真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第8回 株式会社クリエイティブオフィスキュー 代表取締役/プロデューサー 鈴井 亜由美(すずい あゆみ)さん

2012年11月02日 14時58分

 クリエイティブオフィスキューは、札幌の芸能プロダクションです。設立20周年を記念した書籍「CUEのキセキ~クリエイティブオフィスキューの20年」(メディアファクトリー刊)が、きょう2日発刊。鈴井さんの著述を中心に、全国区の知名度を誇る演劇ユニット「チームナックス」(森崎博之、安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真)をはじめとする所属タレントのプロデュースの背景や、道内外で展開するライブや演劇、映画制作の舞台裏など、東京一極集中と言われる芸能界に北海道発のエンターテインメントを発信し続けてきたこれまでが綴られています。ローカルの価値に注力する鈴井さんにお話を伺いました。

★オフィスキューは、道内芸能プロダクションの先駆だそうですね。

鈴井 亜由美さん

☆鈴井 設立は、当時、前社長(現会長の鈴井貴之氏)が主宰する劇団の一役者だった私の提案でした。芸能活動がそれほど盛んではない北海道で、劇団の維持は至難の業。私は運良くアパレル企業に就職もしていましたが、仲間の多くはアルバイトでなんとか生計を立てていた状況でした。新たなエンターテインメントを手掛けたり、劇団員のタレント活動を仕切る会社があれば、劇団の収入も安定し、役者たちのフィールドも広がるのではないかと思ったんです。

 知る限り道内にこうした本格的な芸能プロダクションはなく、思いきった提案でしたが、主宰の鈴井も賛同し、OLを辞め、わずかばかりの退職金を事務所設立に注いで、鈴井が社長、私が副社長で起業。間もなく鈴井との結婚、出産を機にマネージメントとプロデュースを担うようになりました。

 おかげさまで、弊社が企画から携わった番組が話題になったり、タレントたちの仕事も順調に増えていきました。ただ、北海道ローカル制作のドラマにも全国的に知られる俳優が起用されるなど、〝東京偏重〟とも思える道内業界の風土に、限界を感じていたのも確かです。軸足はあくまでも北海道ですが、思いきって東京に打って出れば、北海道での芸能活動にも好影響かもしれないと考え、8年前に意向をくんでくださった東京のプロダクションと業務提携をしました。

★鈴井さんがお考えになるオフィスキューの持ち味とは。

☆鈴井 私たちはお客さまの拍手が糧のサービス業。タレントにも「エンターテインメントは観客あってこそ」と伝えています。目指しているのは、驚きとともに幸福感が増す〝サプライズ&ハッピー〟な仕掛けです。

 こうした視点は、社員やタレントの普段にも表れているようで、私たちのエンターテインメントは社風を反映していると言われることもあります。チームナックスが初めて東京で取材を受けた時も、彼らなりの話術とキャラクターで笑わせていましたね。

 そんなサービス精神も東京の業界関係者の間で評判となって、次々と取材依頼が舞い込み、想像以上の速さで彼らが認知されていったと記憶しています。

 地方の小さなプロダクションが東京でやっていけるのか、不安が無かったわけではありません。でも皆さんは、「東京にはない個性」として私たちを迎えてくれました。大規模なエンターテインメントの中枢を担う東京の人たちと、北海道を拠点に小規模ながらチーム力で取り組むオフィスキューが、互いを認め合って〝シェイクハンド〟し、多彩なエンターテインメントが実現して行ったんです。

★全国的に高い支持を得るオフィスキューの活動は、地方の可能性の具現そのものなのだと感じます。

☆鈴井 弊社ファンクラブ会員の約8割は道外の方々です。北海道で開催するイベントにも遠方各地から足を運んでくれます。北海道を誇らしげに語る私たちに感化され、あらためて自分の故郷の魅力に気付けたという地方出身のファンもいて。共感し応援してくれるファンの皆さんの存在は原動力ですね。実は私も、長い間地元の魅力に鈍感でした。東京で、北海道はいいね、うらやましい、と頻繁に耳にするようになり、ハッとして。その頃偶然、帯広の出版社が発行している雑誌「スロウ」(クナウマガジン刊)を目にしました。誌面には、いわゆる観光ガイドとは一線を画す、道内各地の魅力的な情報が溢れていて。掲載されていたモノづくりの現場などを訪ね歩きながら、まるで宝探しのような高揚感をおぼえました。

 企画した映画「しあわせのパン」(ことし1月全国公開)はこうした感動が契機でした。洞爺・月浦を舞台に、登場する食品や小道具なども道内の素材、道内在住の生産者さんや作家さんの手による道産品でそろえ、映画の随所に、知る人ぞ知る素敵な北海道をちりばめたんです。主人公は「移住者」と設定し、〝外からの視点〟を盛り込んで、北海道の人が北海道の素晴らしさを再発見できるよう志向しました。

 映画は身の丈にあった規模ながら、全国で30万人を動員。北京国際映画祭にも招待され、韓国や台湾の劇場でも上映されて。ありがたい反響に、物理的な尺度では計れないローカルの価値を実感しました。受け手の「きっかけ=CUE(キュー)」になる活動に腐心した20年は、振り返れば、私たちを後押ししてくれたきっかけや出会いの連続でした。いただいたきっかけには、きっかけを創り応えたい。ローカルに愛着を持つ同志と、〝CUE〟のスパイラルで、北海道のあまりある魅力を共に発掘し、発信して行けたら。今後もそのような幸せなものづくりを、地に足を付け、地道に続けて行きたいと思います。

取材を終えて

何気ない発見が発想の種

 日常の何気ない発見や感動は発想の種、という鈴井さん。当たり前だと思っていたことがスペシャルに変わるふり幅や意外性が企画などに生かされるのだそうです。ささやかな気づきから大きな感動を生むプロデューサー・鈴井さんの深く優しい目線を知るインタビューでした。


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