真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第51回 夕張市長 鈴木 直道さん

2012年02月10日 12時20分

 2007年3月、財政再建団体(現在は財政再生団体と呼称)に指定された夕張市。日本有数の産炭地として栄えたまちも、国のエネルギー政策の転換等のあおりを受け、廃鉱、人口流出が加速。観光事業を柱に地域活性を試みるも振るわず、再建団体申請時の負債総額は約353億円。その深刻な実情が大きく取り沙汰されました。鈴木さんは、4年前、東京都が夕張市に応援派遣した元都職員。2年あまりの任期を終え都庁復職後、夕張市民有志の熱心な推挙に、市長選出馬を決意。昨春当選を果たしました。市長就任より間もなく1年。鈴木さんは、「市民の〝思い〟に力をもらい、地方自治の根本をみつめる日々」と話します。

派遣職員時より、市民とともに率先して汗をかかれている鈴木さんの様子を報道等で拝見していました。市長に就任されてからも、その姿勢は変わらないと感じています。

鈴木 直道さん

鈴木 夕張初赴任は冬。雪景色が心にしみました。雪国暮らしの辛苦に想像及ばない私がここでできることはなんだろうか、市民の思いに添う活動を模索する毎日。「夕張再生市民アンケート実行委員会」を立ち上げ、必要なものは何か、困っている事、財政破綻以降に望む改善点等、詳細な調査も実施しました。

 さらに回答から課題を整理し、当時の道副知事と総務副大臣に直接伝えたところ、その報告をもとに、除雪体制の見直しや、老朽施設の改築等が、再建計画に盛り込まれて。住民の〝思い〟は、誰も否定できない。再生を進める大きな力になると実感した経験でした。

 現在、政府は「地域のことは地域に住む住民が責任をもって決める地域主権改革」を推進。しかし夕張市は日本唯一の財政再生団体ですから、事業の立案や計画変更には、総務大臣の同意を得なければならないんです。

 そこで市長就任後は、市民5名以上の要請があればどこにでも出向く「市長と話そう会」に注力。先月から、モデル事業として「地域担当職員制度」を導入し、職員は5~8名体制で、公務として担当地域の会議などに参加し、できる限り丁寧に、市民の声を集めるよう努めています。

 大変手間のかかる作業ですが、地域再生の鍵となる重要なプロセス。市民との対話で知り得た〝思い〟が、国との交渉に臨む私の説得力になるわけですから。またこうした取り組みにより、地域の問題をより具体的に把握でき、市民と課題も共有できます。

 市民の要望が実現困難ならばなぜそれができないのか、目指すところが同じならばどうしたら実現できるのか、意思疎通の機会にもなり、行政不信も解消できる。

 夕張市の人口はおよそ1万500人。50年前の十分の一以下にまで減少しています。だからこそ、地域づくりに市民ひとりひとりの〝思い〟を反映させられるのだと。人口規模縮小は、マイナス面ばかりではないと考えています。

昨年度は、夕張メロン組合が北海道功労賞を受賞。夕張市のブランド力を再認識する表彰だったと記憶しています。

鈴木 夕張メロンの最盛期の売り上げは42億円ほど。それが今やその半分です。組合数の減少、贈答品文化の縮小等ネガティブな背景は依然あるにせよ、夕張メロンは、少なくとも最盛期当時の売り上げが可能なブランド。のびしろがあると捉え、派遣職員の頃から、ブランドに敏感な消費者をターゲットに東京で物産展を開催していました。

 昨年は4~5月の天候不順もありましたが、生産者の皆さんの努力により、下降の一途をたどっていたメロンの売り上げが、十数年ぶりに踏み留まり、0.1%増えました。

 私は道外出身者。首都圏には夕張メロンに憧れはあっても食べた事がないと言う人が少なくないんですよ。まずは多くの人にその美味しさを知っていただき、毎年購入し食べたいというリピーターを増やして、ブランド力を更に高めて行きたい。各地催事展開も検討しています。

 財政再生団体である私たちの奮闘は、一種ドラマ性も帯びている。起死回生が生む〝感動〟も付加価値ではないかと。ピンチをチャンスに。風土、歴史、特産品等、誇るべき地域資源に加え、まち再生の歩みも広く発信し、ブランド力強化につなげたいですね。

一昨年の再建計画によれば、残る負債総額は約322億円。赤字解消の期限は2026年。その間人口減少も進むと予想され、地域再生には、相当の覚悟で臨まれていると想像します。

鈴木 2060年の日本の高齢化率は約4割。まさに今65歳以上が44%の夕張市に将来を重ねれば、他人事とは思えないはず。東日本大震災の被災地にも廃業の増加や人口流出を苦慮する地域が多いと聞いています。私たちの再生は、日本の今後の地域づくりに関わるひとつのモデルケースになるのではないでしょうか。

 そのような意図もあり、今年から、国と道と市の3者協議の場を設置。毎年、3者が夕張で会し、市の実情や、真に市民が望む事に共感した上で、再生の方向性を話し合います。私は日本最年少の市長にして、高齢化率が高いまちの市長に選ばれました。日本の閉塞感を憂う人生の先輩方が、私に未来を賭けてくれた象徴的出来事だと受け止めています。

 長期債返済期間をできるだけ短くする事に加え、住民自治の根本をしっかりみつめながら、市民が住んでいてよかった、と言ってくれるまちづくりを重視し、再生を試みたい。今後も私にできないことは誰もできないと思うくらいの気概で、かじ取りに専念したいと思います。

取材を終えて

人生を賭けた挑戦

 都庁に務めながら夜間大学を卒業した鈴木さん。ボクシング部の主将も務め、倒れるほどの精神的体力的限界を乗り越え、仕事と学業を両立。「夢中で賭けるべき何かを探していた」と当時を振り返っていらっしゃいました。夕張再生は人生を賭けた挑戦、と話す鈴木さんの強い覚悟と意思が伝わるインタビューでした。


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