真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第61回 美術家 アートディレクター 端 聡(はた さとし)さん

2015年04月17日 14時06分

 端さんは、札幌を拠点に活動する現代美術家です。精神性の高い作品は海外での評価も高く、1995年から1年間、ドイツ政府管轄ドイツ学術交流会(DAAD)の奨学生として招聘(しょうへい)され渡独。帰国後は、世界を視野に、北海道の文化芸術振興にも力を注がれています。札幌国際芸術祭の発起人で、2010年には有志と「札幌ビエンナーレ・プレ実行委員会」を立ち上げ、芸術監督として開催実現を後押し。「札幌国際芸術祭2014」では地域ディレクターを担い奔走されました。「創造が社会を変える」という端さんにお話を伺いました。

★札幌国際芸術祭2014は、72日間で、動員数はおよそ48万人、経済波及効果は約59億円と推計されました。創造都市を掲げる札幌の今後につながる成果だったのではないかと思います。

端 聡さん

☆端 きっかけは、ドイツ滞在時に、古都・カッセルの現代美術展「ドクメンタ」やイタリアの「べネツィア・ビエンナーレ」など世界屈指の国際芸術祭を観て、刺激を受けた事でした。

 世界トップレベルのアーティストと地元作家による作品が一堂に会し、開催都市はアートで溢れ返ります。観光客と市民との間には温かな交流が生まれ、老若男女が思い思いにアートを楽しむ熱気に魅了されました。しかも人口20万人ほどのカッセルで、世界各地から60万―70万人が来場するドクメンタは地域活性の起爆剤として機能し、経済波及効果は相当なもの。故郷・札幌でもこんな国際芸術祭を開催したいと、強烈に思ったんです。

 帰国し早速、道内外の作家を招聘し創作活動を支援する「アーティスト・イン・レジデンス」を同志と企画し設立。海外に向けた文化芸術の発信拠点となる受け皿をつくると同時に、アートを地域に根付かせる市民交流イベントやワークショップも開催し始めました。

 05年、07年には仲間と協力し、小規模ながら、国際的なビエンナーレ(隔年開催の美術展)「FIX MIX MAX~現代アートの最前線~」を実施。実績を重ねてきました。同じ頃、札幌市長が「創造都市さっぽろ」を宣言し、「文化芸術振興条例」が制定されるんです。これを機に、行政はじめ「創造都市さっぽろ」を模索する多分野の方々と語り合う機会が増え、市の創造都市推進委員会の指定委員にも選ばれました。

 そこで初めて「札幌国際芸術祭」の原案を机上にあげたんです。大規模な構想ですから、当然、行政では、しかるべき作業に時間を要しますが、時を待たず立ち上がった「札幌ビエンナーレ・プレ実行委員会」は、芸術祭開催を熱望する民間の気概を表明する動きだったと思います。機運高まり、市民、行政、政財界、私たちアーティストを含む業界関係者などが、徐々に足並みをそろえ、「札幌国際芸術祭2014」開催に至りました。

★美術家でありながらイベントの仕掛人としても汗をかかれ、国際芸術祭に懸ける端さんの並々ならぬ熱意を感じました。

端 聡さん

☆端 ドイツ人の現代美術家で、〝現代美術の神様〟と呼ばれるヨーゼフ・ボイスが、60年代に「社会彫刻」という概念を提唱しています。創造が、絵画、彫刻、音楽などの枠を越え、社会という大きなフィールドで発揮される事こそ真の芸術であるという考え方です。

 20代で彼の思想に触れ、衝撃を受けました。思えば、芸術祭の意義を多くの人に伝播(でんぱ)するために費やした時間も作業も、私の芸術活動でした。規模にかかわらず数々のアートイベントを仕掛け、芸術の楽しみを知っていただく啓蒙(けいもう)活動に励み、未来を担う子どもたちが〝本物〟に触れる情操教育の場である事をご理解いただくよう試みました。

 美術館などの文化施設におけるチケット代と動員数による収支以外にも、観客の移動交通手段に掛かる費用、宿泊費、想定されるファストフード店の売り上げまでも徹底的に調べ、開催の費用対効果に多くの方が納得いただけるよう努めました。

 細部にわたる働き掛けが実を結び、最終的には、動員数、経済波及効果も当初の予想を上回り閉幕。関係者の打ち上げでは、思わず頭を床に付け、皆さんに感謝を伝えていました。僭越(せんえつ)とは思いましたが、何せ私は言い出しっぺでしたから。多くの方々の心意気とご協力を思い、感無量でしたね。

★札幌国際芸術祭は、端さんはじめ、多くの方々の創造力が喚起され、実現したのですね。今後の展望は。

☆端 貨幣経済が優先され、世界のどこかで今もなお戦争は続いています。人間が自然の恩恵に対する感謝を忘れむさぼった結果が、行き場のない放射性廃棄物の山。未来をどのようにつくり、現実化していくのか、私たちは岐路に立たされています。

 次なる構想は、未来の足掛かりとなる「創造」を発信するアートプロジェクトです。舞台は、日本であれば「北海道」と「沖縄」に注目しています。いずれも豊かな自然に恵まれた地域。また、産炭地の盛衰や、戦後のアメリカ軍による沖縄占領も記憶に新しく、時代に翻弄(ほんろう)された〝痛み〟を思い図る、意義深い拠点になると考えます。

 ヨーゼフ・ボイスは「創造は資本であり、人間は誰もが未来を創る芸術家である」と言いました。多くの人が、その境地に目覚める一助になれば。アートを通し、今を生きる一人として、できることを具現していきたいです。

取材を終えて

情熱と信念に心が動く

 小学生のころから芸術家になると決めていたという端さん。数々の名画廊やプロデューサーに自ら作品をプレゼンテーションし、24歳の時、東京で初個展を開催。会場は、当時世界のアーティストも注目していた「佐賀町エキジビット・スペース」で北海道の無名の新人ながら、思いがけない大抜擢だったそうです。芸術の神髄を求め行動する端さんの情熱と信念に、心が動くインタビューでした。


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