インタビュー/北海道開発局長 和泉晶裕氏 

2017年09月15日 08時50分

北海道開発局長の和泉晶裕氏 食と観光を戦略的産業に位置付ける第8期北海道総合開発計画(2016―25年度)が2年目を迎え、日本全体の成長を支える「生産空間」の維持の具体的な展開が図られようとしている。生産空間維持のためには、鍵となる地域交通の自動運転化とこれに必須の高速ネットワーク網の構築や、災害に強い国土づくり、そしてそれを支える建設業の存在が欠かせない。7月に就任した和泉晶裕北海道開発局長にこれらの課題を聞いた。

(建設・行政部 小野 将広記者)

 ―生産空間について。

 北海道は既に人口減少が始まっており、特に地方部の環境が厳しい。その一方で例えば全国市区町村別の平均所得額を見ると、猿払村が昨年4位、一昨年が3位というように、昨年も一昨年も北海道では100位以内に5町村が入っている。これらの地域は農業、漁業の生産の場に加え、観光などの多面的機能を持つ生産空間として稼げるエリアだが、病院や学校がなくなるなど、住み続けられる環境がどんどん失われている。これらの生産空間をどう守り、維持していくかが最大のテーマだと思っている。

 ―具体的な取り組みは。

 本年度内にモデル地域を設定した後、複数年かけて地域課題やニーズを整理していく。一つの方策として、道の駅を中心とした自動運転で地域交通を維持する方法なども考えている。高齢化が進む地方部では、自動運転が鍵になる。自動運転は、まずは高速道路上での実用化を目指しているが、北海道では、本州に比べ高速ネットワーク網の構築が立ち遅れている。災害時のリダンダンシー(代替性)確保の面も含め、特に地方部での高規格幹線道路の早期整備は喫緊の課題と言える。

 ―地域交通の改善の一方で都心アクセス道路の協議も進んでいる。

 札幌市と道、開発局で検討会を立ち上げ、議論を進めている。今後は具体的な構造イメージなどを示し、市民合意を図っていく必要があると考えている。また、手稲ICから札幌南IC間の札樽道、札幌新道全体を見渡し、改善点などを洗い出すことが必要ではないか、と考えている。追加ICのアイデアや、信号のタイミングなどまだまだやり尽くしていないところもある。

 ―合意形成のポイントは。

 現時点で高架橋やトンネル、交差点改良の3案が示されている。一番安くてB/Cが出るのは高架橋だが、まちづくりの観点に立つと、都心の創成川通アンダーパス連続化で上空を公園化した結果、土地利用が進み、東側のまちづくりにつながったというケースもある。札幌市のこの地域での土地利用に対する考え方を踏まえての議論になると思う。

 ―昨年の連続台風災害から1年が経過した。

 観測史上初めて4つの台風が上陸・接近し、日高山脈に降雨が集中するという局地的な豪雨により道路や橋などに甚大な被害が発生した。堤防の決壊により、家屋や農地が被災し、農業生産にも大きな打撃を与えた。住民の生活を守り、社会経済活動を支え、生産空間を維持するために、災害に強い国土づくりは、開発局として真っ先に取り組む仕事だと考えている。高規格幹線道路整備によるリダンダンシーの確保と北海道緊急治水対策プロジェクトの着実な推進を図っていく。

 ―応急復旧、そして本復旧に建設業者が活躍した。

 未曽有の災害に直面し、測量・地質コンサルタント業者や建設業者の存在は本当に大きかった。24時間体制で復旧に取り組んだ建設業者の存在が地域を支えていることを実感している。274号日勝峠は10月末までの開通を目指しているが、非常に困難な条件下でプロジェクトを遂行している各企業に感謝したい。

 ―建設業を取り巻く環境は厳しいが。

 災害時に迅速に対応できる地域の建設業は絶対になくしてはならない。彼らが持続的に発展するためには、安定した公共事業予算の確保が不可欠だ。その意味で、道内には物流効率化のため、港湾、高規格幹線道路や防災、農業基盤整備などまだやらなければならない事業が数多くある。これらの事業化に全力を挙げていきたい。

 ―人材問題が喫緊の課題だ。

 人材確保の一環として、北海道に合った週休2日制モデル工事など、さまざまな労働環境の改善に取り組み、建設業の担い手確保を進めていく。一つのやり方としてi―Constructionをもっと強力に進めたい。特に今回の災害復旧では、274号日勝峠の復旧にICT活用が工期の短縮などに大きな成果を上げた。ICTの試行は年々拡大しているが、まだまだ本数が足りない。企業が「投資しなければ」と思える環境づくりに、積極的に取り組んでいく。


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