真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第52回 風船宇宙撮影家 発明家 岩谷 圭介(いわや けいすけ)さん

2014年11月21日 14時26分

 岩谷さんは、風船でカメラを飛ばし宇宙を撮影する「風船宇宙撮影」で知られています。2012年9月、民間では日本初の撮影に成功。ことし7月には、世界で初めて、劇場映画品質の撮影に対応するシネマカメラに、上空2万8500m付近の映像を収めました。個人が切り開いた〝新しい時代の宇宙開発〟ともいわれる岩谷さんのチャレンジに、注目が集まっています。

★大規模な研究設備は持たず、資金にも限りがある個人で、宇宙開発を手掛けられていると知り感動しました。

岩谷 圭介さん

☆岩谷 子どもの頃から科学者や発明家になることが夢でした。北大工学部の4年生在学時に、インターネットで、アメリカの大学生のグループがバルーンで撮った宇宙を紹介した記事と画像を見つけ、やってみたいという思いに駆られたんです。

 最初の実験は大学の裏庭で行いました。ホームセンターや100円ショップで材料を購入し装置を自作。レンズ部分をくり抜いた発泡スチロールの入れ物に、安価で軽量な玩具用のカメラを納め、そこにたこ糸を結んだたくさんの風船を取り付け、装置につないだひもを地上にいる僕が引き、200mほど上昇させてみたんです。航空写真のような地上画像は撮れたものの、風船同士が上空でぶつかり合うため装置が揺れ、画像はかなりぶれていました。

 この経験で、大きな一つのゴム風船を使う方法が定着。3号機からは、機体を空に放ち、落下地点をGPSで探索して回収しています。4号機は、予想とまったくかけ離れた方向へ飛んで行き、海に沈没。風の流れを読み誤るミスに意気消沈していたところ、ある親切な方から海岸で風船を拾ったと連絡をいただき、SDカードの記録も無事に戻ってきたんです。諦めずもう少し頑張ってみたら、と励まされたような気がしました。

 実験を繰り返すうちに、上昇速度や落下速度なども把握できるようになり、実験が終わるたびに、機体の不備や改良点を検討。気象学の勉強にも励み、ようやく11号機で、日本初の民間による風船宇宙撮影に成功しました。ここで撮れていた1万2000枚のうち、まともに写っていたのはたったの1枚。正直納得のいく成功ではありませんでしたが、装置の改良を重ねた結果、今では不満足な撮影に至ることはほとんどなくなりました。

 気象庁が発表する高層気象観測データなどを参考に、落下地点の予測の誤差は、5㌔くらいまで縮まっています。カメラの性能にもこだわり、さらに美しく鮮明な撮影を追求していきたいと思います。

★チャレンジのたびに、新たな課題を見つけ、次なるチャレンジのスタートを切っているのですね。

岩谷 圭介さん

☆岩谷 より良いものを生み出したいという思いが強いんです。たとえ実験が成功しても、常に次回に向けた改善点が気になってしまいます。

 発明も生まれました。上空の急激な温度変化にかかわらずバッテリーが作動するように、カメラ温度を一定に保つ装置を独自に開発しています。また振動工学の理論に基づき、一番撮りたい場所で振動が起きない周波数帯を維持する設計も、オリジナルで組み込みました。より安全な運用を目指し、減速の仕組みや機体の軽量化にも腐心しています。

 日本は、島国で山国。広大な平野が広がる諸外国に比べ、装置の回収などが難しく、撮影環境は決して良くはありません。それだけに、装置の設計にも運用面にも、日本の風土に適した着想が求められ、やりがいを感じています。

★岩谷さんが使用された機材や装置の詳細、時間や手間を費やし得たノウハウも広く公開されています。意図は。

☆岩谷 以前、宇宙開発事業に取り組んでいる植松電機(赤平)で、修学旅行の学生を対象にしたロケット教室の様子を見る機会がありました。模型のロケットを飛ばす学生たちの表情は生き生きと輝き、僕も、宇宙開発の過程と喜びを多くの人と共有して、夢をつなげることができたらと思ったんです。今は主にブログで発信しています。

 昨冬、札幌市が主催するクリエイティブビジネスコンペで最優秀賞をいただきました。企業広告用などに風船宇宙撮影をご活用いただく機会も増え、同時に、クライアント様とチャレンジの価値と可能性を分かち合えています。

★宇宙を身近にする岩谷さんのチャレンジが、多くの人たちの視点を変え、視野を広げるきっかけにもなっているのではないかと想像します。

岩谷 圭介さん

☆岩谷 やってみたからこそ、次のステップが見えてきたり、別の視点で目標に近づく方法を見いだしたりできるもの。〝「やってみる」から始めよう〟が、僕の活動のメッセージです。

 ロックンロールの低音は、母親の体内で聞く心音に近く、生物の細胞分裂の型が、芸術作品として世に出ていることも少なくないそうです。自然科学とアートの深い関わりを感じます。

 来夏には、深海の撮影にも着手する予定です。霧虹とも呼ばれる光輪(ブロッケン現象)の再現や、真空状態の水の結晶にも興味があります。エンジニアリングを駆使し、アートのように美しく、自然科学の真価を表現したい。発明のアイデアは尽きません。まずは、「やってみる」から始めていきます。

取材を終えて

時間忘れるほど夢中に

 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で、時空を超えるタイムマシーンを発明した科学者・ドク。やりたい事に一心なドク博士は、岩谷さんの憧れだったそうです。新しいものを発想し開発する作業は、時間を忘れるほど楽しいと話す岩谷さん。チャレンジの喜びに溢れる岩谷さんの笑顔が、心に残るインタビューでした。


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