真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第26回 NPO法人住んでみたい北海道推進会議ちょっと暮らしアドバイザー 大山 慎介(おおやま しんすけ)さん

2013年09月06日 16時49分

 「ちょっと暮らし」は、希望する期間や地域で、家具や家電を備えた賃貸住居に住み、地元の人と触れ合いながら北海道暮らしを体験できる交流プログラムです。2006年、移住促進を核に地域活性を目指す民間組織「住んでみたい北海道推進会議」(09年にNPO法人化)が発起しスタート。賛同する市町村との連携で主に道外在住者を対象に利用者を募り、定年退職後のセカンドライフを展望する層などを中心に人気を集めています。12年度には道内81市町村で実施し、延べ1975人が利用しました。ちょっと暮らしが、都会と地方の新たな関係を築く手掛かりになれば、という大山さんにお話を伺いました。

★ちょっと暮らしが目指す地域活性とは。

大山 慎介さん

☆大山 僕は北海道庁に勤務しています。ちょっと暮らしは、知事政策部在籍時に構想しました。移住促進は、過疎地域の人口減少を食い止める有効な手立てではありますが、北海道に憧れ移住に関心のある方でも、住み慣れた土地とは離れ難いもの。そこで、場所も、時期も、期間も、利用者次第で、試食や試飲のように〝試住〟していただける柔軟な切り口であれば、移住希望者の間口を広げられるのではないかと考えました。

 有識者の助言や民間企業の支援を請い、住んでみたい北海道推進会議を発足。各市町村にも協力をお願いしました。最初の呼び掛けに賛同してくれたのは、浦河や当別などの8町です。いわゆる全国区の観光地という地域ではありませんでしたが、道外から28人の希望者が参加しました。

 滞在には、空き家や、廃校を機に使用しなくなった教職員住宅など、既存の住居を活用。行政の助成制度などに頼らない仕組みづくりも話題となり、多くのメディアにも取り上げていただいて。思いがけない好感触でした。翌年07年度には、20町に年間延べ417人が滞在。以来、NPOと賛同市町村で組織する「北海道移住促進協議会」(会長は竹中貢上士幌町長)が運営の両輪となり、実績を重ねています。

★大山さんは2年前までNPOに出向され、統括プロデューサーを担っていました。部署異動後(現在は総合政策局科学技術振興課に所属)も、勤務時間外や休日を活動に充て、各地に赴いて、講演やちょっと暮らしを希望する道外在住者との面談、企業と市町村の橋渡しをするなど精力的です。原動力は。

大山 慎介さん

☆大山 活動の盛り上がりと可能性が励みです。ちょっと暮らしでは、町内会のイベントなどにも積極的に参加し、地域住民との縁を大切にしてくださる方も少なくありません。都会と地方の温かなつながりを感じる光景です。また、平均滞在日数は30日ほど。ちょっと暮らしによる消費は、町のあらゆる商売や産業にも影響し経済も活性します。厚沢部町では、高齢者の需要を背景に、民間企業の出資で高齢者向けの賃貸施設が建設され、新たな雇用も生まれました。ちょっと暮らしのニーズをくむことで暮らしやすい町づくりが進み、地域住民も安心できる環境が整備されたよい例です。

 僕は、ちょっと暮らしで都会から一時的に地方にとどまる人口を「滞留人口」と呼んでいます。ちょっと暮らしは、利用者にも地域住民にも企業にも市町村にとっても有意義なツール。少子高齢社会で人口は減っていっても、滞留人口が増えていけば、地域は元気になるんじゃないかと。現況は、50代以上が利用者の8割を占めていますが、若いファミリー層や20代、30代の希望者も徐々に増えています。近い将来、10万人規模を遥かに越える規模になるのではないかという見方も多く、新たな市場として注目されつつあります。

 そうした中で、今一番の課題は、受け入れ物件が大幅に不足していること。ここに大きなビジネスチャンスもあるんです。これまでは仕組みの基盤づくり。これからが、ちょっと暮らしの第2ステージだと思っています。

★第2ステージで注力されることは。

大山 慎介さん

☆大山 ちょっと暮らしは、比較的ゆとりのある定年退職後のライフスタイルと捉えられがちですが、完全移住前の試行や、シーズンステイ、二地域居住の機会以外にも、多様なニーズに応えられる仕組み。さらに滞留人口を増やしていきたいですね。

 例えば、オフィス誘致の推進です。以前、東京の会社が、十勝・本別町のちょっと暮らしを活用。テレワークを用い社員を滞在させたところ、コストもそれほど掛からず、支店さながらに機能し、社員のリフレッシュにもつながると好評でした。大学からのお申し込みもあります。ことしは中京圏の3大学3学部の学生たちが、厚沢部町でちょっと暮らしをする予定で、高齢福祉対策についてなど、それぞれの研究テーマに添う町の事情を実地調査するそうです。

 ちょっと暮らしで人が動けば、モノも知識もスキルも動く。それは必ず、集落対策にもつながる地域の力になると信じています。地方も大変ですが、都心に住む知人や友人は、北海道の住環境がうらやましいと口をそろえます。ちょっと暮らしは、「病める都会」と「疲弊する地方」いずれも幸せになる糸口のようにも感じています。

 ささやかですが、この取り組みが、新たな「日本の笑顔」につながれば、うれしいですね。今後も、僕の何十倍も地域を思う地域の人たちとともに、北海道がもっと日本に貢献でき、道民ももっと楽しめる明るい未来を模索していきたい。「着眼大局着手小局」で着実に取り組んでいきます。

取材を終えて

伝わってくる郷土愛

 大山さんは、道外(中京圏、関西圏)でも人気のラジオ番組「ちょっと暮らし北海道」(STVラジオで毎週日曜日午前7時30分~)に出演しています。リスナーから週に200通以上もお便りが届く反響に、生まれ育った北海道の魅力を再認識されるそうです。道産子にとってちょっと暮らしは〝気づき〟の機会、という大山さん。募る郷土愛がひしひしと伝わってくるインタビューでした。


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