真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第60回 有限会社中村薬局代表取締役 株式会社マカリイ取締役会長 中村 峰夫(なかむら みねお)さん

2015年04月03日 14時15分

 中村薬局(札幌)は、創業55年の老舗です。漢方薬を中心とした調剤や医薬品販売のほか、個別の問診や健康相談を行い、体調不良や病を引き起こす根本の改善に尽力。一人一人の心身と向き合う親身な対応で、道内外から問い合わせが絶えません。中村さんは、2009年から余市町に自然薬草園を開き、農業にも着手。12年には、主にオーガニック食材の卸小売業を展開する「マカリイ」を設立しました。「食」の生産、流通、販売の背景にも精通する医療人・中村さんにお話を伺いました。

★〝ふぁーまー’S〟(薬剤師「ファーマシスト」と農業「ファーマー」の兼業)を自称する活動に関心を抱きました。意図は。

中村 峰夫さん

☆中村 医療人の一人として、私なりに使命を突き詰め、今に至ります。北大薬学部を卒業し、医薬品の問屋で4年間修業した後、87年に家業の薬局を継ぎました。

 創業以来、体調がすぐれないと、盆暮れ正月夜中にもかかわらず訪ねてくるお客さまもいたほど、地域に根付いてきた店でしたが、当時隣に大型ドラッグストアが進出し、苦しい経営を余儀なくされました。試行錯誤する中、北大薬学部の井関健教授のお声掛けで、健康食品やサプリメントによる健康被害に関わる研究チームに加わりました。

 健康ブームに火が付き始めた時期で、ご縁ありラジオ番組に出演。そこで研究での知見や薬局経営で体調不良や病に苦しむお客さまと向き合ってきた経験を基に、健康情報をご紹介したところ反響を呼び、テレビ番組への出演や新聞でコラムなどを執筆する機会もいただいたんです。その影響か、客足は伸び、新たに健康相談にいらっしゃる方も増えました。

 ある時、重症のリウマチで、医師から「完治は困難」と伝えられたお客さまが、わらをもすがる思いで訪ねてきました。問診の結果、リウマチは生活習慣病である可能性が高いと判断し、東洋医学に基づいた食事面の指導と漢方薬の処方で改善に努めました。

 すると程なくお客さまの足の痛みが和らぎ、関節の変形も治って、見違えるほど元気になったんですよ。お客さまの苦しみや痛みの原因を共に見つけ、健康を取り戻す方法を共に考え、健康の価値を分かち合える喜びを実感し、医療人としての使命を見つめ直す転機になりました。

 予防にも治療にも「医療」と「食」の両輪による診療が有効であると知られてはいながら、今の医療制度の下では行き届いていないのが実情です。取り組むべきはそこだと思いました。

 以来、西洋医学に加え、東洋医学の学びも深め、食材の栄養面だけではなく、お客さま個々の嗜好(しこう)や生活環境に有効な調理法や食べ方なども地道に研究してきました。

 薬草農園は、漢方薬を構成する植物や果実の育成環境と質の向上を目指す実践研究の場です。実際に農産物の生産にも携わり、農作業はまるで植物それぞれとの対話のようだと知りました。豊かな自然から多くを教えてもらっています。

★マカリイの実店舗「マカリイズマーケット」は、日々の食事に取り入れやすい価格でオーガニック食材などを購入でき、人気を集めています。

中村 峰夫さん

☆中村 マカリイという名称は、真狩村に由来します。真狩は、周辺市町村の中でもずば抜けて医療費が低いんです。水も抜群においしく、村民同様農産物も健康であると確信し、真狩村をシンボルに、村の提携農家から仕入れた農産物をはじめ、安全・安心な道産食材を売り出し、多くの人と健康で心豊かな暮らしを共有できればと思いました。

 おいしい農産物は、生産者さんの誠実なお人柄も反映していると思います。それだけに、ある生産者さんから、収穫量が少ない冷夏の年にもかかわらず、スーパーマーケットの都合で安価な買値を受け入れざるを得なかったと聞いた時には、心が痛みました。

 マカリイは、生産者さんを考慮した適正な金額で取引を行っています。既存の流通システムに風穴を開ける気概です。食材を卸している飲食店には、健康を考慮したメニュー開発の参考に、私の専門を通したデータなども積極的にご紹介しています。

 人は元気になる味覚を記憶するんです。つまり、心身の健康を意識した料理を提供する店には、その味を身体が憶えているお客様が自然とつきます。ささやかな働き掛けですが、飲食店業界が価格競争で窮するような事態を少しでも払拭(ふっしょく)できれば。一石を投じたいという思いです。

★「医療」と「食」の両輪で、心身の健康を探求する中村さんだからこその問題意識を感じます。

中村 峰夫さん

☆中村 健康は社会に好循環を生むという視点で「グローバルヘルス」という学問領域が世界的な関心を集めています。地球規模の環境問題に起因する健康障害やパンデミックのように、国境を越えた保健医療問題が山積する中、保健医療の課題をグローバルに共有し解決していこうという進取の分野です。

 その実践研究で、北海道の自然が生み出すおいしく健康的な食材が、注目を浴びているんですよ。社会保障費が財政を圧迫している国は日本だけではありません。グローバルヘルスの先進地として、世界に貢献し得る北海道の可能性をあらためて感じています。

 病苦を克服し、生きる力にあふれたお客さまの笑顔は、私の喜びです。今後も、多くの人が人生を元気に全うする一助となるよう、結果を出す医療人でありたい。しっかり努めていきたいと思います。

取材を終えて

健康で豊かな未来思う

 薬草農園は五感を刺激する素晴らしい環境で、いずれはグローバルヘルスの拠点に、と前向きな構想を膨らませる中村さん。雑草が茂る広大な土地で薬剤師が突然農業を始め、心配の声もあるそうですが「誰もが無理だという課題こそ成長の機会」とほほ笑みます。中村さんが思い描く健康で豊かな未来図に思いをはせるインタビューでした。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 東宏
  • web企画
  • 日本仮設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,375)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,288)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,279)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,075)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (989)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。