真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第21回 NPO法人ワインクラスター北海道代表 シニアソムリエ 阿部 真久(あべ まさひさ)さん

2013年06月07日 17時32分

 今春始動したワインクラスター北海道(本部・小樽)は、道産ワインのプロモーション事業を軸に、地域振興と新たな食文化の創造を目指しています。阿部さんはこれまで北海道ワイン(本社・小樽)に勤務。シニアソムリエと北海道フードマイスターの資格を生かし、同社商品の企画や広報に携わるほか、「北海道ワインツーリズム」推進協議会(ことし3月末で解散・以下、推進協議会)の事務局長として、広く道産ワインの普及と認知向上に尽力してきました。起業は「夢を懸けた一念発起」と力を込める阿部さんにお話を伺いました。

★阿部さんは、宮城県仙台市のご出身です。移住以前はホテルマンで、受験年齢最年少(23歳)で資格を得たソムリエとして活躍されていたそうですね。

阿部 真久さん

☆阿部 高校卒業後、宮城県蔵王町のリゾートホテルで、レストラン業務に従事していました。バブルの余韻が残っている時期で、ワイン通のお客さまも多かったのですが、当時ソムリエが在籍していたのは首都圏の有名ホテルなどだけでした。

 それならばと、ワインの勉強を始めたものの、専門書を読んでもさっぱり意味がわからない。名だたるワインもなじめない味ばかりで、なかなか勉強に身が入らなかったんです。せめてホテル常備のものについては理解していたいと、レストランでお出ししたワインのボトルの底にほんの少し残るワインの味を毎日確かめていたところ、ある時ピンとくるものがあって。産地はフランスのロワール地域。軽やかで生き生きとした、嗜好(しこう)にぴたりとくる白でした。

 これを機に、がぜんワインに興味がわき猛勉強。1997年のソムリエ試験に初挑戦で合格しました。仕事に張り合いはありましたが、赤ワインブームの折、何でもいいから赤ワインをなどと、ご希望されるお客さまも少なくありませんでした。料理とのマリアージュや多種多様なワインの世界を楽しんでいただきたい気持ちから口惜しさも感じ、ワインが食文化として定着していない日本で、ソムリエとしてやるべきことを思案するようになったんです。

★思案の末、転職されたのが北海道のワインメーカーでした。経緯は。

阿部 真久さん

☆阿部 レストランで扱うワインはフランス産が主流で、ワーキングホリデーでやってきたオーストラリアの若者たちから「日本のワインに関心のない日本人はナンセンス」と指摘されたことがありました。

 彼らは「オーストラリアワインが世界一」だと譲らない。自国に対する彼らの誇りに感じ入り、あらためて国産ワインを飲んでみたんですが、残念ながら輸入の濃縮原料に水を加え発酵させているものが目立ち、熟練の造り手によるすばらしいワインはお客さまにお出しするには躊躇(ちゅうちょ)する高価格でした。

 「国産は扱いづらい」という業界の定説を実感していた矢先、酒屋さんにある北海道産の白ワインを薦められたんです。値段は1200円と手頃。ラベルを見たら、当時の国産には珍しい3点表示(ぶどう品種名、収穫年、原産地)に社長名の記載や押印までされ、造り手の責任感や誇りが伝わってきました。

 飲んでみると、ソムリエを志すきっかけとなったロワール地域のワインをほうふつとさせる味わい。国産ワインの可能性を感じ、日本人にワインの豊かさや価値を広めるためには、道産ワインの普及が鍵になるのではないかと直感しました。ほれ込んだワインの醸造元だった北海道ワインの社長に思いをしたため手紙を送り、これが機で2000年に小樽に移住。北海道ワインに入社しました。

 ソムリエは、ワインの背景を熟知する専門家。お客さまのニーズを捉える〝マーケティング型〟の仕事でもあります。所属した総合企画室でも、知識と経験が生きました。それまで北海道ワインの商品は、全て「おたるワイン」ブランドで販売していました。これではそれぞれの持ち味が伝わらないと、味や製法、価格帯別のブランド展開を提案。顧客ターゲットも明確にした販売戦略で、主婦からシェフまで購買層の幅を広げました。

 推進協議会の活動では、主に各地ワイナリーにバスでお客さまをご案内するワインツーリズムを企画して実施。地域振興を模索する行政や自治体、地域の皆さんに協力をいただきながら、生産者と消費者を橋渡しするガイドを務め、風土を物語るワインの魅力を多くの人と楽しみ、分かち合いました。

★阿部さんは昨年、小樽商大大学院を修了しMBAを取得しました。道内各地にワイナリーも増加。今や北海道は、名醸造家も移住してくるほど注目のワイン産地です。道産ワインに追い風が吹く中での起業に期待が寄せられています。

☆阿部 大学院では経営知識とNPO法人設立の同志を得ました。北海道ワインの皆さんや推進協議会の仲間も起業を後押ししてくれました。「周到な準備」「周囲との連携」「奇策」は、成功のための3原則といわれているそうです。脱サラ起業こそ、私の奇策。思い切りました。

 当面、「食」や「観光」に関わる業種や業界団体との連携を推し進めながら、世界の名醸地さながらのワインツーリズム定着に向け力を注ぎます。移住を決意した13年前から、北海道が世界的なワイン産地になるという確信は揺るいでいません。道産ワインの真価を誠実に伝え続け、日本に新たな食文化を創造したい。壮大な夢です。だからこそやりがいもあります。夢を力にかえ、長い目でじっくりと取り組んでいきます。

取材を終えて

世界の北海道見据えて

 戦前を知るおじいさまや厳格だったお父さまの言動から、日本人の心根を教えてもらったという阿部さん。道産ワインを切り口に日本のポテンシャルを掘り起こせれば、と意欲的です。〝世界の北海道〟を見据える阿部さんの未来図に、夢がふくらむインタビューでした。


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