管内には、土木や工業、電気、機械などの工科系学科を持つ高校や大学がない。以前は、電気科と機械科を置く道立稚内商工高があり、普通科高校を卒業した生徒が札幌理工学院に進学し、卒業後に管内企業に入社するという進路があった。しかし、稚内商工高と札幌理工学院がともに閉校し、専門知識を持った生徒を確保するルートは年々、細くなっている。
このため、管内企業は普通科の生徒や他産業からの転職者を技術者として雇い入れ、会社で一から育成する必要に迫られている。採用担当者は、非工科系の高校や大学に足を運び、担当教諭や生徒に仕事内容や将来性をアピールするが、ここで壁となるのが生徒自身の専門知識や経験の不足だ。進路指導を担当する高校教諭は「知識も資格もないため、長く業界で働けるか不安に思う生徒は多い」と課題を口にする。
普通科生徒の確保に向け、安心して入職できる育成環境をアピールしたいと考える一方、公共投資や民間投資の減少が続いており、企業単体で対応するのは難しいのが現状。担い手を確保するために、育成環境を整えたい-。そこで白羽の矢が立ったのが稚内建協だった。全道的にも例が少ない、業界団体が主体となった1カ月にわたる若手技術者研修会を企画した。
研修会のコーディネーター役を人材育成サポートのクラーク総研(本社・札幌)に依頼。同社が招いた外部講師陣が、品質・安全・工程・原価・環境の5大管理、測量・図面・CADなど基本技術や現場実習、安全・衛生・環境管理や法規のポイントなどを解説し、必要な基礎知識を身に付けるカリキュラムとなっている。
対象者は、入社1-3年目の若手技術者。今春、高校を卒業したばかりの若者や、転職を機に別業種から建設業へ飛び込んだ青年。事情も経験も異なる21人が、業界の期待を背に研修へ臨んだ。
入校式で参加者に激励の言葉を贈った稚内建協の藤田幸洋会長は「この研修会で学んだからといって、すぐに現場の第一線で活躍できるわけではないが、仲間と支え合って学び、勉強を通して成長し、将来は日本地図に載る大きな仕事をやり遂げてほしい」と、参加者に期待を込めたまなざしを向けていた。
(2015年10月6日掲載)