真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第40回 株式会社ノラワークスジャパン代表取締役 中川 裕之(なかがわ ひろゆき)さん

2014年05月02日 14時19分

 ノラワークスジャパン(帯広)が生産する完熟マンゴー「白銀の太陽」が評判です。南国原産のマンゴー。国産主産地の沖縄や宮崎では、夏場に出荷の最盛期を迎えます。白銀の太陽は、長い日照時間や雪氷資源、モール温泉熱など、十勝の自然エネルギーを活用したビニールハウス栽培により生育時期を調整。お歳暮商戦やクリスマスシーズンで需要が高まる12月に収穫され、一昨年の初出荷では、1個5万円という高値が付き話題となりました。真冬のマンゴー作りは「十勝〝夢〟プロジェクト」の第一歩、と意気込む中川さんにお話を伺いました。

★南国のフルーツとして知られるマンゴーが、真冬の北海道で収穫されているなんて驚きです。その発想と試みに感嘆しました。

中川 裕之さん

☆中川 そもそも白銀の太陽の栽培は、宮崎県日南市でマンゴー農園を営む永倉勲さんの念願だったんです。私は以前石油販売業を経営していました。長年、地元の経済人仲間とまちづくりの活動にも取り組んでいます。

 2010年に、農水省のイベント運営に関わり日南市を訪れ、その懇談会でたまたま永倉さんと隣合わせになりました。彼は「真冬の12月に真っ赤に実るマンゴーを作りたい。宮崎では難しいけれど、北海道でならできるはずだ」と、真顔で言うんです。

 聞けば、宮崎のマンゴーはハウス栽培で、需要期の12月に収穫を図れば、花を9月に咲かせなければならない。そのためには、盛夏にハウス内を冷房して、マンゴーの木に冬を錯覚させる必要があるのだけれど、宮崎の夏の暑さは厳しく、冷房代で悲鳴が上がる。夏が冷涼な北海道でなら実現できるというのが、彼の考えでした。

 正直、話だけでは半信半疑でしたが、その頃ちょうど収穫時期で、永倉さんの農園に足を運び、たわわに実るマンゴーを初めて目にした時、言葉では言い表せないほど感動して。直感的に「これだ」と思いました。

 真冬のマンゴー作りは、農閑期に生産性を上げるだけではなく、地域活性の起爆剤になるのでは、と予感し、早速地元で同志を募るべく奔走。永倉さんを招聘(しょうへい)し、真冬のマンゴー作りに寄せる期待や可能性も大いに語っていただきました。その上、永倉さんは、試験栽培のために、私たちにマンゴーの成木を寄贈してくれたんです。

 気運高まり、私も含め地元有志11人の出資で、マンゴー栽培を専門とする弊社を設立。〝真冬のマンゴーづくり大作戦〟は、永倉さんとの出会いから7カ月ほどで本格始動しました。成木を譲り受け、しばらくは栽培技術を習得するために、毎月永倉さんの農園を訪れました。

 音更町に建てたビニールハウスと日南市を行ったり来たりしながら、試験栽培を実践。少しでも不明なことがあれば、すぐさま携帯電話で連絡を取り合い、詳細なご指南をいただきました。剪定(せんてい)の指導のために、日南からわざわざ足を運んでくださった方もいたんですよ。私たちの事業は、彼らの積年の夢が契機。白銀の太陽は、宮崎産に負けず劣らずの出来栄えだと、わがことのように喜んでくださる日南の皆さんの思いに報いたい。彼らの支えは、糧です。

★ノラワークスジャパンの取り組みは、省エネルギー・新エネルギーを推進する道の「一村一炭素おとし」事業に認定されています。自然エネルギーを生かしたマンゴー作りに着手した意図は。

中川 裕之さん

☆中川 〝夏冬逆転〟の収穫です。灌水(かんすい)や施肥はもとより、温度管理には細心の注意を払い、ハウス内に、夏には冬の、冬には夏の環境を整えなければなりません。

 前職で、不安定な石油価格に翻弄され、〝脱石油〟の気運を感じていたこともあり、限られた資金の中で、まちの未来を懸けたチャレンジに相応する新たなエネルギーを検討。そこで思い付いたのが、十勝川温泉の「温泉熱」と「雪氷資源」だったんです。ハウスの地中にパイプを敷き冬には温泉を循環させ、ロードヒーティングで生育に適した地温と室温を保ちます。それでも加温が足りない場合は、一般家庭から出る廃油をボイラでたき温めています。

 夏には、冬の間木の皮を被せ断熱保存していた雪氷で水を冷やし循環させ、温度を下げるんです。しかも十勝は晴天率が高く、日照も十分。環境に優しいシステムのおかげで、電気代も相当節約できて。十勝の自然の恵みを再認識しています。

★白銀の太陽は、十勝〝夢〟プロジェクトの一環だとおっしゃいます。展望は。

☆中川 実は今春から、私たちがコンサルティングを担い、鹿追町で冬期のマンゴー栽培が始まりました。バイオガスプラントを活用した先駆のエコプロジェクトとしても注目されています。さらに冬のマンゴー作りの確立に努め、ノウハウを広く伝え生産者をもっと増やして、マンゴーや亜熱帯のフルーツの名産地にしたいですね。

 冬に収穫できる高付加価値のトロピカルフルーツは、十勝農業の今後に貢献できるのではないかと期待しています。スイーツやジェラートなど、マンゴーを原料にしたご当地名物だって生まれるでしょう。

 マンゴーは美容食。十勝川温泉は、言わずと知れた美人の湯です。温泉、食といった豊富な資源を背景に、十勝がいずれ、世界中の女性が憧れる美容と健康の拠点となることも夢ではありませんよ。生まれ育った大好きな十勝を盛り上げたい。真っ赤に輝く白銀の太陽に、十勝の輝く未来図と可能性を重ねています。

取材を終えて

人との出会いを大切に

 マンゴー栽培に着手し5年。今では、互いのまちで交流イベントを催す提案もあがるほど、日南市の方々とのつながりが深まっているそうです。今後も人との出会いを大切にしていきたいと話す中川さん。白銀の太陽がもたらす縁と可能性に、心が沸き立つインタビューでした。


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