そのときに備える 自然災害の記憶と教訓

その時に備える 自然災害の記憶と教訓(2)

2017年10月10日 17時11分

高速交通網充実が急務
 日勝峠の被災で「大動脈」寸断

274号日勝峠清水側

今月末までの開通を目指し復旧工事が進む274号日勝峠

 国道274号日勝峠の1合目に位置するドライブイン「十勝亭」。昨年8月末の台風災害からほどなく、9月11日には店舗での営業を再開した。復旧工事の通行止めで客足が遠のくことが懸念されたが、今も観光バスが行き来している。利用者はツアーによる観光客が8割を占め、ドライブインから約5㌔に位置する道東自動車道から立ち寄っている。しかし道東道は交通事故などでたびたび通行止めになり、団体客のキャンセルが生じれば売り上げに大きく響く。神芳辰副支配人は「日勝峠が通れないとそれが一番困る」と話し、複数路線がもたらす心強いネットワークの復旧を待ち望んでいる。

 道東道4車線化を脆弱性の改善必要

 台風後いち早く復旧した道東自動車道は、道央と道東を結ぶ唯一の輸送ルートとして占冠IC―十勝清水IC間で代替路機能を発揮。国内シェア4割の十勝産ジャガイモや、道東産サンマなど農水畜産物を全国へ輸送。地域医療、観光への影響を最小限に抑えるなど高いストック効果を上げた。その一方で、占冠IC―十勝清水IC間は、2016年の「通行止め延べ時間」が267時間にもなる現状で、〝命綱〟としての効果を十分に発揮できていないとの指摘もある。

 これを解消しようと、十勝管内では道東道の4車線化を求める声が強まっている。道路期成会2団体が行った中央要望では、道東道4車線化について、16年までは千歳恵庭ジャンクション(JCT)―本別JCT間としていたが、災害時の脆弱(ぜいじゃく)性改善を強調するため、ことしは占冠IC―十勝清水IC間(47・1㌔)と限定することで要望箇所をより具体化。東日本高速道路北海道支社も、道東道の交通量増加や連休時に発生する渋滞の長距離化の解消に対応するため、同区間4車線化の検討に乗り出した。

 リダンダンシー確保を優先すべき

 一方で4車線化よりもリダンダンシー(多重性)確保を優先すべきとの指摘もある。北海商科大の田村亨教授(交通計画)は、日勝地区について「北海道の東西を結ぶ旭川紋別自動車道や道東自動車道、国道274号などに代替性があると判断されていたが、広域の被災が地域分断をもたらす初めての経験をした」と指摘。交通ネットワークの脆弱性を克服するため、道東道の4車線化を図る前に、同じ道路の中での代替性や空路、海路など異なる交通手段による物流の多重性を高めることを優先するよう主張。「まずは防災機能評価がDランクとされる地域高規格道路を先に整備し、余力が出てきた段階で4車線化を考えるべき」と唱える。

 1年余りの復旧工事を経てようやく開通のめどが付いた日勝峠。だが同様の災害に見舞われた場合、再び道央と道東を結ぶ大動脈が寸断される可能性は否めない。北海道の生産空間維持には本州に比べ立ち遅れている高速交通ネットワーク充実が急務となる。

2017年10月4日掲載


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