「サッポロ・シティ・ジャズ」は、2007年にスタートしました。毎年夏の2カ月間、大通公園に設置するミュージックテントをメーン会場に、国内外のトップアーティスト、アマチュアも含め300に及ぶミュージシャンが、市内各所でライブステージを展開。昨年は16万人を動員する盛況で、国内最大規模の音楽フェスティバルとして定着しています。「サッポロ・シティ・ジャズ エゾグルーヴ 2014」の開幕(7月2日―8月31日)を前に、札幌発・音楽フェスティバルの未来図を思い描く山内さんにお話を伺いました。
★サッポロ・シティ・ジャズは、広く音楽ファンに愛されていますよね。
☆山内 開催のきっかけは、札幌芸術の森の野外ステージで開催していた前身の「サッポロ・ジャズ・フォレスト」(99年―2006年)と、「札幌ジュニアジャズスクール」の開校でした。
その頃ジャズは一部の愛好家に支持されるジャンルで、興行として成立しづらいと思われがちでしたが、私はアマチュアジャズバンドのライブをよく目にし、札幌でジャズフェスを実現してほしいという彼らの熱心な声も聞いていましたので、想像以上にニーズはあると感じ、ジャズ・フォレストを企画。おかげさまで初回は満員御礼で、事業継続のために、ジャズファンの裾野を広げる目的で、翌年ジュニアジャズスクールを立ち上げました。
子どもを対象としたジャズスクールは全国的にも珍しく、全国ネットのテレビ番組で何度も取り上げられたんです。子どもたちは張り切り、親御さんの応援にも熱が入りまして、彼らの初舞台は大成功。間もなく女子高生ジャズバンドの奮闘を描いた映画が大ヒットするなどジャズへの注目がますます高まり、ジャズ・フォレストやジュニアジャズスクールが根付いていた北海道では、06年の夏に、道内7カ所でジャズフェスが開催されるほどでした。
実は、ジュニアジャズスクールの子どもたちの中には不登校の生徒が何人かいて、ジャズスクールに通い出してから性格が明るくなり、学校にも行くようになったというんです。
ジャズという音楽の影響力を実感し、北海道でジャズが盛んになりつつある気運を活用して、教育振興や地域活性の糸口にするべく、「サッポロ・ジャズ・フェスティバル」を構想。実行委員会の名誉顧問には、高橋はるみ北海道知事、上田文雄札幌市長が就任されています。
私は、“世界一の音楽フェス”といわれる「モントリオール・ジャズ・フェスティバル」をお手本に、長期間に渡る多彩なジャンルを盛り込んだプログラムで、ジャズ通以外の方でも親しめる音楽フェスを目指しました。
アメリカから輸入した巨大な映像投射式のテントをメーン会場に、音楽とともに映像も楽しめるユニークな演出を志向。世界でもまれな、サッポロ・シティ・ジャズならではのエンターテインメントとして定着しています。
★山内さんは、札幌芸術の森(公益財団法人札幌市芸術文化財団)に勤務され、斬新な切り口で数々の芸術文化プロジェクトを手掛けてこられました。
☆山内 原点は、97年に芸術の森開園10周年記念で企画した、つかこうへいさん(故人)脚本・演出の舞台「銀ちゃんが逝く」のロングラン公演を成功させたことでした。
つかさんの舞台は掛け値なしの面白さ。ぜひとも芸術の森で実現したいと思いましたが、東京から演劇界屈指の奇才を呼ぶ試みは前代未聞で、なかなか周囲の賛同を得られませんでした。実現のためには、つかさんへの依頼も、スポンサー集めも、制作母体を組織し運営することも全て自力でやるしかなかったんです。
さらにつかさんが、私にも配役するという想定外で、チケットのセールスに奔走した後は、舞台にも出演。芝居が終われば役者さんやスタッフたちとのみ、語る日々。とにかく毎日、舞台を成功させるために無我夢中でした。この時自然とプロデュース業の「いろは」を身に付けたのだと思います。
ゼロから積み上げる仕事を全うし、400人収容の会場で、30日間30公演、1万3000人を動員する成果を上げた達成感はひとしおで、お客さまの喜ぶ様子にやりがいも感じました。この経験が今の糧です。できない理由を見つけるよりできるために何をすればよいかという思考で、あらゆるプロジェクトに臨んでいます。
★昨年は、名物のテント会場を東京に設置し、「サッポロ・シティ・ジャズin東京」の開催を果たされました。
☆山内 一地方の音楽イベントを東京で開催する型破りに、多くの業界関係者は驚かれましたけれど、オリジナリティを追求するサッポロ・シティ・ジャズらしい展開です。ことしは、東京に加え大阪にも進出。数年中に、台湾など海外で展開する可能性も大いにあり、実現に向け動いています。
また、道内各地のジュニアジャズスクール事業を推進する「ジャズの種プロジェクト」にも力を入れ、これまでに、倶知安町、広尾町、砂川市、幕別市で始動しました。
名だたるジャズプレイヤーを音楽監督として招へいし、道内在住のジャズミュージシャンで成るビッグバンドを支援するプロジェクトも好評で、いずれも、サッポロ・シティ・ジャズの収益により広がった取り組みです。サッポロ・シティ・ジャズはことしで8年目。まちの風物詩として定着しつつも、常に新しい息吹を吹き込み続ける地域振興の核として、今後も進化を遂げていきたいですね。
取材を終えて
思いを具現化する強さ
山内さんは、大学時代にはサーフィンに明け暮れ、芸術文化とは縁遠い学生だったそうです。しかし芸術の森に身を置く中で、いつしかその環境の心地よさを肌で感じ、ご自身がアート初心者だったからこそ経験的に知る感動が、芸術文化を発信する仕事に生きていると話します。〝前例のない〟プロジェクトを具現する山内さんの力強さと思いが伝わるインタビューでした。