真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第48回 北海道大学名誉教授 鈴木 章(すずき あきら)さん

2014年09月19日 15時41分

 有機ホウ素化合物を用いた化学反応「鈴木クロスカップリング」の開発で、2010年のノーベル化学賞を受賞した鈴木さん。これにより、医薬品や農薬、液晶、発光ダイオードなど、さまざまな分野の製品実用化に寄与する鈴木さんの革新的な研究があらためて広く世界に報道され、大きな話題となりました。

★鈴木さんは、むかわ町のご出身です。また、世界の化学をけん引するご研究は北大で行われ、鈴木さんのノーベル賞受賞に道民は大いに沸き立ちました。

鈴木 章さん

☆鈴木 鈴木クロスカップリングを初めて発表したのは1979年です。その頃は、液晶材料などは存在していませんでした。新しい発見が、実際の社会ですぐに役立つとは限りません。振り返れば、ひたすら興味を抱くことに集中し取り組んできた研究成果が、その後、想像もしていなかった分野で広く活用され、応用されたことでいただいたノーベル賞。私は、大変ラッキーな化学者だと思います。

 子どものころから数学が好きで、北大理学部に進学したのですが、教養課程で有機化学の教科書だった「テキストブック・オブ・オーガニック・ケミストリー」(米国の有機化学者 ルイス・フィーザー著)が、とても面白くてね。化学反応の説明のみならず、反応に至るまでの行程や、応用の可能性まで詳細に書かれていて、辞書を手に原書を何十回も読むほどのめり込んだのですよ。すっかり有機化学に夢中になり、進路を決めました。

 大学院の修士では、蚊取り線香の煙に含まれるパイロシンの研究に力を注ぎました。当時、蚊取り線香の殺虫成分の研究で、煙をいぶした時にできる固体の化合物(パイロシン)を取り出した研究者がいてね。恩師が私に、世界初のパイロシンづくりを試み、日本化学会の研究発表会で発表してみないかと勧めてくださったのですが、なかなかいい結果が得られず、発表の日は近づく一方。焦りが募り徹夜を続け、発表の2日前にようやくできたものは、液体で。一抹の望みをかけて、スパーテル(薬さじ)でこすってみたら、固体になった。融点もパイロシンと同じく60度くらいだと確認した時は、本当に感激しましたね。研究を成し遂げた喜びや、諦めないことの大切さをかみしめました。

★その後のご活躍の礎となるような成功体験だったのですね。

☆鈴木 それからも新しい有機反応の研究に興味は尽きませんでした。とはいえ、サイエンスに、ひょうたんから駒はありません。研究する分野のバックグラウンドをきちんと掌握していなければ、アイデアも結果も出ない。

 私は常に、これまでにどのような研究がなされ、どのような研究が未開であるかを、あらゆる文献で調べ、知識の蓄積も心掛けていました。その際見つけた専門書が、米国パデュー大学のハーバート・C・ブラウン教授が著した「ハイドロボレーション」でした。

 ブラウン先生は、ハイドロボレーション(ヒドロホウ素化)反応によって、非常に簡単に有機ホウ素化合物をつくる方法を発見し、後にノーベル化学賞(79年)を受けた権威です。私は、ご指導を請い63年に渡米。そこで、有機ホウ素化合物を原料にした化学合成に強い関心を持ちました。

 実は、有機ホウ素化合物は活性が低く反応性が鈍いため、おそらく化学反応に利用することは期待できないと、当時ほとんどの化学者が注目していませんでした。しかし私は、そのような短所よりも、安定性があり、副生成物に毒性がなく、取り扱い易い長所に目を向け、これで化学反応がかなえば、大変有用性の高い研究になると思い立ったのです。しかも誰もやっていないからこそ、新発見に結び付く可能性も高いと考えました。

 65年に帰国後、北大で早速研究に着手。スタッフと試行錯誤を重ねた結果、パラジウムを触媒に用い、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化合物のクロスカップリング(構造が異なる化学物質を結合させる化学反応)に、塩基を添加すると実現することを発見しました。

 鈴木クロスカップリングは、研究成果のインパクトをダイレクトに伝える名称にすべきと、ブラウン先生が命名してくれました。著書も多い先生は、後世に遺す学術用語の重要性をよく分かっていたのでしょう。私は恥ずかしがり屋な日本人。最初は躊躇(ちゅうちょ)したのですが、今はこの命名に感謝していますよ。

★子どもたちの〝理系離れ〟が問われる中、鈴木さんの軌跡に、夢や希望を思い描く日本の若者も少なくないと思います。

☆鈴木 何かを生み出す学問に興味が薄れている風潮は、大変残念なことです。資源のない日本は、人の知識や技術力が生きる国。複雑な構造を持つ医薬品や精密機械など、他の国がまねのできないような高度な科学技術を必要とする生産活動は、日本が生き延びる唯一の道でしょう。

 ブラウン先生をはじめ、私が知る一流の研究者は皆「独創的な仕事をしなさい」と口をそろえて言っていました。前人未到を成す気概で、注意深く熱心に研究を続けていれば、予期せぬひらめきや成果に恵まれることを、私も経験的に知っています。

 研究は失敗と挫折の繰り返し。それゆえに、新発見の喜びはひとしおで、その成果が社会のお役に立てるのであれば、なおさらです。夢や希望は自ら創るもの。私のたどってきた道のりや成果が、化学の可能性や魅力を伝え、日本の未来を担う後進を導く一助となっていれば、うれしいですね。

取材を終えて

〝なぜ〟を原動力に研究

 鈴木クロスカップリングは特許を取得していないため、世界中で、鈴木さんが把握できないほど多くの分野で利用されています。ある時、ご自身に処方された薬が、鈴木クロスカップリングを用い作られていると知り、感激したとほほ笑む鈴木さん。〝なぜ?〟を原動力に化学を究めてきた鈴木さんの喜びと信念が伝わってくるインタビューでした。


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