真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第50回 特定非営利活動法人森の生活代表理事 麻生 翼(あそう つばさ)さん

2014年10月17日 18時57分

 「森の生活」は、町のおよそ9割を森林に覆われた下川町を拠点に活動しています。森林環境教育事業や森林体験事業の企画・実施をはじめ、地域間交流を目的にした町営滞在施設の管理・運営などを担い、町が推進する〝循環型森林経営〟にも寄与。その取り組みで、地域に根差す次世代を顕彰する「地域げんき大賞」(主催・北海道新聞社)も受賞しました。森の多面的な価値を伝え、森と人の関わりを紡ぎ直していきたい、という麻生さんにお話を伺いました。

★名古屋市ご出身の麻生さんが、下川町でNPO活動に携わるようになった経緯は。

麻生 翼さん

☆麻生 私は町中で育ちましたが、ちょっとした草地を見つけてはバッタ捕りに夢中になるような子どもでした。自然や動植物が好きで、高校時代には、名古屋から日帰りで動物生態を研究する北大の教授を訪ねたほど。趣味は、釣りや山菜採り。狩猟免許も取得しています。まきストーブのある暮らしにも憧れていました。

 自然と密接な暮らしに興味があり、北大農学部森林科学科卒業後、農山村に関わる仕事を志して、京都の種苗会社に就職。営業担当で農山村に出向き、過疎化や高齢化を実感しました。先細りする地域の未来を思うにつれ、地域活性の一助となるような活動を志向するようになり退職。縁あって根室にあるアウトドア施設の管理・運営に1年間携わった後、「森の生活」の求人に応募し、2010年からスタッフになりました。

 森の生活の前身は、1997年に結成された「さーくる森人類」です。発会メンバーのほとんどが、町の森林・林業体験ツアーに参加した事を機にIターン、Uターンを決めた移住者だったそうです。

 森林ツーリズム推進のほか、町長とパートナーシップ協定を結んで、町有林の管理・運営も担うなど活動は徐々に発展し、05年にNPO法人化。08年に町の森林組合からトドマツ精油製造販売事業を移管され、09年には、町営の「地域間交流施設森のなかヨックル」の指定管理者となりました。同年、幼児・小中高一環の森林環境教育事業も始動させ、私がメンバーに加わった年は、事業の拡大に伴い、次なる展開を模索していた頃だったんです。

 11年、大手民間企業が立ち上げたNPO組織基盤強化の助成事業に申請した事をきっかけに、新体制がスタート。精油製造販売事業を新会社に移管し、町の中心部で放置されていた雑木林「美桑が丘」で、町民主体の本格的な森づくりも開始しました。そして昨年、助成事業の申請作業を進めてきた私が、代表を引き継ぎました。

★新展開で心掛けていることは。

麻生 翼さん

☆麻生 日本は国土の67%が森林で、森の国といわれるフィンランドやスウェーデンと、ほぼ変わらぬ割合なんです。かつては、山で芝を刈り、炭を焼いて生計を立てる日本人も少なくありませんでしたが、時代の変遷で、多くの日本人が山村を離れ、暮らしぶりは様変わりしました。とはいえ、現代の都会に生きる人たちも、森林の恩恵は受けているんです。

 私たちの仕事は、一人でも多くの人が、「森」と「暮らし」の関わりに気付いてもらえるような仕組みやサービスを提供し、自然と人が調和する心豊かな社会の実現を目指して、未来に働き掛けることだと思っています。

 例えば、家具やトイレットペーパーの原料は木材ですよね。その産地について問い掛けてみることが、森林伐採や木材の輸入による地球環境の負荷や、木材の地産地消に関心を寄せる契機になるかもしれません。森林散策ツアーで、ストレスの緩和を実感する人もいるでしょう。

 また、北欧発祥のプログラム「LEAF」を取り入れた森林環境教育事業では、森の中が教室。持続可能な森林資源の機能や価値を、机上の学問ではなく身を持って学んでいただき、環境保全と経済活動の両立で実現する社会の豊かさを体感していただけるよう努めています。スウェーデンでは、約8割の小学校でLEAFプログラムが実施されています。このプログラムを下川でも定着させ、山村地域の活路を見出す教育振興の一つのモデルとして、道内外にも広げていけたらいいですよね。

★下川町は、国が構想する「環境未来都市」に選ばれ、森林総合産業特区にも指定されています。行政と足並みをそろえる活動の成果に、ますます期待が高まっていると思います。

麻生 翼さん

☆麻生 私たちにとって、行政はとても重要なステークホルダーです。行政にとっても、NPOとの連携が、政策の立案や具現化に好影響を与えていると思います。先見の地域づくりを推し進める下川は、チャレンジ精神に溢れる人材も多い町。保守的になりがちな地方が多い中で、私たち移住者も思う存分力を発揮できる寛容な風土が培われていると実感します。

 子どもたちが「自然は下川の宝」だと言ってくれたり、木を抱きしめ森と戯れる様子に、自然と人が調和する未来を思い、うれしくなります。私たちの活動は、いわば、水面に紋を広げる一投石のようなもの。木が、ただ木としてたたずみ〝生〟を全うするように、私も私にできることに専念し、未来に働き掛ける一投石を、ただひたすらに、投じ続けていきたいと思います。

取材を終えて

自分の思い、信念を表現

 地縁でつながる町の人たちと、飲み、語り合える時間が至福という麻生さん。自分の思いや信念をありのままに表現できるコミュニティーへの感謝が、活動の原動力だと話します。森の町・下川で育まれる「自然」と「人」の絆の深さと温かさを感じるインタビューでした。


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