〝グローカル(グローバル+ローカル)スタンダード〟をキーワードに、道内外のセレクトショップやファッションビル、アパレルブランドなどのプロデュースに携わる佐々木さん。総合プロデュースを務める「札幌コレクション」は、ことしで8回目(4月26日に開催)を迎え、1万人規模の一大ファッションイベントとして定着しています。2010年には、ニューヨークの日刊ファッション紙「WWD」により「業界注目の14人」の1人に選出。昨年はシンガポールに「Daisuke Sasaki Asia Fashion Fund」が設立され、佐々木さんのプロデュースワークを軸に、アジアのファッション文化の底上げを図る世界的なプロジェクトも進行中です。札幌を拠点に、ファッション文化の向上を模索する佐々木さんにお話を伺いました。
★ファッション業界を志したきっかけは。
☆佐々木 高校時代から志向していました。進学した函館ラ・サールには、英語が堪能だったり、抽象画に精通していたり、何かを強烈に嗜好(しこう)し一芸に秀でている生徒が多かったんです。理想とする医師を目指し、放課後もなお熱心に勉強を続ける友人もいました。彼らに刺激を受け、僕も夢中になれる分野を見つけ、その道を極めてみたいと思うようになったんです。
ちょうど思春期。関心事はファッションで、ファッション誌で目にするブランドの存在感に焦がれ、そのブランドが生まれた、かの外国に思いをはせました。シャネルやエルメスは、世界の多くの人に愛され、リスペクトされているでしょう。ファッションの魅力は、言葉が通じない人たちとも共有できるんです。ファッションは、僕にとって、世界と自分をつなぐ扉のようなもの。興味は尽きません。
★札幌コレクションは、地方都市発ファッションイベントの草分けでした。開催の経緯と意図は。
☆佐々木 パリやミラノのコレクションでは、〝今〟を捉える研ぎ澄まされた感覚とそれを具現する確かな技術に感嘆します。そこで発表されたスタイルや色や素材が時代を創るんです。世界のスタンダードが生まれる瞬間を目の当たりにするたびに、圧倒的な感動を覚えました。
僕は、札幌市内のアパレル企業に勤めた後、2000年に独立。ファッション業界といえば、派手なイメージが先行しがちで、雇用したスタッフの親御さんから、わが子を軽薄な職場で働かせるわけにはいかないなどとお叱りをいただいたこともあって。札幌コレクションを実現させ、ファッションの価値や感動を少しでも伝えられたらと思いました。
とはいえ、札幌には世界のファッション先進地のような土壌はまだなく、強力なデザイナーがいるわけでもありません。僕は、百貨店やファッションビルが集中する地方都市の地域性に着眼。それら商業施設の協賛をいただき、それぞれが擁するテナントのブランドでコレクションを構成し、札幌のファッション市場の充実を表現する、新たな切り口のコレクションを検討しました。
競合他社であっても、ターゲットが違えば、扱うブランドや商品単価も違ってきます。顧客の取り合いを懸念する商業施設には、ブランディングで他社との差別化を明らかにし、ご理解をいただきました。
第1回の運営費は3500万円ほど。チケットの売り上げのほか、異業種でありながら僕の活動に信頼を寄せてくださる建設会社さんから協賛金をいただき、足りない分は、以前の職場のボスだった峰江卓也氏と、コレクションの演出を担当する岩田圭悟氏と僕で折半。ファッションで札幌を盛り上げようと、業界の先輩や同志も惜しみなく力を貸してくれたんです。
初回から3500人を動員する盛況で、その後、僕らのチャレンジに共感してくれた道外の方からもご依頼をいただき、東北や関西などのコレクション立ち上げにも携わりました。思いがけない広がりでしたね。札幌コレクションが、良質なファッション文化のコンテンツとして根付き、創造都市を掲げるまちの「格」を上げる一助となれば。その責任に、やりがいを感じています。
★Daisuke Sasaki Asia Fashion Fundは、佐々木さん個人のために設けられたファンドです。ファッション業界では、極めてまれなのだそうですね。
☆佐々木 WWDに注目されて以来、活動の幅がさらに広がりました。12年には、国がアジアに向けて日本の文化を発信する目的で制作した僕の特集番組が、日本以外のアジア各地で放送されたんです。それがシンガポールの投資家の目に留まりファンドが立ち上がりました。例えば、着心地のよいブランドニットを、「高価格」に満足し着ているか、最高級の素材と最高峰の技術のたまものであると知り、その背景に「敬意を払い」着ているかでは、大きな差がありますよね。
アジアのファッション文化醸成の鍵は、そのような審美を鍛える仕掛けをどれだけ広く展開し、積み重ねていけるかだと思っています。一朝一夕の作業ではありませんが、今できる限りのベストを尽くすのみ。本物志向のファッション文化が根付く100年後、200年後を励みに、細部に配慮し丁寧に、プロジェクトを全うしたいと思います。
取材を終えて
謙虚さと職人気質備え
仕事にゴールは定めないという佐々木さん。ご自身の役割は、ファッション文化が醸成する時間軸の一端であり、常に「まだまだ」という思いで臨んでいると話します。華やかな活躍で注目される佐々木さんの謙虚さと職人気質を感じるインタビューでした。