真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第18回 NPO法人美しい村・鶴居村観光協会理事長 和田 正宏(わだ まさひろ)さん

2013年04月19日 18時15分

 特別天然記念物・タンチョウの繁殖生息地として知られる鶴居村。南部には釧路湿原が広がり、生態系を保全する世界有数の自然とのどかな景観は観光客やカメラマンに人気です。近年は、移住体験用の村有住宅や村営分譲地への問い合わせも多く、憧れの移住地としても注目されています。観光振興は「村に息づく暮らしが軸」という和田さんにお話を伺いました。

★村の日常に着眼した観光振興の意図は。

和田 正宏さん

☆和田 交通が不便だった鶴居村は、昭和初期まで「陸の孤島」と呼ばれていました。1970年代に、釧路湿原を埋め立てて、農業用地に改良する計画もありましたが、湿原は非常に水はけが悪く、栄養分もない泥炭地。農業用地には不向きな上に、当時の土木技術では扱いづらい土質でした。いったん着工はしたものの作業がはかどらず、開発は頓挫。右肩上がりの時代に、村は取り残されてしまったかのようでした。

 ところが、1980年に日本がラムサール条約に加入し、釧路湿原は日本初の登録湿地となり注目されます。生態系保護のシンボルとしてタンチョウに関心が寄せられる中、鶴居村が舞台のテレビドラマが話題となり、観光で来村される方が増えていきました。

 時代の変遷に関わらず、私たちはいつもタンチョウと共に暮らしてきました。現在、国が鶴居村を拠点に推進している餌食活動も、食糧難の時代に、ある村民が越冬用に保存していたトウモロコシをタンチョウに分け与えたことがきっかけです。私たちにとって、タンチョウは仲間。その意識は今も昔も変わっていないんですよ。

 村のこれまでを鑑み、私たちが目指すのは、宿泊施設の増設や新たな観光施設の建設などではなく、村に息づく暮らしを生かす観光振興だと考えました。体験型観光には力を入れています。酪農家自らが指南する乳搾りや牧草刈り体験、ハーブ農家のお母さんたちによるハーブソルト作り体験などは、おかげさまで好評ですよ。

 高評価の地チーズ生産に加え、地ワイン生産を模索し、ブドウ栽培の研究も始めました。鶴居村ならではの「食」拡充にも奮闘中です。2600人ほどの小さな村で、宿泊施設数は限られていますが、暮らすような旅を楽しんでいただくことで、「ただいま」とまた帰ってきてくださるリピーターの宿泊回数を増やせれば。長期滞在事業のモニターアンケートでは再訪の要望が多く、手応えを感じています。

★和田さんは、タンチョウ写真家としても活躍されています。タンチョウの品性が伝わる写真は、美しく、それでいて温かい印象で、撮影に込めた和田さんの思いを想像しました。

☆和田 私が初めて至近距離でタンチョウを見たのは中学生の頃でした。気高いたたずまいで、こんなに神々しい鳥が身近にいるのだと子供心に感激し、写真を撮り始めたんです。

 タンチョウは、まるで人間のような風情を見せます。つがいの絆に感じ入る光景にもよく遭遇します。ある時は、つがいの一羽が電線にぶつかって落ち、ばたばたと苦しみ亡くなる事態に、連れ合いは明らかに動揺した様子でそこから離れず、悲痛な思いが伝わってくるようでした。

 私の理想は、強じんでいて奥ゆかしさのあるタンチョウの心情を表現する写真です。毎日撮り続けても飽き足らず、タンチョウの奥深い魅力を実感しています。観光客には私同様タンチョウに魅了された写真愛好家も多く、撮影談義もしばしば。タンチョウを通し、村外の方々と共感できる有意義なひとときを、私自身も大いに楽しんでいます。

★鶴居村は、人の心を解放し、人と人の距離を縮めるような魅力に溢れていると思いました。

和田 正宏さん

☆和田 私は鶴居村で生まれ、中学卒業後進学と就職で数年村を離れていました。釧路や大阪、札幌などで過ごし家業を継ぐために帰郷。そこで初めて故郷が醸す安らぎや自然の美しさにあらためて気付き、観光業を通し(和田さんは「ホテルTAITO」のオーナー)、その素晴らしさを多くの人と分かち合えればと思いました。

 時折、宿泊のお客さまのご要望で、自然ガイドも担います。森の中では、足元のアリの道に目をやり、「アリは餌を運びながら土を耕し、その土が川に流れるおかげで水生昆虫が増え、魚も増えるんです」などとお話させていただきながら、皆さんと自然の循環にはせる時間を過ごします。たった数時間の森林散策で、参加者の歩き方が穏やかになり表情が柔和に変化する様に、私自身も優しい気持ちにさせていただけます。

 観光協会の主催で、今月から「フットパス事業」が始動しました。10月まで毎朝、国立公園の特別保護区を歩くコースで、村民ガイドがお供致します。昨秋の試行では「鶴居らしさを満喫できた」というお声を多数いただいていますので、今後の展開が楽しみです。

 協会は、昨年NPO法人になりました。現在は村の補助事業団体ですが、一法人として鶴居村の価値に着目してくださる企業などとの連携を強化し、ゆくゆくは独自の財源を持って機能したいですね。何度も訪れたくなる鶴居村のありのままの魅力を、さらに広くきめ細やかに発信していきたいと思います。

取材を終えて

気負わぬ笑顔に誇り

 鶴居村は、小規模ながらオンリーワンの魅力で輝くまちの発展を目指す「日本で最も美しい村」連合に加盟しています。協会の名称に「美しい村」を掲げ、観光客だけではなく、村民にも村の美しさを再認識してもらえれば、と和田さんは話します。肩肘張らず、〝あるもの”で最高のおもてなしを、という和田さん。気負わぬ笑顔に、鶴居村への愛着と誇りを感じるインタビューでした。


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