真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第35回 街制作室株式会社代表取締役 国分 裕正(こくぶん ひろまさ)さん

2014年02月07日 14時03分

 街制作室(本社・札幌)は、街づくりや複合商業施設を中心とした企画・プロデュースからデザイン、建築設計、運営サポートまでを一貫して行う会社です。スーパーマーケット、飲食店の新規開店やリニューアル、大通ビッセ(札幌)、新丸の内ビル、JPタワーKITTEの飲食ゾーン(ともに東京都千代田区)をはじめとする都心のランドマーク開発、またマンションや病院の設計なども手掛け、全国各地で多様なプロジェクトを展開。生活者の心を豊かにする「街」の創造に尽力したいという国分さんにお話を伺いました。

★施設や建物のプロデュースに、「街」を意識する意図は。

国分 裕正さん

☆国分 20代前半にヨーロッパを旅し、パブやカフェ、教会、広場に、学校や仕事帰りの人たちが集い、思い思いに〝よい時間〟を過ごしている日常の風景に引かれました。今も脳裏に焼き付くその光景が、コンセプトづくりに影響しているかもしれませんね。

 デベロッパー会社に勤務時、初仕事で、マンション一体型エリアの中の商業部門をプロデュースしました。構想したのは、今でいう「ライフスタイルセンター」。いわゆる新しいかたちの商店街で、センターとはいえ、屋外に衣食住に関わる専門店舗が軒を連ねる通りをつくり、その間にベンチなどを配置。人々が行き交い、お茶を飲みながらおしゃべりに興じたり、休めたり、買い物客だけではなく訪れる誰もがくつろげるコミュニケーションの拠点を志向しました。90年代初めで先駆の試みでしたが、そもそもは更地だった場所が、思い描いていたにぎわいの空間に変わった様を目の当たりにした時には、うれしかったですね。

 96年に、1級建築士でパートナーの岡本克己氏(現代表取締役専務)と意気投合し独立、起業。建築やデザイン、マーケティングなど各分野のエキスパート集団であることを強みに、主に私はコンセプトワークを担い、「風土の継承」「コミュニティの創造」「自然との共生」という3つの考えを柱に、スタッフたちと思いを共有して、これまでに300ほどのプロジェクトを手掛けました。

 施設づくりも、建物を建てる時も、住まう人が心豊かに暮らせる街づくりを念頭にしています。ある社会学者は、街の居場所を定義し、第一の場所(自宅)、第二の場所(職場)に加え、第三の場所(市民が憩い交流できる場所)の存在が、生活者の暮らしの質を高めると提唱しています。私たちはその全ての場所づくりに関わっていますが、街に息づく「第三の場所」をつくることを重視しています。

★ワンランク上の品ぞろえで人気のスーパーマーケットや、良質な道産食材を直売するHUGマート(札幌市中央区)など、質を重視した店づくり、施設づくりも特徴ですね。

国分 裕正さん

☆国分 価格競争が加熱する中、「上質」に腐心する企画には、20年ほど前から力を注いできました。安売り店舗との差別化には、少量生産のこだわり商品を仕入れたり、店内での手づくりの品も扱うことも多く、人手も手間もかかるもの。その分商品の値段も高くなってしまいますが、おかげさまで手掛けた店は販売実績もよく、高価でもクオリティーを優先するニーズが少なくないことも実感しています。誠実によいものをつくっている多くの生産者や店主と懇意になり、彼らを応援する機会を思案するようにもなりました。

 HUGマートは、道内各地の生産者と直接取引するアンテナショップで、生産者の顔が見える農産品や地域選りすぐりの特産品を2000―3000品目販売。時折、生産者自ら商品を販売する催事なども開き、生産者と消費者の橋渡しの場にもなっています。

 実は現在、シンガポールにアジア最大級の規模で「北海道」に特化したエリアをつくるプロジェクトも進行中です。有志と共に構想を固め、国の支援も請い交渉を重ねています。実現すれば、道産品の「一流」と「本物」の物販と飲食が融合した楽しい空間になりそうです。北海道とアジア諸国の交流拠点となる一大プロジェクトで、道内の意欲ある生産者や経営者の事業拡大を後押しできればいいですね。

★心の豊かさや質を問う姿勢が、街制作室の事業の鍵なのですね。

国分 裕正さん

☆国分 今夏には、那覇空港そばの瀬長島に、弊社が手掛けた新名所がオープンします。沖縄の食、モノ、文化を提供する商業施設で、5―15坪の店が立ち並ぶ「集落型リゾート」になる予定です。箱ものにはせず、1年を通し屋外で飲食ができる沖縄ならではの風土とアイデンティティーが生きる空間づくりに努めました。東日本大震災以降、心の豊かさとは何かに、より思いめぐらすようになりました。

 沖縄の小さな離島で、人の背丈ほどの街灯がほのかにともる夜道を歩いたことがあるんです。上空は満天の星空。星の輝きをかき消すほどの明るい夜に慣れていた自身を省みたひとときでした。

 街それぞれに、その地に根ざした最も自然なライフスタイルがあります。技術は目覚ましく発展し、世の中は便利になりましたが、便利さの追求ではなく不便の中に見いだす豊かさを大切にしたい。街の明るさより星の輝きに心を寄せる感性を忘れず、愛情を注いで、街の未来の創造に貢献していきたいですね。

取材を終えて

心豊かな街づくり追求

 国分さんは、歌志内市のご出身です。炭鉱町の長屋暮らしで、地域全体が家族のようなコミュニティーの中、人情味溢れる環境の豊かさを肌で感じ育ったとおっしゃいます。心豊かな街づくりに専心する国分さんの本望が伝わってくるインタビューでした。


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