まきさんは、札幌市出身です。2012年に、ビジネスマン・ミュージカル「WAY OUT」と子役ミュージカル「スコア!」を立て続けに発表しデビュー。以来、新幹線清掃の現場を描いた「新幹線おそうじの天使たち」(13年)や、経営危機に陥った十勝バスの再生物語「KACHI BUS」(14年)など、話題作を次々に手掛け好評を博しています。ことしは「ありがとう農法」で知られる洞爺湖町の佐々木ファームを舞台にした農業ミュージカル「DAICHI」の公演(東京8月5―9日、札幌9月4、5日)も予定しています。〝異色〟のミュージカル作家ともいわれ注目を集める、まきさんの世界観と活動の背景について伺いました。
★ミュージカル作家になったきっかけは。
☆まき 子どものころから音楽に親しんでいました。3歳でピアノを習い、周囲にも音大進学を期待され、中学生で教則本に添うひととおりを弾けるほど上達していましたが、即興演奏が好きで、音大受験のための練習には興味がわかず、進路を変更。高校卒業後は金沢大学の法学部に進学し、大学生活では一人住まいに電子ピアノを置いて、自由に弾き続けていたんです。
地元での就職を希望し、当時札幌に本社があった「株式会社ハドソン」に新卒で入社。ゲームソフト開発のサウンドチームでゲーム音楽の作曲や編曲を担当していました。仕事は楽しかったものの、他業界への好奇心に駆られ、ほどなく東京の経営コンサルティング会社に転職。それが「起業家輩出」を理念とする元気な企業で、私も背中を押されるように、得意な「音楽」で起業を考えるようになりました。
勤務の傍ら、現役のミュージシャンが講師を務める専門学校にも通い、そこで知り合った音楽業界の人たちの依頼で、CM音楽やゲーム音楽を作る副業も始めたんです。
結婚を機に同社を退職。子育てのために通ったソニー教育財団幼児開発センターで、人格形成と音楽教育との関連性に興味を抱き、指導資格まで取得しました。そのメソッドを広めようと「0歳からの音感開発」を掲げた音楽教室を開いたんです。教室の子どもたちは5歳にもなれば、お絵描きをするかのように作曲できるようになり、発表会では、私がオリジナルで書き下ろしたオペレッタで、彼らの創造性を思う存分発揮してくれました。
発表会が好評で、周囲の勧めもあり、子どものためのミュージカルスクール「東京ミュージカルキッズ」を開校。講師は現役の役者さんにお願いし、舞台の照明、音響、美術、共演者も、ミュージカルを情操教育に生かす事業に共感してくださったプロの方々でした。
それほどの布陣でしたから、舞台のクオリティーは回を重ねるごとに高まりました。「スコア!」は、そもそも東京ミュージカルキッズのための作品でしたが、業界関係者の目に留まり、プロの子役を起用した舞台化が決定。思いがけず、ミュージカル作家の道が開けました。
★いわゆるブロードウェイ発祥の作品とは違う、身近なエピソードや日常の人間模様を描くまきさんのミュージカルは、〝異色〟ともいわれ支持されていますよね。
☆まき 演劇やミュージカルを専門にしていたわけではない私の持ち味が生きるのは、背伸びせず、自分の実感や実体験を投影する作品であったり、ごくありふれた日常を題材にしたものではないかと考えています。
「スコア!」は、子どもが本来の自分をみつめ、成長を遂げていくストーリーです。子役ミュージカルでありながら大人にも通じる精神世界を描き、「自分が舞台に立っているかのように共感しました」というありがたい反響もいただきました。おかげさまで、今夏も公演を予定しています。
「WAY OUT」は、会社員時代の実感や見聞きした悲喜こもごもをリアルにつづったビジネスマンの人間ドラマです。「スコア!」の舞台化決定を機に、私が企画し、「スコア!」に先行して上演。初公演以来、毎年興行しています。
業界のある方は「50年この仕事をしてきたけれど、WAY OUTは、個人的に涙が出た初めての舞台でした」と、言葉をかけてくださいました。その方のご指名で、「新幹線おそうじの天使たち」や「KACHI BUS」を手掛ける機会もいただけたんです。
★まきさんのミュージカルには、観た人それぞれが、生き方や人生について、自身に問い掛けるような力があるのですね。
☆まき 「人は何のために生きているのか」という事に関心があります。私が作るミュージカルや音楽が、誰かの仕事や存在の価値を伝えるお役に立てていたら本望ですね。社名「ユアストーリー」に込めた思いです。
それに台詞(せりふ)は音にのせると伝わり方が違います。ミュージカルの情報量ってすごいんですよ。ミュージカルしかり、音楽や言葉を駆使したエンターテイメントを、社会や経済を活性する商品やサービスとして捉えたビジネスを確立する新たな流れも模索中です。
今の仕事は、皆さんが与えてくださった私の役目だと思っています。求めていただく限り、喜んでくださる方がいる限り、真摯(しんし)に取り組んでいきたいです。
取材を終えて
〝人生〟の尊さを伝える
「スコア!」には、全ての配役にソロ(独唱)と台詞があります。主役、脇役の隔てなく出演者それぞれにスポットが当たる舞台は子役たちの人気を集め、オーディションの倍率は10倍にもなるそうです。ミュージカルを通し、さまざまな「人生」の尊さを伝える、まきさんの深い洞察と公平な視点を知るインタビューでした。