型枠大工への道 <下> 3人が入職決めるも…~若者確保、緻密な戦略必要~

2015年06月26日 11時23分

4カ月、400時間の訓練を締めくくる修了式

 4カ月、400時間の訓練を締めくくる修了式が6月12日、帯広職業能力開発センターで開かれた。帯広地方高等職業訓練校の星哲博校長は「戸惑いもあっただろうが、現場作業の手伝いというレベルになったと思う。しかし、企業実習で見た先輩のような一人前の職人になるには、まだまだ努力が必要」と忠告した。

 講師を務め、彼らを見守り続けた北海道型枠工事業協同組合十勝支部の国枝恭二支部長は「皆それぞれの進路があるだろうが、ここで学んだ4カ月は決して無駄にはならない」と激励して見送った。

 修了式の2日前、安藤健太さんと清水幸司さんは、型枠大工になるかどうか決めかねていた。「朝が早いから」「夏は暑いし冬は寒い」と冗談めかすが、本音は出ない。「次の仕事は」と水を向けても言葉を濁すだけ。結局2人は、別の進路を歩むことにした。

今どきの若者の気持ちが分かる人がいるから

 一方、倉金技建で学んだ磴結貴さんと落合拓海さんは同社への就職を決めた。2人を教えた倉金幸治常務の人柄にひかれたのが理由だ。「働きやすい場所か、楽しくやれるかどうかで決めた。今どきの若者の気持ちが分かる倉金さんがいるから、ここで働きたいと思った。倉金さんが鉄筋をやっていたら鉄筋工になっていた」と磴さんは心酔する。

 17歳の落合さんは、4つ年上の磴さんと一緒に働けることも決め手になったという。「よほどのことがなければ、一生このまま型枠で食っていく」と目を輝かせる。

 型枠大工の経験者である渡辺任世さんは五十嵐建設に入る。「年の近い人がいて働きやすいと感じた。型枠の仕事は好きなのでずっと続けたい」という。

 共に同社で研修を受けた春木佑充さんは進路を保留した。五十嵐勉社長と待遇面などを話し合い、「妻と相談して決める」と答えた。年によって仕事の増減があり、通年雇用が保証されないなど、人生設計を組み立てにくいことが気掛かりのようだ。

型枠大工という仕事を体験した上での判断

 6人全員が入職しなかったことについて国枝支部長は「わずかかもしれないが、昨年の講座で3人、ことしの講座で少なくとも3人が業界に入ってくれた」と評価する。

 高齢・障害・求職者雇用支援機構の福嶋正人開発援助担当調査役は「希望は全員が就職することだったので残念だ。型枠大工という仕事を体験した上での判断なので、やむを得ない」と肩を落とす。「それでも、ほとんど欠席せずに受講したのは、どこかに魅力があったからでは。資格取得も大きかったと聞いている」と話し、「全国でいろんな職種で人材確保が厳しい中で、一人でも多く建設業に入ったことは訓練の意義があったと思う。機構としても建設業の人材確保に向けてノウハウを生かしたい」と前を向く。

 同機構は、受講者と、インターンの受け入れ先や就職先に聞き取り調査をし、訓練内容や習得した技術を検証。年度内に検証結果をコンソーシアムに報告する予定だ。全国で試行した訓練をまとめた報告書に盛り込み、今後、都道府県が実施する職業訓練に向けた参考資料とする。

地方都市の人口減少問題と同じ構図

 企業実習の取材で五十嵐建設を訪れた際、渡辺さんと春木さんを指導していた林延行さん(66歳)に、なぜ型枠業界に若い人が入らないのかを尋ねた。「昔からいわれるように危険、きつい、汚いという3K職種。若い人が悪いわけではない。技能の奥深さに魅力を感じて、突き詰めることにやりがいを見つけられなければ長続きしない」

 職人歴50年の林さんは、文字通り半世紀にわたって業界の浮き沈みを見続けてきた。「おれたちが業界に入った頃は、そこの職場に放り込まれたらそこでしか飯が食えなかった。今は、ほかにも仕事の選択肢がたくさんある。辞めていくのも無理はない」と話す。

 これは型枠業界に限った話ではない。少しでも条件が良いところに人が流れるのは、地方都市の人口減少問題と同じ構図だ。単に魅力を発信するだけでなく、人を集め、引き留めるために緻密な戦略を練らなければならない。地方の創生と業界の創生のスキームは似ている。

 賃金だけでなく、居心地の良さを感じて型枠業界に〝移住〟した3人がこれからどう育っていくのか。それに続く若者が現われるのか。興味深く見守りたい。


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