真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第17回 情熱ファーム北海道株式会社代表取締役社長 谷口 威裕(たにぐち たけひろ)さん

2013年04月05日 13時44分

 情熱ファーム北海道(本社・千歳市)は、道内8農業法人の共同出資による会社です。2011年夏、新千歳空港ターミナルビル内に、各法人の農産物や農産加工品を販売する直営店をオープン。“農家のプロ”たちによる農業の未来を見据えた試みを始動し注目されています。「情熱ファーム北海道は次世代につなぐ実践の場」と力を込める谷口さんにお話を伺いました。

★情熱ファーム北海道設立の経緯と意図を。

谷口 威裕さん

☆谷口 私が「北海道農業法人協会」の会長をしていたときに、新千歳空港リニューアルに伴う出店の話が舞い込みました。「北海道のショールーム」をコンセプトに、北海道で一番グレードの高いものを集めた商業施設を実現させたいという企画でした。ちょうど道内各地で奮闘する農家の気骨を全国に発信できるような仕掛けを思案していましたのでピンときて。早速会員に意図を伝え、賛同してくれた農業法人と共に立ち上げました。

 参画農家は、直営店でお客さまの多様なニーズをじかに聞き、そこに応え得る多様な農業を究めて行きたいと意欲的です。空港内は名店が軒を連ねているだけに競争も激しく、お客さまに認知いただくためには当然ステータスの高いものづくりが問われます。緊張感のあるビジネスのステージで6次産業化を志す農業法人の総合力はおのずと鍛えられます。

 農産物が収穫できない時季の営業こそ、農産加工品の商品力が鍵。直営店展開の実体を担う各法人の後継者や幹部社員の中には、商品開発は不得手と二の足を踏んでいる人もいるようですが、こうした消極的な態度は北海道の農業全体にも通じること。次世代には、自分たちが北海道農業の未来を拓くのだという気概で臨んでほしい。若い彼らのやる気に火をつけたいですね。

★谷口さんは明治時代の開拓期から続く谷口農場(旭川市)の4代目です。1968年の法人化は当時全国的にも珍しく、先駆けだったそうですね。

谷口 威裕さん

☆谷口 谷口農場を法人化したのは父です。富山県から入植し、未開の地に稲作を根づかせた初代。先見で、後に北海道経済発展の拠点ともなる苫小牧周辺に土地を求め、酪農経営も実現させた2代目。3代目の父も進取の気質で、減反政策が始まると、経営の安定を図り、冬期のエノキダケ栽培に着手。任されたのが入社したばかりの私でした。

 最初の競りは年末の需要期で、いきなり経営計画の倍の単価で売れました。ところが、年が明け需要期が過ぎた初競りでは、色や傘の開き具合などで値踏みされ、期待していた値が付かなかったんです。その頃のコメは、国の食糧管理制度で、極端に言えば、品質にそれほど頓着もせず食糧庁に買い取ってもらえましたから、同じ農業でこれほど違うものかと驚いて。市場原理を知り、アグリビジネスの可能性に開眼しました。

 そんな矢先に、エノキダケを栽培していた建物を失火で全焼させてしてしまったものの、すぐに再建し雇用も増やして生産規模を拡大。今度は需要期を見越して栽培し出荷したところ、売れに売れましてね。コメが大凶作の年に、谷口農場はエノキダケの収益で、その煽り(あおり)を受けなかったんですよ。多角経営でリスクを回避した原体験でした。

 70年代から、家族の健康問題を機に、農薬や化学肥料の使用を抑えた農法や有機農業にも取り組み、80年代には、特別栽培米の直販を開始。クリーン農業の実績と顧客対応のノウハウの蓄積を背景に、稲作と畑作のほか、直売所やレストラン、「トマトもぎとり園」の運営などで事業を広げ、経営を多角化し現在に至ります。

 辛酸もなめました。販売に乗り出したトマトジュースが、製造を委託していた工場の殺菌不良で破裂するという事故を起こしてしまい出荷停止となりました。それでもめげず自社工場を建設し何とか事業を立て直し、通販番組にも取り上げられて好反響。ところが、それに気を良くした大増産が誤算でした。一億円分もの在庫を抱えるてん末で、資金繰りに窮し、農協から離農勧告を突きつけられたんです。瀬戸際を恩師の導きに救われ、ご縁のありがたみを痛感しました。挑戦と失敗を繰り返し、農業と経営を肌で学んできました。

★情熱ファーム北海道は、実践を重んじチャレンジし続けている谷口さんの経験や姿勢が継がれる場にもなるのではないかと想像します。

☆谷口 農業は自然の法則による仕事です。私たちは、究めても究めても究めきれない自然界のことを、ひたすら考え、検証し、真理を求め続けています。この“飽くなき挑戦”が人間の能力を発現させるのだと経験的に確信しています。

 特に若い人たちには、大いなるチャレンジで、能力の“のびしろ”を実感してもらいたいですね。「1年の計を考える者は花を育てる。10年の計を考える者は木を育てる。100年の計を考える者は人を育てる。」ということわざは、博学だった祖父が教えてくれました。

 人間は皆バトンを握り走るランナーのようなもの。今の世の中が元気がないと言われているとすれば、世代と世代をつなぐ「意志」のバトンタッチができていないからかもしれないです。次世代に「意志」、つまり「心」を伝えることは、私の役割。人生で一番価値のある仕事なんじゃないかと近頃つくづく思うんですよ。

取材を終えて

心満たす農業に感嘆

 初代の背中を見て育ち開拓の歴史を心に刻んでいた谷口さんのおじいさまは、先人の名言などを引き合いに多くを伝えてくれたそうです。中でも「易経」の一節「積善余慶(積善の家に余慶あり)」は、自身の進むべき道、あるべき姿に照らすよりどころになっているとおっしゃいます。お客さま一人一人の胃袋だけではなく心も満たす農業を、という谷口さん。開拓農家に継がれる心意気に心響いたインタビューでした。


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