真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第63回 株式会社オチガビワイナリー専務取締役 落 希一郎(おち きいちろう)さん

2015年05月15日 14時03分

 近年人気が高まる日本ワイン(国内で育ったブドウで造られた純国産ワイン)。落さんは、日本ワインの黎明(れいめい)期ともいえる頃から、ワイン造りに従事してきました。1974年に渡独し、西ドイツ国立ワイン学校を卒業後、北海道ワイン(本社・小樽)の設立や、斑尾高原農場(長野県)のワイン事業の立ち上げに携わり、92年には、ワインの本場・ドイツに倣うカーブドッチ(新潟市)を開設。西洋庭園を設え、レストランや温浴・宿泊施設なども併せ持つ、年間50万人ものファンが訪れるワイナリー事業を築きました。2012年にオチガビワイナリー(余市町)を始動した落さん。新天地で、ナパ・ヴァレー(米国カリフォルニア州)を模す一大醸造地構想に意欲を燃やしています。

★カーブドッチは、落さんの先見で事業を強化し、日本ワインのブランドとして広く知られるようになりました。オチガビワイナリーでの新展開が注目を集めています。

落 希一郎さん

☆落 ドイツでは、ワイン醸造用のブドウを自家栽培、自家醸造する〝本物〟のワインづくりを学びました。その頃の日本にも「国産ワイン」と呼ばれるワインはありました。しかし内実は、輸入した濃縮ブドウ果汁を醸造したり、輸入ワインを国内で瓶に詰め販売しているものが主で、実は今もその状況は続いています。

 また当時、拡大路線の一途だった日本には、ドイツのワイン農家のような、確かな品質のワイン造りを旨とし、身の丈にあった範囲で生産・販売する商売への関心は薄く、欧州のワイン造りに、真の豊かさを思い知りました。

 初めてナパ・ヴァレーを訪れたのも留学時代。70年代のナパは見渡す限りの小麦畑で、ワイン用ブドウの畑を持つワイナリーは、20―30軒点在していた程度でした。

 注目すべきは、どのワイナリーも、その傍らに親類や弟子たちによる同業の開業を奨励していた事で、ナパが一面ブドウ畑になる将来は遠くないと直感。思った通り、はやくも90年ころには400軒以上のワイナリーがひしめき、わずか数十年で世界有数の名醸地に発展しました。見聞を通し、「日本で、欧米のようなワイナリー地帯を志向した〝本物〟のワイン造りを根付かせたい」という構想は、私の人生をかけた夢になりました。

 カーブドッチを経て、その集大成は余市・仁木地域で遂げると決めています。ここは、明治開拓時から果樹栽培の中心地。優れた栽培環境であることはもちろん、栽培ノウハウも蓄積され、現在はワイン醸造用ブドウの日本一の生産地です。

 山を臨み海に面した立地は観光客を引き付け、ワインに欠かせない山海の幸も豊富。近く、新千歳空港と余市を1時間で結ぶ高速道路の開通も予定され、国内外からの集客を見込む基盤も整いつつあります。世界中のワイン愛好家が集うリゾート地として、独自の経済圏を形成しているナパに勝るとも劣らぬポテンシャルがあるのです。

★創業間もなく、オチガビワイナリーは、農林水産省の6次産業化支援ファンドの認定を受けられました。

☆落 地方の過疎化が進み、全国の自治体の半数以上の消滅が憂慮され、余市・仁木地域も例外ではありません。12年に国は、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す事業を推進するべく「6次産業化法」を成立させました。

 今回のファンドは、従来の補助金や低金利融資ではなく、国が当社の株の半分を所有する「出資者」となる支援。地域振興に寄与する事業として国に認められた事になり、身の引き締まる思いです。

 また、余市・仁木両町や地元経済界、金融機関などと連携し、国の助言もいただきながら、当社を核にワイナリーゾーンを拡大する「地方創生プラン」の作成も進めています。

 軸は、地域に新興ワイナリーを集積させる〝ナパ化〟により、多くの雇用と収入をもたらす具体案です。これが通り、50億円の地方創生交付金を受ける事ができれば、構想は大きく前進するでしょう。

 さらに、日本ワインの好評を受け、世界のワイン生産国同様、日本でもラベルに原料の産地の明示を義務付けようとする動きがあります。余市・仁木地域のブランド力を高める好機が巡ってきていると感じます。

★企業経営に留まらない落さんの視点と行動力に心打たれます。

落 希一郎さん

☆落 若い頃、実存主義に傾倒しました。フランス人の思想家ジャン・ポール・サルトルが説いた「アンガージュマン(社会参加)」の思想です。一度きりの人生です。私は、周囲の人、そして地域に強く関わり生き抜きたいと思っています。

 一昨年、オチガビワイナリーのレストランと醸造棟が完成し、昨年から100%自家ブドウによる醸造も始まりました。構想の起点となる自社ワイナリーの経営を盤石にするよう努めると同時に、目下、ワイナリー経営のスキルを総合的に学べる教育機関の設立のためにも奔走しています。

 ワインの本場から外国人講師を迎え、ここから毎年15―20人を輩出し、今後10―20年のうちに、新興ワイナリーを200軒増やします。先立って、既に開業が決まっている6軒の中には、DACグループや株式会社キャメルコーヒーという大企業も名乗りを挙げているのです。大資本による大掛かりな開発も促し、構想に拍車を掛けます。

 仙人気取りでは地域を再興できません。これまでも常に皆と議論し行動し、有言実行を積み重ねてきました。不可能な夢は掲げません。人生をかけた「本物のワインの里づくり」です。思い切り挑み、大いに楽しみたいと思います。

取材を終えて

揺るぎない信念で挑戦

 ドイツ留学時代、自己主張をよしとする同級生たちに刺激を受けたという落さん。「個」を生かす環境で、自分を信じる強さが育まれたと話します。揺るぎない信念で挑む、落さんの描く未来図に、胸躍るインタビューでした。


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