真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第48回 公益財団法人そらぷちキッズキャンプ 医療担当看護師 宮坂 真紗規さん

2011年12月26日 11時21分

 滝川市丸加高原の裾野に広がる「そらぷちキッズキャンプ」(以下「そらぷち」)は、国内に約20万人いると言われている小児がんなど難病を患い「外で遊ぶことが夢」という子どもたちを対象にした、医療ケア付きの常設キャンプ場です。2004年、医療者有志や公園づくりの専門家等が発起し、設立プロジェクトがスタート。多くの賛同企業、団体、個人から寄付や支援を募り、全国各地のボランティアスタッフの協力で、自然体験プログラムを盛り込んだプレキャンプを重ね、来年いよいよ本格開園します。宮坂さんは小児科の看護師さん。もともとは東京で病院勤務の傍ら休みを返上し、医療ボランティアの一人として、東京と北海道を行き来しながらキャンプ運営に携わっていました。昨年、滝川市に移住。現在は、そらぷち専任の医療担当スタッフとなり、オープン準備に取り組んでいます。

そらぷちでの勤務に専念する決意をされたのはなぜですか。

宮坂 真紗規さん

宮坂 物心ついた頃からナイチンゲールに憧れていました。一度小児科に入院し、看護師さんのあたたかさに触れ、子ども心に病院生活がとても楽しかったと記憶していて。いつからか、入院をせざるを得ない子どもたちが快適だと感じる医療に私も従事したいと思うようになりました。

 でも実際は、どんなに誠心誠意治療にあたっても治すことができない病もある。受け入れざるを得ない仕事の現実を思い知って。治すことが難しい病気とたたかい、多くの時間を入院や通院生活に費やしている子どもたちに、子どもらしく充実した時間を提供してあげることはできないだろうかと考えるようになりました。

 そらぷちのボランティアに初めて関わったのはその頃。大自然の中、難病で苦しんでいるはずの子どもたちが無邪気にはしゃぐ様子を目の当たりにし、私がやらなければならないこと、やりたいことを、やっとみつけて。「これだ」と思いました。

病院内とは異なる環境で、医療者として心がけていることは。

宮坂 病気のことを忘れ思いっきり遊びたいけれど、体力がなかったり疲れやすい子どももいるので、こまめに休憩をいれたり。また医療ケアのサポートをしたり。充実感や達成感が得られるよう、時にはカウンセラーのような役割も務めながら、彼らを見守ります。

 難病の子どもたちは、手術等で長期間学校を休まなくてはならず、クラスメートとも疎遠になりがちです。ここに集う子どもたちは、同様の悩み、葛藤を抱えています。お風呂では、手術跡を隠す事なく「手術の回数だけ傷があるの」と、おしゃべりしていたり。ごく普通に仲良くしている子どもたちの姿に、深い〝つながり〟を見て取れます。

 風の音や鳥のさえずりが聴こえてくるそらぷちで心身解放され、友人と共感し過ごす子どもたちは本当に生き生きとしていて。治療や処置に追われる病院とは全く違う空間が、彼らにとって、いかに必要かを実感させられるんです。

そらぷちは、宮坂さんの医療者としての視野を広げる場にもなっているんですね。

宮坂 病院では、就寝や薬をのむ時間等、規則に沿い生活が管理されていますから、ともすれば、あれしちゃだめ、これしちゃだめ、と制限するのも、私たち医療者の善処でした。そらぷちは、「外で遊びたい」と願う子どもたちの、夢が実現する場所。こうしてみたらできる、という働きかけが大事です。

 キャンプで車いすの少年がかがめずイチゴ狩りをあきらめそうになった事がありました。それを見た地元ボランティアの皆さんが、率先して、動物をモチーフに、背の高いプランターを作ってくださって。車いすに座ったままで、収穫の喜びを体験してもらいたいという配慮からでした。

 移住してから、プロジェクトに関わるたくさんのあたたかいサポートにも気付かされ、心強さを感じています。病気や障がいをもつ子どもにも夢がある。夢があるかないかは、彼らの人生の〝質〟に関わる事ではないでしょうか。

 視力が弱くても、パイロットに憧れている子どももいるんです。そんな彼も、本州からここまで移動してくる間に飛行機に関わる多くの仕事に触れ、操縦士以外でも航空会社で働く機会があるのだと、希望を新たにしてくれたら、と。

 子どもたちが、病院外で見聞きする世界から吸収する力は、想像も及びません。家族同行のキャンプでは、お母さんがお子さんを見て「今までにない笑顔です」とおっしゃいます。「あんなに笑っているお父さんを見た事がない」というお子さんもいます。

 常日頃、自分の病が家族を心配させていると自覚している子どもたち。その胸の内を垣間み、ここでは、そのような心の負担も癒せるのだと思いました。今後も、頑張っている子どもたち一人一人の可能性と向き合って、ご家族やご支援くださる皆さんと共に〝夢のキャンプ創り〟を進めたい。そらぷちを拠点に、子どもたちに優しく寄り添う〝新しい小児医療〟を模索していきたいと思います。

取材を終えて

患者さんは先生

 どこが辛いのか、何をしたいのか、子どもたちの〝本当の気持ち〟への腐心が、やるべき事を教えてくれると話す宮坂さん。医療者として「患者さんは先生」という恩師の言葉を大切にしているそうです。北海道の大自然を舞台に展開する夢の創造。そらぷちに溢れる〝本当の笑顔〟の価値を思うインタビューでした。


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