真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第58回 落語家 桂 枝光(かつら しこう)さん

2015年03月06日 14時42分

 枝光さんは、前名の桂小つぶ時代から全国的な人気を博した上方落語家です。1991年、北海道に移住。札幌を拠点に道内外で高座に上がる傍ら、2005年には、明治時代に華開いた札幌の寄席文化の復活を志し、「さっぽろ市民寄席 平成開進亭(以下、平成開進亭)」を立ち上げました。以来、平成開進亭の席亭(興行主)として、月に1度、東京や大阪からゲストを招き、自らも三席(演目)を務め開催し、ことしで10周年を迎えます(10周年記念祭公演は5月14日)。一席、一席が真剣勝負という枝光さんにお話を伺いました。

★北海道への移住を決意された経緯は。

桂 枝光さん

☆桂 落語が好きで、高校では落語研究会に入り、卒業後は噺(はなし)家になると決めていました。華やかで艶があり、はんなりとした5代目桂文枝師匠(当時は3代目桂小文枝)の舞台に憧れ、門下に志願。漫才ブームの最中、私のタレント性に注目した所属事務所(吉本興業)の方針もあり、入門間もなく、テレビやラジオ番組のレギュラーを7本も抱える忙しさで、大阪では、高座に上がるよりも、タレント業に追われる毎日でした。

 ある時、苫小牧市が区画整理事業で首都圏に向け売り出した分譲地を見に行き、樽前山を望む環境にひかれ、購入。その後、娘のぜんそくがひどくなり、療養に最適な北海道への移住を考え始めました。

 師匠に「新天地で落語をしたい」と相談すると、「その言葉がうそやったら名前を返してもらう」とくぎを刺されましてね。つまり、北海道でしっかり落語をやらなければ、私は破門。厳しくも期待を込めてくださる師匠の言葉を胸に、大阪から移住しました。

 移住当初は、放送関係者に「大阪弁は北海道で通用しない」と言われ、自分の全てを否定されたようで、悔しかったね。早々に民放で情報番組のレギュラーをいただいたけれど、しばらくは大阪弁を頭の中で〝なんちゃって標準語〟に変換しながらしゃべっていました。言葉を口にするたびに金縛りにあったようで、精神的にきつかった。

 そんな時、吉本新喜劇の札幌公演があり、観客席で北海道のお客さんがベタベタの大阪弁を聞いて笑っている様子を見た瞬間、涙がぼろぼろっと出てきたんです。今のままじゃ自分の言葉の魂は伝わらんと悟り、それが機で吹っ切れました。

★大阪で生まれ育ち、寄席文化を肌で知る枝光さんにとって、北海道で、歯がゆさや口惜しさを感じる事もあったのですね。

桂 枝光さん

☆桂 だからこそ、切り開いていきたいと思いました。そのためには、私の芸に力がなかったらあきません。噺家は、芸を磨くために自分で落語会を開くんです。私も早速、札幌市内数カ所の公民館などで「桂小つぶの小さな落語会」を始めました。

 おかげさまで定着し、95年からは吉本興行の主催で大規模なホール落語会がスタート。念願だった大きな演目にも挑むようになりました。96年には「2代目桂枝光」を襲名。思いがけず支援者たちから私を推す声が上がり、それを受けた師匠が、北海道で落語に打ち込む私を認めてくれたんやと思います。

 札幌での襲名お披露目の演目は、いつかはやりたいと思っていた師匠の十八番「紙屑屋」。失敗できない大舞台で、古典落語の名演目をネタ卸し(演目の初披露)で挑み、120%の力を尽くしてやり遂げた後は、精根尽き果て抜け殻のようでした。舞台を観ていた兄弟子の桂文珍は「お前はこのネタで食うていける」と賞賛してくれました。紙屑屋は、新境地を開いてくれたと思います。

★華やかな高座の舞台裏で、噺家としてさらなる高みを目指し挑戦し続けている枝光さんの努力を思います。平成開進亭も、落語が心底好きな枝光さんだからこそのチャレンジなんですね。

桂 枝光さん

☆桂 平成開進亭は、明治時代に札幌で人気を競い合っていたという寄席の一つ「開進亭」の名を取りました。古い文献によれば、狸小路の大火で消沈した民衆を癒した寄席やったそうです。

 木戸銭(11銭)は当時の酒1升分くらい。入場料(一般2000円)も、それに倣っています。ゲストは毎回、人気、実力ともにそろう噺家さんに、私が直接お願いしています。多忙な方ばかりですが、ありがたいことに、皆さん出演料も問わず、信頼関係で快く応じてくださいます。

 ゲストの交通費や宿泊費は掛かりますけど、誰もが気軽に楽しめる寄席であり続けるために、前座ネタも含め私が三席務めるなどして、経費を抑える努力も惜しみません。寄席はライブです。生かすも殺すも、お客さんと演者次第。同じ演目でも噺家により味わいは違い、同じ噺家の同じネタでも、いつも同様とは限りません。

 実際、私の「まんじゅうこわい」は、独自の解釈と演出を加え、大幅に作り替えました。あまりにも有名なネタが〝化け〟、お客さんにどーんと受けた時は、うれしかったですね。噺は生き物。奥が深いんですよ。

 東京や大阪でも、お客さんと演者が、長い時間をかけ、互いに育て、育てられ、「寄席文化」と呼ばれるものをつくってきたんやと思います。芸道に終わりはなく課題は尽きません。

 平成開進亭だけでも毎月三席、大ネタやネタ卸しにも挑戦し、24時間365日落語の事を考えていなければ間に合わないほどですが、落語にこれほどのめり込めて幸せです。これからも体力と気力が続く限り、一席、一席真剣勝負で、向き合っていきます。

取材を終えて

常に切磋する真摯な姿

 「メッキは剥がれる」という枝光さん。北海道はもとより、東京や大阪の名だたる寄席から引き合いも多い中、全ての高座が切磋(せっさ)の場だと話します。落語に懸ける枝光さんの真摯(しんし)な姿に、心が動くインタビューでした。


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