巡らせたり。さまざまな景色が本当にきれいだなって。道産子の私が、こんなにも北海道の景色に魅了されるのは、ここから〝おいしさ〟が生まれていると気づけたからかもしれません。

 道産食材は多彩で豊富。それを、道民が食べ支え、買い支えれば、農漁村を支えることができる。〝支え合い〟を実感し、自然の恵みを皆で享受できる環境だから、北海道の食は豊かなのだと。伝えるなりわい。今後も現場主義で、計り知れない北海道の魅力や豊かさにさらに深くこだわって、「食」や「人」を応援する媒体のひとつであり続けたいと思いますね。

取材を終えて

行間に込められた思い

 畑では生産者さんと一緒に農作業をしながらインタビューを。料理人さんとの雑談も人間性や考え方を知る機会、という小西さん。長時間の取材も、実際記事になるのは伺った1割ほどだとおっしゃいます。小西さんの行間に込められた思いを知るインタビューでした。


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