人工衛星に専用の測定器を載せて地球を観測する衛星リモートセンシング技術が急速に普及している。広域性を特長とする衛星データの利用に適した本道ではさまざまな分野で取り組みが行われ、中でも林業分野では、風倒被害の状況把握への利用が進む。衛星データを画像処理し、地形図に当てはめて作製した被害推定図で、被害の迅速な把握につなげている。
道経済部がこのほど札幌市内で開いた第1回北海道衛星データ利用研究会で、道立総合研究機構林業試験場森林環境部の阿部友幸主査がリモートセンシングによる風倒被害の把握などについて話題提供した。
台風や低気圧、火山噴火などによって道内で発生する風倒害。復旧には迅速な被害把握が必要になるが、広大さや倒木によって立ち入り困難な場所が多いため、現地調査には多大な労力がかかる。しかし、リモートセンシングを活用することで、労力軽減と即時対応が可能になる。
特に被害推定地域の全貌把握図があることで、被害重大箇所の調査が実施できる。解析精度の粗いフリーデータでも実際の被害地との誤差は少なく、阿部主査は「初期情報としては十分過ぎる情報に値する」と話した。
広大な森林を持つ下川町は2006年の低気圧で被害を受けたが、衛星画像を利用することで災害収束から1カ月以内の被害報告に間に合わせた。
15年の台風23号では、道有林後志管理区の羊蹄山麓で被害が発生。米国の衛星「Landsat8」によるフリーデータを活用し、被害発生から11日以内と短期間での被害推定図の提供につなげた。阿部主査は「フリーデータを事業に活用できることで、リモートセンシングの活用可能性が広がった」と期待を寄せている。
課題も指摘した。Landsat8の撮影間隔は16日周期で、タイミングよく衛星データを入手できれば速報性が高いが、画像入手の不確実性が高い。16年の低気圧で被害を受けた広尾町の事例では、同じくLandsat8を利用したが、曇天などが影響し、撮影タイミングは40日後と大きく遅れた。
無料のLandsat8のほか、100㌔m²当たり約2万円と安価な衛星「SPOT6/7」もあるが撮影は不定期だ。阿部主査は「こういったものに頼っているうちは、幸運に依存することになる」と指摘。補うための有料撮影を注文することも可能だが、500㌔m²当たり約17万円と高価だ。現在、公的に購入する仕組みはなく、「誰が払うかも課題の一つ」と話した。