真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第46回 内閣府地域活性化伝道師 ホスピタリティディレクター 松橋 京子(まつはし きょうこ)さん

2014年08月01日 16時44分

 主に観光業を通した地域振興に力を注ぐ松橋さん。これまでにホテルや温泉宿泊施設の企画・開発のほか、「ニセコ昆布温泉ホテル甘露の森」(ニセコ町)支配人、「みなかみ高原リゾート200」(群馬県みなかみ町)総支配人、「定山渓鶴雅リゾートスパ森の謌」(札幌市)執行役員支配人を務めるなど、人気リゾート施設で運営の中枢にも携わってきました。ことし7月に独立。地域活性化のスペシャリストとして、北海道観光の可能性に着眼した新たな仕掛けに思いを寄せています。

★松橋さんは、東京都ご出身です。東京では、情報誌の編集長を務めていたそうですね。北海道で観光業界に関わるようになったきっかけは。

松橋 京子さん

☆松橋 東京で仕事のスポンサーだった北海道出身の方が、お兄さまの経営するアンビックス(本社・札幌)のホテル事業を任され、地元に戻られたんです。彼が私に、北海道で仕事をしないかと、熱心に声を掛けて下さって。情報が集中する東京で、マスコミの仕事にやりがいは感じていましたけれど、取材や旅行で北海道に訪れては豊かな自然に魅せられていましたし、北海道でなら、執筆や趣味のカメラをライフワークに、思い描いていた暮らしを実現できるのではないかしらと思いをはせ、北海道行きを決意しました。

 移住当初は、第三セクターによる開発事業が注目されていたころ。企画室に所属していた私もコンペで奮闘しました。地域の風土や特色を生かし、地域の人たちが地元の良さを再発見できるような施設づくりで、観光振興や地域活性を志向する企画を思案。おかげさまで企画が通り、「森のゆ ホテル花神楽」(東神楽町)や「VIVA美唄 ピパの湯 ゆ~りん館」(美唄市)など、各地温泉施設の立ち上げも手掛けてきました。

 情報誌の記者時代、現場主義の先輩諸氏から「自分の足で歩き、足元に咲く花をどれだけ見つけられるかが、取材の肝」だと叩き込まれていましたから、北海道で、思いがけず地域の宝物を掘り起こすような仕事を担い、当時の薫陶が生きたのではないかと想像しています。

★ホテル甘露の森は、2003年にオープンしました。女性支配人の感性が生きるホテルの開業が、話題になりましたね。

☆松橋 観光業界が不景気のあおりで活路を模索する中、アンビックスは経営破綻したニセコのホテルを買い取り、新たな切り口で再生を試みたんです。当時は城崎温泉の名女将が指揮する女将塾がテレビドラマのモデルになるなど、女性の視点を活用したホテル経営や運営にも注目が集まっていました。とはいえ、それまで現場経験のない私に白羽の矢が立ち、さすがに驚きましたが、とにかく〝私がお客さまだったら〟と想像力をフルに働かせ、前向きに努めました。

 クレーム対応で眠れぬ日もありました。視覚障害のお客さまを盲導犬と一緒にお泊めし、ことのほか感激していただいたこともありました。満室時に、ユジノサハリンスクの市長ご夫妻のご宿泊を急きょお受けする事態には、適切なお部屋をご準備できず慌てましたね。ご滞在の間、ご夫妻の嗜好(しこう)を考慮し、一挙手一投足に目を配り、誠心誠意尽くすしかありませんでしたが、ご出発の日に、想像以上のお礼のお言葉を頂戴し、カタチだけでは至らぬ、おもてなしの神髄をかみ締めました。

 料理は、地元産の食材をふんだんに使ったものを提案。その頃の温泉宿泊施設の料理といえば、おしなべて画一的で、料理長の理解を得るため、連日連夜議論を重ねました。彼と共に試行錯誤したかいあり、お客さまにも好評で、スタッフのモチベーションも上がり、活気づく現場を肌で感じる喜びを知りました。

 お客さまの叱咤(しった)激励や周囲のお力添えが、いわば〝素人〟支配人だった私を育て、後押ししてくれました。

★その後も、道内外の名リゾートで現場の統括を担われました。業界の通例にとらわれず、顧客のニーズを重視する松橋さんのおもてなしの才腕は、広く伝わっています。独立の意図は。

松橋 京子さん

☆松橋 みなかみ高原リゾートで2年、森の謌では4年、お客さまの心の機微を察するホスピタリティに腐心してきました。地域活性化伝道師も拝命し、近頃は、海外の投資家と北海道をつなぐ観光振興のコーディネーターなども務めています。

 観光が地域に果たす役割や、グローバル化が進む時代を俯瞰(ふかん)し、あらためて自分の知見や立ち位置を見つめたとき、もっとフリーな立場で黒子に徹してもいいのではないかと独立しました。早速ご依頼をいただき、ニセコの宿泊施設の開業準備に取り掛かっています。

 物や情報が溢れる現代、手付かずの自然の中で、複雑になりがちな思考や、疲労する心身をリセットできるような場をつくりたいというイギリス人オーナーの意向に、私も賛同しました。

 日本の美意識を表現するお宿は、海外の投資家にも注目され、可能性は広がっています。今は、良い意味で〝期待を裏切るほど〟のおもてなしや仕掛けに、思い巡らせる毎日です。私自身の人生も節目。新境地でライフスタイルを確立しながら、地域を元気にするために、できる限りを果たしていきたいと思います。

取材を終えて

おもてなしの心に触れ

 小説「グレート・ギャッツビー」(F・スコット・フィッツジェラルド著)の世界観に心引かれるという松橋さん。主人公が夢のような現実を謳歌(おうか)する物語の舞台は、どこか〝非日常感〟を醸すニセコの雰囲気に通じるとおっしゃいます。世界で注目が高まる日本のおもてなし。その真価を知る松橋さんの新展開に、期待膨らむインタビューでした。


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