真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第47回 漫画家 いがらし ゆみこさん

2014年09月05日 17時09分

 いがらしさんは、日本はもとより世界で知られる漫画家です。1968年、高校在学時に漫画家デビュー。「キャンディ・キャンディ」(なかよし・講談社)、「ジョージィ!」(週刊少女コミック・小学館)、「ムカムカパラダイス」(ちゃお・同)がテレビアニメ化されるなど数々の名作、人気漫画を生み出しています。近年は、日本の「MANGA」に注目する世界各地の催しに招かれ、2011年には、パリのJAPAN EXPOへ招聘(しょうへい)。また、アパレルブランドのキャラクターデザインを手掛けるなど、活躍の場はさらに広がっています。14年前に故郷・北海道に戻り、札幌を拠点に創作を続ける傍ら、現在は道内在住の若手漫画家を応援する取り組みにも意欲的です。

★漫画家を志したのはなぜですか。

いがらし ゆみこさん

☆いがらし 私はセリフのルビで字を覚えたくらい、小さい頃から漫画をよく読んでいました。絵も得意で、中学時代から漫画雑誌に絵を投稿し何度も掲載されていたんです。漫画家を本気で目指すようになったのは、高校の美術部で私なんて足元にも及ばないくらい漫画の上手な先輩と出会ったこと。彼女は、高校卒業後すぐにデビューを果たし、その姿に希望を抱きました。

 夢を語り合っていた先輩がデビューに伴い東京に行ってしまうと、私も両親に頼み込んで東京の女子校に編入。彼女を追うように上京したんです。すぐに出版社に作品を持ち込み、それを機にその年の夏にデビュー。思えば、チャレンジ精神旺盛な性格が功を奏したラッキーな船出でした。

 私の絵柄はロマンティックで華やかだと言われます。高校卒業後、進学した専門学校をやめて、漫画家業に本腰を入れようと決意した矢先、私の絵柄を気に入ってくださった講談社から依頼があり、間もなく少女漫画雑誌「なかよし」の専属契約作家になりました。

 雑誌の顔ともいうべき表紙を1年以上担当させていただけるほど読者の支持も定着してきた頃、私の担当編集者が、ご自宅で奥様と娘さんがテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」を仲良く観ている様子に心引かれ、親子で共感できる新作を提案。これをヒントにキャラクターとストーリーの概要ができ、さらに物語の厚みを出すために水木杏子さんが原作を担当し、75年から「キャンディ・キャンディ」が始まりました。

 その翌年には、東映と講談社初のタイアップ企画で、テレビアニメ「キャンディ・キャンディ(テレビ朝日系列全国ネット)」もスタート。当時のファンレターは、1カ月に何箱も段ボールで届き、数カ月で4畳半の3分の1を占めるほどでした。

 主人公・キャンディは看護師です。ある病院でサイン会を開いた時には、子どもの頃からキャンディファンで、看護師になる夢をかなえたという方々が大勢並んでくれました。漫画に心通わせてくれる人たちがこんなにいるなんて。ファンの皆さんのお声や反響は、長年漫画を描き続けている私の原動力です。

★今や、MANGAは世界共通語。漫画の真価が再認識されています。いがらしさんの画力やセンスも、テレビコマーシャルのキャラクターや、アパレルブランドのデザインに生かされ、ご活躍そのものに、今後の漫画の可能性を感じます。

☆いがらし 世界各地のサイン会は、軒なみ長い列ができる人気です。海外の漫画ファンの熱さを肌で感じると、感激しますよ。フランスでは、ファンの皆さんが、キャンディ・キャンディのアニメ主題歌をフランス語で歌ってくれました。国を超えてMANGAでつながった感極まる経験でした。〝紙離れ〟が進み、漫画雑誌やコミックの売り上げも減少している中で、漫画をポップカルチャーと捉える風潮が国内外に広まり、漫画家の新たな活路が見出されているのも事実。この追い風が、業界の未来を明るくしてくれると信じています。

★いがらしさんは、30年以上にわたり第一線で活躍されている漫画家です。先日、後進を応援する「北海道MANGA交流会」を立ち上げられました。展望は。

いがらし ゆみこさん

☆いがらし 特に地方で漫画家をしていると孤独や不安に苛まれるもの。北海道MANGA交流会は、若い人たちが前向きに漫画家業に臨めるようにと発足しました。現在会員は、個人で活動する北海道在住の漫画家や漫画家の卵、アシスタントを中心に40人ほど。会では、会員の志気を高める発見と出会いの場となる交流会を定期的に開催します。

 以前、子育てと漫画家業の両立に疲れ果てていた時に、石ノ森章太郎先生が「子どものために描きなさい。仮面ライダーは息子が生まれた時に描いたんだよ」と励ましてくれました。先輩の実感のこもったアドバイスが、ありがたく心に響きました。

 私も多くの若い人たちと触れ合い、これまで私が諸先輩の叱咤(しった)激励に育てられ、支えてもらったように、できる限りをしてあげられたらと思うんです。世代を越えて輪を育み、若い仲間たちと共に、北海道から世界へMANGAを発信できるような創造的な会になっていけばいいですよね。

 北海道は、開拓者精神が宿る土地。私たちの先人たちは、困難に屈せず未開の地を開いてきました。北海道の若い漫画家たちにも、フロンティアスピリットで進んでほしい。私はそんな皆を慈しみ、そばにいて、諦めなければ必ず花は咲くんだよと声を掛けてあげたいです。時には背中を押し、時には手を引きサポートする心強い存在であり続けたいですね。

取材を終えて

漫画文化の継承に尽力

 漫画文化の礎を築いた手塚治虫先生の意思を後世に伝えたい、といういがらしさん。北海道MANGA交流会の発足に、駆け出しの漫画家たちが切磋(せっさ)琢磨し夢をかなえた「トキワ荘」の存在を重ねます。世界に愛される漫画文化の継承に心をかけるいがらしさんの漫画への情熱と温かい眼差しを知るインタビューでした。


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