真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第7回 キャスター 佐藤 のりゆき(さとう のりゆき)さん

2012年10月19日 14時43分

 〝のりさん〟の愛称で親しまれる佐藤さんは、社会を取り巻く多岐多様なテーマに、本音で切り込むキャスターとして知られています。17年の長きに渡りメインキャスターを務めていた平日午前の人気番組「のりゆきのトークDE北海道(北海道文化放送)」を今春で辞し、大きな節目になったと語る佐藤さんの思いと展望を伺いました。

★佐藤さんは北海道で初めて、民放のアナウンサーから独立し、フリーのキャスターとして活動を始められました。キャスターは見解に注目が集まる仕事だと思います。それだけに歯に衣着せぬ発言の背景には、相当の覚悟がおありなのではないかと想像していました。

佐藤 のりゆきさん

☆佐藤 フリーになる前から、スポーツ実況や生ワイド番組の司会など、筋書き通りとはいかない生の現場を数多く踏んでいました。咄嗟(とっさ)の判断や感覚を言葉にする面白さがあり、視聴者の反応をタイムリーに受け取れる生放送には、格別のやりがいを感じます。

 キャスターの語源は「キャスティングをする人」。番組や放送内容のコンセプトを定め、話題を選択したり、適切なゲストをお呼びする、しゃべり手でありプロデューサーでもあると、僕は捉えています。だからこそ、どんな些細なニュースに対しても自身の考えはしっかり口にするべきだと。心掛けているのは「皆さんはどう思いますか?どう考えますか?」と視聴者や聴取者に預けない。「僕はこう思う」とはっきり伝えること。拍手をしてくれる人もいれば、「私の考えとは違う」という意見をいただくこともある。賛否はあって当然。むしろそれこそが大事だと思っています。

★おもねない発言や、独立後も北海道を拠点に活動を続ける佐藤さんの姿勢に、心強さを感じる道民も少なくないと思います。

佐藤 のりゆきさん

☆佐藤 独立のきっかけは、担当ラジオ番組で呼び掛けた「脱パンツ健康法」のキャンペーンでした。ゲストの丸山淳士医師が、健康保持には裸でいる時間が必要だと教えてくれてね。免疫力が増強するなど健康に好影響である上に、何も身に着けない〝頼りなさ〟を感じることで、人はかえって心が強くなり精神も自立できるのだと。心身に深く関わる健康法と自立のすすめの提案に、強いメッセージ性を感じました。

 とはいえ、大まじめ過ぎるキャンペーンではなく、スタッフと思案し、面白おかしく「パンツを脱いで寝よう」と銘打った。そうしたら、実践してくれた人が大勢いてね。体調がよくなったとか、持病の症状が和らいだとか、うれしい声が多数寄せられ、開始半年ではがきや手紙も段ボール何十箱にもなるほど届きました。

 東京のテレビ番組にも取り上げられ、僕にゲスト出演の依頼もある異例の展開。一地方局の仕掛けが、全国にまで及ぶ反響をいただけたことに、この仕事の醍醐味(だいごみ)をあらためて実感し、40代前半で、会社では昇格し順風満帆だったけれど、管理職となり現場を離れるのは本意ではないと、会社を飛び出しフリーで仕事することを決意したんです。

 実は当時、東京のメディア関係者から誘いもいただいていました。東京こそ大舞台と言う方もいるかもしれない。だけど僕は、さらに地元に密着したキャスターとなって、生まれ育った北海道がもっと飛躍する力になりたいという思いの方が強かった。その思いは今も変わっていませんよ。

★佐藤さんがお考えになる、北海道の飛躍の鍵は。

佐藤 のりゆきさん

☆佐藤 北海道の人口は、20年後に100万人、30年後は140万人減る予測です。飛躍するためには、ますます道民一人一人の「自立する」パワーが求められているんです。皆よい意味でしたたかさを持たないと。以前番組で、収穫物を加工し、ご当地名物として販売している1次産業のお母さんたちを特集し、応援していました。そのうちに、助成金などに頼らず食品加工販売事業を軌道に乗せるたくましい人たちも出てきた。知恵と工夫で自立に至った好例です。

 北海道の観光だって、アジアの入り込み客のほとんどが薄利の安価なツアーによるもの。また、北海道の観光予算は青森県の2分の1というのが実情です。でも例えば、洗練された〝おもてなし〟を重視し、上質なリゾートの旅を推進した阿寒の鶴雅グループに代表されるような、ゆとりのある層をターゲットにした観光スタイルを全道で打ち出してもいいし、新千歳空港も、北米線や欧州線の乗り入れも行う、アジア方面以外にも目を向けたハブ化を構想したっていいんですよ。

 先日、僕の発起で「北海道独立研究会」を立ち上げました。独立する気概で北海道の「自立」を考えて、道民に問い掛けてみようという試みです。既成概念にとらわれない発想と行動力で、北海道のけん引役を買って出る同志と束になって、〝官僚型北海道〟の依存体質を払拭(ふっしょく)していきたい。北海道を切り拓く、ひとつの足掛かりにしたいですよね。

 トークDE北海道は、その日の話題について電話をかけてきた視聴者と僕のやり取りが軸の生放送でした。僕は17年間一度も、不安を感じなかったし、困ることもなかった。放送を通し、北海道の皆さんと築いてきた信頼関係は財産です。

 レギュラー番組もひと区切り。今は、各局特番の出演や講演、シンポジウムで全道行脚しています。各地で懸命に奮闘されている方々とじかにお会いし、共感、激励できる機会も増えるのではないかと期待しているんです。今後も「北海道の自立」にこだわり、僕の思いを、北海道の皆さんに投げ掛けていきたいと思っています。

取材を終えて

魅力発信するキーマン

 佐藤さんは、一昨年から、北海道大学創成研究機構の客員教授も務め、教べんのほか、一見難解な研究分野を分かりやすく市民に紹介するスピーカーを担っています。同年、日本ソムリエ協会のソムリエ・ドヌール(名誉ソムリエ)にも就任。とりわけ道産ワインの広報に意欲的です。歯に衣着せぬご意見番であり、北海道の魅力発信のキーマンでもある佐藤さん。愛郷心に基づく核心の発言が、強くあたたかく響くインタビューでした。


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