「会社の作業服を変えようと思うんだけど、かっこいいのが全然ない」。良案が出ずに停滞気味だった、30周年記念企画会議の雑談時に出たメンバーの一言。そこから「かっこいいものを新しく作ってしまえばいいのでは」「ファッションショーなんてどうだろう」と次々にアイデアが湧きだした。
大会の事業委員長としてショーを指揮した吉井建設(本社・大空)の渡辺忍専務(38)は「何十年も会社を続けようと思っている後継者による団体。若い人に業界への興味を持ってもらい、担い手を増やしたいという気持ちは皆同じだったと思う」と振り返る。
自社では営業のほかに採用も手掛けている。「工業高生を募集しても集まらないため、普通科にも声を掛けている。生徒は業界に興味がなく、先生や親の理解もない」「面接して仕事内容を伝えると、やりたい職種と違うと断られたこともある」とこぼす。
IT業界から転身した5年前は「許可業種が細分化されていることや元請けと下請けの分業など何も知らなかった」という渡辺委員長。何も知らない若い人に建設業界の仕事や魅力をPRする「入り口が必要」と痛感するからこそ、かっこいい作業着のファッションショーというイベントを強く推した。
方向性が固まると、道建青会の地方11組織から1人ずつモデルを選んだり、最優秀賞のデザインはオホーツク二建会の公式ユニフォームにするといった細目を決めた。デザインや制作は、ターゲットと同世代である20歳前後の若者に依頼しようと、北海道ドレスメーカー学院(札幌)に相談。「着る人のことを思った服を作ることを学生に教えたい」との学院の思いと合致し、快諾された。
建設現場で着る作業着として最低限の機能性を求めた。「作業着の制作実績がなく、どういうものか分からない」という同学院の指導教員に作業着を渡し、建設現場の状況と仕事を説明。動きやすい素材、外の作業で汚れやすいため繰り返しの洗濯に耐えられるような頑丈な縫い合わせ、野帳が入るポケットなど、毎日着ることができる「実用服」でなければならないことを説明した。
かっこいいだけでなく機能性が伴わなければいけない。ハードルは上がったが、6月上旬の選考会には73点のデザイン案が寄せられた。着物地のスリットや和服風の前合わせ、ミリタリー柄のパンツなど普通の作業着とは違うデザインばかりだったため、渡辺委員長は「本当に着て動けるのか」と不安にかられた。
しかし、添えられていた説明文には、大胆なスリットと合わせは動きやすさと着脱のしやすさ、派手な柄や色は視認性を高めて安全を確保するといった観点からのデザインであることが詳細に書き込まれていた。
学生は作業着を分析するだけでなく、建設業に携わる親族や友人から話を聞き、必要と思われる機能を調べたのだという。「デザインばかり気にして建設業に興味はないと思っていたが、逆に提案されるほど勉強してくるとは思わなかった」(渡辺委員長)。不安は一掃され、感謝の気持ちとともに「建設業の仕事を魅力的にする協力をしてほしい」との思いが伝わった喜びをメンバーとかみしめた。
若い人を建設業に振り向かせたいという熱意は、同世代のデザイナーの卵たちに伝わった。次は、その思いを観客にどう伝えるかという課題がメンバーに与えられた。
(2015年10月7日掲載)