真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第56回 株式会社WakkaJapan代表取締役 出口 友洋(でぐち ともひろ)さん

2015年02月06日 14時26分

 Wakka Japan(札幌)は香港、シンガポール、台湾で、日本産米専門店「三代目俵屋玄兵衛」を展開しています。北は北海道から南は九州まで、各地選りすぐりの米を玄米のまま冷蔵コンテナで直送し、受注後、現地で精米。精米したてのおいしさと、企業努力による適正価格が、在留邦人や日本食ブームに沸く外国人、現地の日本料理店などに支持され、輸出販売実績を大きく伸ばしています(2013年385t、14年は568tを予定)。出口さんは「日本食文化を世界に正しく広げていきたい」と意気込みます。

★北海道出身の出口さんが、海外で起業された経緯は。

出口 友洋さん

☆出口 私は自営家庭の次男で、幼い頃から、独立し身を立てる将来を思い描いていました。大学卒業後は、経営を学ぶために、経営コンサルティングの会社に就職。中国駐在時に、クライアントだったあるアパレルメーカーから香港での事業の立て直しを請われ、香港に移り住みました。

 香港は、起業を奨励する国です。資金1香港$から起業でき、金利も低く、金融機関の融資も受けやすい。ここで、日本人の視点や感性を生かし、香港人には思い付かないビジネスに取り組めば、勝算があると直感し脱サラを決めました。

 そもそも一消費者として、米が好きなんです。祖母の故郷が山形県の米どころで、そこから送ってもらった精米したてのおいしいお米を、当たり前のように食べて育ち、海外生活で、そのありがたみを再認識しました。というのも、外国で購入できる日本産米は、日本で精米後、ドライコンテナで輸送される間に酸化し、どうしても食味が落ちてしまうんですね。また、海外で日本食人気が熱を帯びる最中、外国の人たちに、日本産米の本来のおいしさが伝わっていない事も口惜しく、それならばと、「三代目俵屋玄兵衛(以下、俵屋)」を立ち上げました。

★09年の創業以来、香港を皮切りに事業を拡大され、個人顧客会員は、既に1万人を超える勢いです。海外に進出している老舗料亭や有名和食店などからの引き合いも多く、人気のほどが伺えます。背景は。

出口 友洋さん

☆出口 香港は世界一の日本産米輸入国。次いでシンガポール、台湾です。いずれも在留邦人や親日家、日本料理店が多く、市場開拓が期待できる国でした。

 日本のものを海外で売るには、現地日本人のお墨付きが重要です。取り扱う米は、こだわりの農家さんの元に足繁く通い、ようやく契約をいただけた最高レベルのものばかり。しかも精米したてのおいしさは格別で、在留邦人のお客様からは、俵屋の米は、日本で味わう日本産米以上においしいと好評です。

 ネット販売とコストを極力抑えた流通で、価格は現地スーパーよりも2―3割ほど安くしています。香港やシンガポールはEC(インターネットなどを用いた商取引)が盛んで、SNSの書き込みや口コミで、たちまち評判になりました。またECの普及が若干遅れている台湾では、実際手に取り、味を確かめ購入する台湾人の購買習慣に注目し、物産展などでの試食販売を重視。そこでご購入いただいたお客様の多くがリピーターとなり、ネット購入につながりました。

★「日本の食文化を正しく広める」ために、心掛けていることは。

☆出口 日本食ブームは喜ぶべきですが、実際のところ、カリフォルニア米の寿司が日本の寿司の味だと認知されていたり、いわゆる〝なんちゃって〟和食店も後を絶ちません。当社の使命は、精魂込めて作られた日本の最高の食材を、物流品質を維持し、適正価格で海外に流通させ、日本食文化の真価を多くの方に知っていただく事だと思っています。

 スタッフは、私も含め、〝米のソムリエ〟と呼ばれる米食味鑑定士の有資格者です。飲食店には、米それぞれの特徴を見極め、酢飯に適しているもの、丼ものに合うものなどきめ細やかに提案し、おいしい炊き方も指導致します。「販売」「提案」「啓蒙(けいもう)」にじっくり取り掛かり、日本ブランドの質の維持と向上に少しでも貢献できればと考えています。

★世界という大舞台は、出口さんの起業家精神を駆り立てているのですね。

出口 友洋さん

☆出口 海外では、流れる時間も考え方も、当然、仕事の仕方も異なります。現地に飛び込み、現地の人と同じものを食べ、同じ言葉で話し、どういう嗜好(しこう)なのか、どういう国民性なのかを肌でつかめないと、事業はうまくいきません。決して甘い世界ではありませんが、異文化だからこその試行錯誤が醍醐味(だいごみ)です。

 次なる拠点として調査を進めていたタイでは、玄米の輸入が認められていませんでした。現時点で当社の進出は不可能な環境ですが、北海道の米産地の方々と協力して、農林水産省に掛け合い、国からタイへ輸入禁止解除を求めてもらえるよう動いています。かなえば、タイの米事情は一変しますよ。その他、ハワイとオーストラリアにも開設準備中で、今後10年のうちに、世界20拠点を目指しています。

 日本産米に対する海外消費者の信頼は絶大です。市場拡大の余地は十分にあり、低コストで日本産の極多収米生産が実現すれば、カリフォルニア米や中国産日本米などの大衆マーケットにも参入できます。日本の農家さんとの協業で、今までの日本産米づくりの常識を覆すような革新的農業にも、取り組んでいきたいですね。チャレンジをいとわず、できないと思われていた事を可能にする喜びは、私の原動力です。

取材を終えて

旺盛な開拓精神を発揮

 子どものころ、祖父母が語る北海道開拓の歴史を、夢中になって聞いていたという出口さん。開拓のクワを入れる先祖の力強い姿を思い、自身の未来図を重ねていたそうです。「未知に臆せず飛び込む質(たち)にはルーツを感じる」と微笑む出口さんの旺盛なフロンティアスピリットに触れるインタビューでした。


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